翔べ!ほっとエイジ(フルバージョン)「お金の人生会議」を実践する司法書士、福村雄一さん(上)ACPと連携、成年後見、家族信託などで認知症の親を持つ家族を支援

超高齢化、デジタル化、グローバル化が進み、物の見方や価値観が大きく変わろうとしている人生100年時代。そんな人生100年時代をゲストとともに語り合う。  

今回のゲストは、「お金の人生会議」を実践する司法書士、福村雄一さん(ふくむら・ゆういち)さん。  

福村さんは、2006年神戸大学法学部を卒業。2017年に司法書士登録。2023年司法書士法人福村事務所を設立。2022年に日経BPから共著で「ACPと切っても切れないお金の話」、2024年4月にGakkenから「相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全」を出版した。

司法書士として、遺言作成支援、死後事務委任契約、任意後見契約、家族信託などに取り組むだけでなく、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)にも詳しく、医療介護職との連携も進めている。  

ACPは、人生の最終段階に医療、ケアをどういうふうにするのかというのを家族や医療従事者と話し合うということ。

もともと医療従事者が使っていた言葉だが、最近では『人生会議』というネーミングで一般の人にも広く知られるようになっている。

法律手続きを手掛ける司法書士の福村さんが、そのACPに関心を持っているのはなぜか。

 福村さんは言う。「誰しもエンディングに向かっていくわけなんですが、その中で何を大切にしていて、どうしていきたいかというところは、医療やケアの選択に密接に関わってくる」。

この、何を大切にしていて、どうしていきたいかというところが、司法書士が手掛けるALP(アドバンス・ライフ・プランニング)で、ACPとは切ってもきれない関係にあると福村氏は指摘する。

 福村氏は「繰り返し、繰り返し、若いころからーー40代とか、60代とか、退職手前といった段階から、第2の人生、今後の人生をどのように積み重ねていきたいかということを自分自身で考え、そして、自分が大切にしている方々と共有する必要がある」と主張する。

 繰り返し、繰り返しということに関しては高齢者が認知症になり、判断能力が衰えても、後の判断が優先されるのか。  

これについて福村さんは「尊厳死宣言の証書が仮に残っていたとしても最終段階においてご本人が意思を発せられ、それが明確に届くものであればそちらが優先されると考えます」とし、遺言についても「認知症という診断が下りていたとしても、新たに遺言書を作成することは可能です。判断能力が低下して、成年後見制度を利用中の方は、一定の条件をクリアしていれば、遺言を残せると民法で定めています。医師の立ち会いが必要といった条件はあるのですが。法律上も予定されていることなので、認知症になった後も有効な遺言書が作れ、そちらの方が日付が後であれば日付が後の方が優先されますので、結論としては認知症になった後の遺言に従って誰に何を、どれだけ残すかと言った意思を手続きに乗せていくことは可能だと思います」と答えた。

 『成年後見』については、成年後見、介護保険と共に制度がスタートして20年以上経っているのに、一般の人たちにあまりなじみがない。それはなぜなのか。

 福村さんはまず、成年後見制度について基本的な説明を行った。

 「成年後見制度は、基本的に2つの仕組みで成り立っています。1つ目が法定後見制度。もう1つが任意後見制度です。法定後見制度の中には3つの類型がありまして1つ目が、成年後見。2つ目が保佐、3つ目が補助です。この累計は制度を利用する高齢の方の判断能力の程度によって、決まってきます。一番、ご本人の判断能力が低下している状態に対応しているのが成年後見。中くらいが保佐で、まだ、ご本には、ある程度はしっかりしているのだけれど、重要な契約を行うような場面では、お手伝いが必要という状況に対応するのが補助となります」。

 成年後見人に関する具体的な質問。  後見人になる人は、家族でも大丈夫だが、契約に詳しい人でないと肝心のときに後見人の役割が果たせないということになる心配もあるので、司法書士や弁護士が後見人になることが多い?

 福村「専門職という形で関わっているのは司法書士が一番多いと思います。ご家族ももちろん後見人になることができます。親族がいらっしゃる方は、親族が後見人になることが推奨されるという流れにはなっています」。

 「ちょっと前は、家族・親族はなかなか後見人にはなれない、ほとんど後見人に選ばれてない、といった話が広がっていました。『後見制度を利用すると家族でサポートできなくなってしまうから、家族はは後見制度を利用しない』と言われていた時期があったのですが、最高裁判所は『親族を選ぶ方向になっています』というメッセージを最近は発信しているようです。法定後見を決める際には、『この人を選んでください』と候補者を決めて裁判所に伝えることができるんです。書類上、候補者として親族が書かれているケースにおいては、8割ぐらいは親族が選ばれているんです」。

 後見制度のうち、法定後見は、高齢者が認知症になってしまった後に裁判所が後見人を決めるのに対し、任意後見は、まだ、高齢者の判断能力がある時に決められる。それならば、例えば40代くらいから自分が認知症になった時の対策として、後見制度を考えておきましょうということならば、任意後見という選択肢になる?  

福村「その通りです。任意後見は契約で決めますので、 自分の判断能力が低下した時に誰にサポートしてもらいたいかということを決めることができます。ですから任意後見を頼みたいという人がいれば、公証役場で任意後見契約を結んでおけばいいのです。法定後見も任意後見も、どちらも判断能力が低下した方をサポートするための仕組みなんですが、法定後見は利用の申し出も実際の利用も判断能力が低下した後にスタートするものです。一方、任意後見は『予約』のイメージで、契約をした時点ではその内容は、発動しないんですね。この後見制度がいつ発動するかというと、後見をお願いする人の判断能力が低下した後になります。前もって、判断能力が低下するのに備えておくというのが任意後見であるといえます」。  

福村「後見人の役割は、日常生活をサポートする意味合いで幅広くなっています。ですのでキャッシュカードをお預かりして、お金の出し入れをし、支払いをするということはもちろんありますし、介護施設に入る時の契約も代理で結ぶ形になります。任意後見の場合は公正役場というところで公正証書という形での契約書を作るんですが、その中に代理権目録と言って、後見人に管理してもらったりサポートしてもらったりする内容を10個、20個という形で箇条書きします。箇条書きに盛り込まれていることを代理人として実行していくことになるので、日常生活で困り事が起きないように作っていくのが基本です。後見人が、大事な書類は受け取れるようにしますとか、仕事で必要な郵便物は開けていいですよとか、ですね。日常生活での買い物のところサポートというのもありますが、ついていくとうことではなく、やはりお金回りのサポートになります。買い物に必要なお金が足りなくならないようにするとか、です。ただ、後見制度でも任意後見の場合は、契約の取消権がありません。法定後見と任意後見にはそういった違いがあります」。  

そして、改めて、「サポートするのは家族ではだめなのですか。そこは任意であれ法定であれ、後見人がいたほうが心強いということですか」という質問。

 福村「そのあたり、これからどう法整備をしていくか、どうコンセンサス取っていくかというタイミングになっているのだと思います。親が子供に、管理をお願いね、と頼んだ場合、暗証番号を聞いておいて、お金を引き出したり、振り込みもしてあげたりするのは事実上認められていますよね。もちろん、親が子供に任せると言ったとしても、勝手に預貯金を引き出したりするのはだめなんですが、きちんと管理をしてあげることを正式に認めるのかどうかは難しいですね。権限がある人が引き受けた方がいいのですが、これからどうしていくかを決める過渡期なんだと思います」。

「ずっと、ご本人をサポートする仕組みなものですから成年後見の仕組みがスタートしてからいつまで続くのかというと、ご本人が亡くなるまでなんですね。一生続くということになりますで法定後見の場合でも任意後見の場合でも、近しい関係にある人のためとはいえ、仕事として管理をすることになるわけですから、収支の状況はどうなっているかとか、どこにいくら支払ったとかを裁判所に報告しなければならないわけです。家族などが後見人になる場合、そうしたことが負担になると言われているので、改正の方向性としては、ずっと、ではなく、ここぞという場面だけ、代理を認めるというような形、スポット後見というのですが、そんな形が検討されています」。

 成年後見制度が広がらない理由について福村さんは理由は2つあると言う。1つが費用負担の問題。「お持ちの資産によって、大体いくらになるという幅があり、それを家庭裁判が決定するという形になります。後払いなのですが、だいたい月額にすると、2万円とか3万円になります」。

 もう1つが管理の期間、つまり報告をしなければならない期間が長い。「家族の立場として そんなに毎月毎月、動きがあるわけではないのに、どこまで報告するんだっていう気持ちの負担が大きいのかなと思ったりします」。  親の財産などを管理する手法としては家族信託もある。  

福村「例えば、親の所有する建物が親の名義のままで、親が高齢になって判断能力が衰えてくると、いざ売りたいと思ってもそれが難しくなったりします。そんな時は後見制度を利用するという解決策もありますが、家族信託も解決策になります。親が子供と家族信託という信託契約を結ぶと、建物の名義が子供になります。これは贈与とか売買ではなく、『子供に託しました』という形で契約をし、持ち主を変えます。不動産登記で子供が持ち主になりますので、子供の判断で、適切な時期に必要となった時に建物を売却したり、他の人に貸したりできるようになります」。

<プロフィール>福村雄一(ふくむら・ゆういち) 司法書士 司法書士法人福村事務所・東大阪プロジェクト代表 2006年:神戸大学法学部卒業 2011年:司法書士登録(大阪司法書士会登録第3999号) 2019年:一般社団法人民事信託監督人協会理事就任 2020年:人生の最終段階における医療体制整備事業本人の意向を尊重した意思決定のた めの相談員研修(EーFIELD修了) 2021年:一般社団法人おひとりさまリーガルサポート理事就任 2022年:大阪大学社会ソリューションイニシアティブ(SSI)基幹プロジェクト外部 協力者

著書:「ACPと切っても切れないお金の話」(共著、日経BP)2022年 「相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全」(Gakken)2024年 司法書士業務を通じて、医療職・ケア職と法律職の連携強化を図っている。医師会や自治体、関係団体からの研修講師の依頼も数多く受けている。活動拠点の1つである東大阪市において、在宅医療のクリニックのドクターと共に地域包括ケアシステムの実装を目標に掲げ、東大阪プロジェクトと銘打った地域活動の代表者も務める。

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