農業はよみがえるか

京大の藤井聡教授と農業について話す機会があった。

藤井先生と私は政治的立場はずいぶん違うが、農業を守ることと対米従属からの脱却が必要だという点については意見が一致している。2人とも「愛国者」なのである。

ご存じの通り、日本の農業は衰退の一途をたどっている。

私が生まれた1950年代、日本の農業就業人口は1500万人だった。

総人口の2割が農業に従事していた計算になる。

2030年の農業就業者は政府の「展望」で140万人。かつての1割以下にまで減ることになる。

わが国の食料自給率は38%(鈴木宣弘東大特任教授によると、種や肥料などを考慮すれば実は10%以下らしい)。

オーストラリアが233%、カナダが204%、フランスが121%、米国が104%、ドイツが83%、英国が58%、イタリアが55%、日本は先進国最低である。

政府は30年に45%まで上げることを目標にしているが、農業就業者が減り続けているのに、どうやって農業生産を増やすことができるのだろうか。

大企業を参入させて、大規模な機械化によって生産性の高い農業を実現するというのは夢物語である。

企業は自分の土地からの収穫には関心があるだろうが、森林や海洋や河川湖沼のような生態系の保全コストは負担してくれない。

でも、生態系が維持されていないと農業は成立しない。

これまで生態系の維持は農民が「不払い労働」として担ってきたが、資本主義企業は「コストの外部化」が基本であるから、そのようなコストは絶対に負担しない。

結局、農業ができる生態系の保全コストは税金で賄われることになる。

多額の税金を投じて企業が金儲(もう)けできる環境を整備しないと成立しない農業のどこを「生産性が高い」と呼べるのか。

農業は始まって1万年。資本主義市場経済が始まってまだ200年。

どちらに人間の経験知が蓄積しているか、考えるまでもないだろう。

思想家 内田樹 「今日の視角」 2024年9月18日 信濃毎日新聞

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