ゆうパックで「送骨」が当たり前に…墓じまいして「3万円で永代供養」サービスの利用者が増えている(現代ビジネス) – Yahoo!ニュース
様変わりした墓事情
台風7号の影響は受けたものの、今年はコロナ禍も明けて、お盆を故郷で過ごす人が増えた。お墓参りに行って、掃除をして花を供え、手を合わせた人も多かっただろう。
しかし「墓事情」は様変わりである。
従来型の菩提寺や公営墓地での墓石を購入しての建墓は減少し、骨壺を保管してもらう自動搬送式の納骨堂、ガーデニング形式の樹木葬、宗派を問わずに管理費なども不要の永代供養(合祀)墓などが増えた。
墓を持たず、粉骨のうえ海上散骨する遺族もいる。
墓事情は、葬送儀礼の変化と連動している。戦後経済成長とともに全国に普及したのが、まず通夜を行って故人を偲び、翌日の告別式で別れを告げる告別式形式だった。
ところが、90年代に入ってからの構造不況や会社と社員の関係の変容などもあって、多くの参列者を迎える告別式は減り、かつて「密葬」と呼ばれたものが「家族葬」として認知されるようになって小規模化、簡略化されていった。
それを“後押し”したのがコロナ禍で、臨終に立ち会える人は厳選され、葬儀の簡略化と家族葬が当たり前となった。
既に、ネットの普及でかつてはブラックボックスだった葬儀の「見える化」が進んでいたが、それが葬儀・告別式を1日で行う1日葬、告別式を行わず火葬場で故人とお別れをする直葬の普及で、低廉化に拍車をかけた。
そうした葬送事情に連動、究極の低廉墓と言えるのが、3万円で永代供養料まで含む送骨サービスだろう。
主にNPO法人が、経済的事情や家族関係の事情で墓地埋葬が困難な人向けに宗派不問で受け付ける。
墓じまいが増えた結果
真清浄寺(新宿区)に設置されている永代供養墓「ひかりの塔」/筆者撮影
提携しているお寺への「持込」、宅配業者で唯一、お骨を受け付ける日本郵便のゆうパックを使った「送骨」、法人スタッフがお骨を取りに行く「迎骨」の3種類があるが、「送骨サービス」というネーミングの普及もあって、「3万円の送骨による永代供養」として認知されている。
今、ネットで「送骨」「3万円」と入力すれば、サービスを展開する寺院、NPO法人、株式会社などのホームページで溢れている。
処理に困ったお骨を、合祀墓を持つ寺院に持ち込む、あるいは送って供養するサービスは、かなり前から存在していた。
しかしそのサービスを、ホームページを開設のうえで、3万円という低価格を設定して全国に呼び掛けたのは、NPO法人「終の棲家なき遺骨を救う会」(東京都新宿区)が初めてだった。
NPO法人の設立認証は2013年3月なので、サービス開始から10年5カ月が経過した。
梶山正伸理事長に究極の低廉供養である送骨サービスの変化を聞いた。
「この10年で檀家さんの墓じまい(改葬)が増えました。少子化のなか墓を守ってくれる縁者がいない人は改葬せざるを得ず、『誰にも迷惑をかけたくない』と樹木葬や、それ以上に安価な永代供養墓を選択する人がいる。血縁関係の薄い人、生活困窮者が増えているのも実感します。 そういう人にお墓の準備はできない。『終の棲家なき』というネーミングはそこから生まれており、私どもは送骨サービスで利益を得ようという考えはありません。類似のサービスを展開する寺院、法人がずいぶん増えているのは、そうした方々の需要が増えている表れでもあります」
終の棲家なき遺骨を救う会が提携し永代供養墓にお骨を納めるのは、真宗大谷派の南春寺(新宿区弁天町)と法華宗の真清浄寺(新宿区西五軒町)で、これまで約1万3000柱(遺骨の単位)を納骨してきた。
サービスを展開するまでの梶山理事長の過程もまた日本の墓事情を伝える。
お墓の価格破壊が進んだ
お墓に縁を持つきっかけは、自身の父親が2001年に亡くなり、その「遺言」によって「梶山家の墓」を石代と永代供養料を合わせ560万円で建てた時だった。
バブルは崩壊していたが、「墓」は「家」と同じく建造することが一種のステータスで、郊外の霊園を求めるツアーなどが組まれた最後の時代。
おそらく建墓も最高額だった。
その経験も踏まえて、納骨堂の建立を企画していた都内古刹の僧侶と知り合ったことをきっかけに葬送ビジネスに参入。
それまでのビジネス経験を活かして寺院コンサルタントとなり、直面したのが「お墓が売れない時代の寺院の在り方」と「お墓を買えない人たちの増加」だった。
「葬儀の価格破壊は、ネットで葬儀業者を紹介する『小さなお葬式』(運営は株式会社ユニクエスト)が、09年にWebサービスを展開した頃から本格化しました。これが進むのと並行して、お墓の価格破壊も始まりました。ちょうどその頃、NHKが『無縁社会~無縁死3万2000人の衝撃』を放映し、高齢化、孤独化、無産化のなかでの死とその後の納骨も社会問題化したのです」(梶山氏) 檀家の減少、改葬の増加、直葬など葬儀の簡略化による寺院経営の悪化にコンサルとして取り組むようになり、その双方を満たすサービスとして「送骨」が浮上、3万円は双方の要望を満たすギリギリのラインとして梶山氏が設定。ほぼスタンダードとなった。
葬送の方法が多様化するなか、送骨サービスより前に、散骨サポート業を始めた人がいる。やすらか庵(千葉県千葉市)の清野勉代表である。
「寺院が困った人の助けになっていないことに疑問を抱き、02年にやすらか庵を設立しました。少子高齢化のなか改葬する方が増えても、そのお骨の世話をやってくれる寺院はなく業者もいない。そこで墓の撤去後、遺骨を粉砕して東京湾や千葉県の森林に散骨するサポートを始めたのです」
「最後は送骨で」が当たり前に
散骨に加えて送骨サービスを始めたのはやすらか庵をNPO法人にした16年頃からで、現在、茨城県稲敷郡の天台宗如来寺と提携し、樹木葬の他、ユーパックで送骨されたお骨を粉骨し、永代供養の合葬墓に納骨している。申込みはやはり増えているという。
「送骨での永代供養という流れが、相談支援を行うケースワーカーや介護施設で働くケアマネージャーなどに認知され、連絡を頂くようになりました。また、一人住まいの方で事前予約される方も女性を中心に増えています。加速度的な人口減少社会になっており、安くご遺骨を引き取り永代供養する、散骨するというサービスは、今後、ますます必要になるだろうと思っています」(清野氏)
葬儀とお墓だけでなく、改葬、法事・法要、僧侶派遣、遺品整理など葬送に関するフルラインをワンストップで提供する「涙そうそう」(運営は株式会社終楽・愛知県春日井市)の伊藤俊吾代表は次のように言う。
「私どもは、IT産業からネット化が遅れた葬送ビジネスの分野に15年に参入、『墓じまい』からスタートしました。お墓だけでなく、あらゆる分野に需要が多く、サービスの幅が拡がって行ったのですが、3万円という最低限のサービスの定着は、我々業者にとっても、お墓を持てない人あるいは持ちたいと思わない人にとっても、『最後は送骨で』という拠り所となっています」
無縁と孤立の最終形としての送骨と永代供養墓は、当初、送骨(ゆうパック)という行為が酷薄さに繋がる印象で、違和感を持つ人が少なくなかった。
だが、本格開始から10年以上を経て、「個」と「孤」を同時に受け入れざるを得ない環境のなか、「終の棲家」の一形態として認知されたというべきかも知れない。