「いくつになってもやり直せる」は本当か? 日本初の少年院・刑務所専用求人誌『Chance !!』編集長に聞く、受刑者たちの就職のハードル

「いくつになってもやり直せる」は本当か? 日本初の少年院・刑務所専用求人誌『Chance !!』編集長に聞く、受刑者たちの就職のハードル | 集英社オンライン | 毎日が、あたらしい (shueisha.online)

2018年3月に創刊された国内初の少年院・刑務所専用求人誌『Chance!!(チャンス)』の編集長・三宅晶子さん。

生きるために罪を犯す人々の現実を知り、株式会社ヒューマン・コメディを設立し、これまでに数多くの受刑者たちの採用を支援してきた。創刊から6年目に入り、次に考える新たな取り組みとは――。

受刑者の方は“うかうか”している人が多い

全国の刑務所や少年院などに配布されている日本初の受刑者専用求人誌『Chance!!』。会社の雰囲気がよくわかる求人広告を中心に、元受刑者や有名人のインタビュー、ネット界でも話題のZ李氏やドキュメンタリー芸人・コラアゲンはいごうまん氏の連載など、かなり読み応えのある一冊になっている。

冊子に付属されている4枚の「Chance!!専用履歴書」も私たちが知っている履歴書とはかなり違う。とある更生施設で使われる質問項目をベースに作られたもので、犯罪歴や非行歴、自立計画といった項目が並ぶ。触れられたくないことを曝け出すためのもので、簡単に書けるものではない。

元受刑者たちにとっては生きるための命綱ともいえる『Chance!!』。編集長の三宅晶子さんに、犯罪者たちの“人生のやり直し”について話を聞いた。

――求人誌ではありますが、インタビューやコラムなど読物としてもすごく面白いですね。

ありがとうございます。やっぱり刑務所の中にいて就労を決めるというのは覚悟が必要だと思うんです。それでも手に取って欲しい思いがあるので、求人以外のページもパラパラめくって「この会社面白そうかも」と興味を持ってくれる人がひとりでも増えたらいいなと思っていて。

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――誰もが出所前から「仕事を早く探したい」って思うわけじゃない?

中にいる人って「なんでそんなに余裕があるの?」ってくらい、うかうかしている人が多いなあと思います。手紙に「ここを出たら温泉にでも行って、しばらくはのんびりしたい」とか書かれているのを見ると、他人事ながら心配になります。中で就労を決める人の方がまだまだ少ないんじゃないですかね。

無期懲役でも内定が出る場合も

――『Chance!!』を見て応募される方は、少年院と刑務所どちらが多いんですか?

圧倒的に刑務所です。少年院を出ると基本は親元に戻りますし、再非行防止という観点から施設の指導のもとで行く先を決めていくので、本人は自由に行き先を選べないんです。それと、少年に限ったことではありませんが、若いうちは迎えてくれる人や頼る先がたくさんあるので、まだ余裕があるんですよね。

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『Chance!!』に掲載されている履歴書

――刑務所から応募してくるのはどういう方ですか?

年齢でいうと、40代・50代の方が一番多いです。もう自分の力ではどうにもならないっていう人が多いですね。無期刑の方からの応募もあって、今までに4人が内定、そのうちの2人は亡くなりました。いずれも短くてもあと7~8年は仮釈放の見込みのない方々です。それでも内定が出るのは、企業側が「欲しい」と思うような、人間的な魅力があるからなんですよね。

――では、出所後に自分で仕事をして生活する“人生のやり直し”。何歳までならやり直せると思いますか?

出会いと居場所があれば、何歳でもやり直せると私は思います。ちなみに、先ほどの無期刑で亡くなった方はいずれも70代でした。保護司(犯罪者の社会復帰を支援する民間のボランティア)の人も「正気ですか? 刑務所を出られる頃は車椅子だと思いますよ」と言っていたそうですが、社長の意志は変わらず。働けなくなったとしても、身元引受人になって住む場所を用意すると。罪を犯した人も、そこから謙虚に誠実に生きていたら、見てくれる人はいるんじゃないかと思います。

――年齢で諦めなくていいとすると、やり直しのハードルが一番高いのはどんなことでしょう?

常習性、依存性の高い犯罪歴のある人の場合は簡単ではないですね。覚醒剤や性犯罪、軽犯罪として軽く見られがちですけど窃盗も常習性が高いです。殺人罪の場合は「接し方がわからないから」と避けられる傾向にありますが、再犯率はものすごく低いですね。

女性の犯罪は男性が関わっている場合が多い

――女性の就労はどうでしょうか? 男性よりも厳しそうですが。

実は、女性からの応募はほとんどないんです。女子刑務所にも配っていますし、募集条件が「女性のみ」という会社もあるんですけど、応募は少ないですね。これまで男性は1600人以上応募があるのと比べ、女性は10~20人ほど。内定者はまだ2人です。

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――なぜ女性は応募してこないんだと思いますか?

どうでしょうね……。まず、女性って過去を隠して仕事を探す人が多いです。
また、受刑者の人たちから手紙をいただいて思うのは、男性は「拝啓〜」みたいな挨拶文が書かれていたり、「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」みたいな一文が添えられていたりするんです。
でも女性でそういう書き方をされる方は少なくて、「チャンスを送ってください」とだけ書かれていたり、手紙も何もなく履歴書だけが送られてくる場合が多い。社会経験が乏しく、自立経験がない人が多い印象なので、働く以前に自立のための訓練が必要ではないかという気がします。

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――『Chance!!』の今後の展開や将来的なビジョンはありますか?

いま、身元引受や住宅支援や当座の生活費支援などを掲載の必須条件にしていることもあって、業種が建設系に偏ってしまっているんですね。今後は業種を増やしていきたいと思っています。

あとは、この求人誌は関東版ではなくて全国版なんですよ。収容される刑務所は、住所のある県から離れた場所になることもあるので、帰る場所がバラバラなんです。札幌刑務所にいるからって札幌に帰るとは限らず、むしろ関東に帰る人の方が多いので、地域版を作ってもあまり意味がない。今は企業が関東に集中してしまっているので、いつかは全都道府県・全業種の企業を掲載するくらいになれたらと思っています。電話帳みたいに(笑)。

――ひとつの刑務所が『Chance!!』を受け入れたら、自動的に全国に置いてもらえるものなんでしょうか? 現在は全国の刑務所や少年院に配布していますが。

全国の施設に一斉に配布していますが、積極的に利用してくださるかどうかは施設ごとの判断ですね。刑務所の就労支援制度とは関係がないので『Chance!!』は見せていないって施設もありますし、そこは今後の課題のひとつです。ただ、『Chance!!』の他にも刑務所専用の求人誌が出始めていて、選択肢は多ければ多いほうがいいので、今後も全国的に広まるとよいと思っています。

受刑者たちが変わっていけるための種まきができたらいい

――今後、求人誌以外で力を入れていきたいことはありますか?

去年から群馬県の前橋刑務所で就労に関する講座をやらせていただいて、5月からは一般改善指導のプログラムとして取り入れていただくんです。人生を切り拓くのって、目の前のことをどう前向きに捉えるかだけじゃないですか。

でも、物事の見方や捉え方が逮捕前と同じままだと、出所しても不平不満だらけで、どこへ行っても同じことの繰り返しだと思うんです。教育といったらおこがましいんですけど、受刑者たちの考え方や捉え方が変わるようなきっかけをつくることができたら。今後はそういった少年院・刑務所内でのプログラムを広げていきたいです。

――三宅さんは会社を立ち上げる前から人材育成や教育に興味があったそうですね。

少年院には入っていないですけど、私も学生時代はちょっとした憧れから不良になった時期がありました。ただ、たまたま家が裕福だったし、親からも愛されていたのでそんなには道を逸れずに済んで。それって当たり前ではなくて、超ラッキーなことだと思うんですよ。

刑務所には家庭なんてない人とか、問題のある施設で育ったとか、教育が受けられる環境にない人たちがたくさんいるんですね。平仮名や漢字が書けない、読めない人もいて。私たちが当たり前にしてきたことをベースに、元受刑者の人たちもまずはそういう場に立てたらいいなって思いですね。

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――教育を広げることで女性の応募も増えるかもしれないですし、社会的にもまた新たな動きが生まれるかもしれないですね。

そうですね。私は早稲田大学を卒業して一部上場企業に就職して、その時点でなんでもできるって勘違いして天狗になっていたんですよ(笑)。でも実際は仕事ができなくて抱え込んで鬱病になってしまい、そこから少しずつ生き方を学ぶようになったんです。人生は物事の考え方、捉え方次第だと思うので、まずは受刑者たちが変わっていけるための種まきをしていきたいと思っております。

取材・文/釣本知子 撮影/惠原祐二

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