5月20日に行われた第21回目の勉強会「ADR(裁判とは別の職場トラブルを解決する手続)ってご存知ですか?職場トラブルを早く・安く・穏便に解決する方法」の報告です。
講師は、特定社会保険労務士の濱本志帆先生。
特定社会保険労務士のあっせん代理 | 労働問題SLサイト@東京・神奈川 (adr-sr.com)
濱本先生の講演は三部形式で行われました。
一部は「職場トラブルの実態」
第一部の職場トラブルの実態として、労働局の相談コーナーには、年間31万件以上の職場トラブルが持ち込まれているという実態の説明がありました。
その中でも、職場の不満ランキングとして、一位は人間関係、二位は収入、三位は労働時間・休日
こうした(働く側の)不満は、態度に現れる→具体的には、遅刻・欠勤が増え、残業をやりたがらない、または、無用な残業をする。呼ばれても返事をしない(聞こえないふり)、消極的、挨拶をしない、新しい仕事にチャレンジしない、指示されたことしかしない等。
二部は「ADRとは?」
そもそもADRとは、Alternative Dispute Ressolution 裁判外紛争解決手続のことを言います。
ADRの運営機関としては、
民間では→社労士会労働紛争解決センターのあっせん
行政では→労働局のあっせん・調停があります。
あっせんの特徴としては、①非公開②無料(労働局の場合)③当事者同士(働く側・経営者側)顔を合わせないことです。あっせん委員が、労働者個人と事業所との間で起こったトラブルを解決します。
労働問題の紛争解決手段として、あっせんには、次のような特徴があります。
手続きの簡易性
労働局などのあっせんを扱う機関では、一般的に労働相談の窓口で相談からあっせん申し込みまで行うことができます。
申立書はその場で教わりながら書くことができます。ただ、申立書の作成から専門家に依頼する場合との違いはあります。
当事者に専門家がついていた方が解決が早いという事実もあります。
譲歩の為所や相場観、裁判に移行したときの勝ち目の有無などの情報を得ることができるからだと考えられます。
手続きの迅速性
あっせんは、原則1回の期日で終わります。
和解合意ができたときは、合意書が作成され両当事者が記名押印してそれぞれ1部を所持してあっせん終了です。
合意文書は民法上の和解契約成立を意味します。
合意に至らないときは「あっせん打ち切り」となって終了です。
また相手方があっせんに「不参加」を表明した場合もそれで終了です。
※申し立てをした側は、あっせんが不成立になった場合の次の手段(労働審判や民事訴訟など)を考えています。あっせんの簡易迅速な解決手段を利用しないのは勿体無いです。
弾力的な解決
あっせんは、そもそも、違法か適法かの白黒をつけることをしません。
法律上でどのように定められているかは、あっせん委員が当事者に合意を促す前提として用いられますが、一方当事者を糾弾する目的ではありません。
当事者の事情が考慮され、総合的な和解案が示されます。
本来、あっせんなどの裁判外紛争解決手続きは、裁判による解決が適さない事案をカバーします。
裁判が適さない事案の例としては、紛争の前にも後にも関係性が継続するような当事者間(例えば、家が隣同士など)の紛争があります。
関係を継続しながら紛争を解決するには、白黒決着型の解決では、判決などで義務を課された一方当事者に禍根を残します。
当事者の関係性は断絶せざるを得ないということになりかねません。
あっせんは、和解合意を目指すものですから、関係修復的な解決も可能です。
そのように考えると、あっせんは雇用契約関係にある従業員が在職中の紛争にも適していると言えます。
こじれる前に
人手不足の時代に、労働問題で人材を失うのは大変な痛手です。それでもトラブルになってしまったら、労使が完全に決裂する前にあっせんを活用して下さい。
あっせんは、自主的解決手段の延長にある手続きです。
もともと社内で話し合いによって解決することができれば、それに越したことはないのです。
しかし、当事者だけで解決することが困難な事案に第三者が「自主的解決を支援」するのが、あっせんです。あっせんでは、裁判のようにお仕着せな命令が下されることはありません。
非公開
あっせんは、非公開で行われ当事者のプライバシーは保護されます。
また、あっせん期日においても、出頭時刻をずらして控室も分けるなど、両当事者が顔を合わせないような配慮がなされています。
三部は「ADRの使い方」
労働局では「あっせん申請書」、社労士会紛争解決センターでは「あっせん手続申立書」というタイトルで、A4の1枚のひな型がダウンロードできます↓
この1枚を埋めると受理はされます。
しかし、情報量が少なすぎて説得力が不足しています。
相手方があっせんを受ける気になるような、つまり、あっせんを受けた方が得策だと思うような明確な根拠を示す必要があります。
また、たった1度のあっせんで主張を通すのですから、事前にあっせん委員へ詳しく伝えておき、当日は効率よく進める必要があります。
そのためには、上記A4のひな型は“表紙”として用い、別紙に以下のような内容を記載します。(事例は、労働者が申し立てる場合の内容です)
申立ての理由
申立ての根拠となる事実を書きます。
要求の内容を受け取る権利があると主張する根拠になる事実です。
例えば、
当事者の説明(申立人は相手方会社の従業員、相手方は○○会社である、など)、本来の労働条件、いつ減額され(一例です)、理由をきくと懲戒事由該当行為があったと言われたが、申立人はそのようなことをしていない(両者の主張のくい違いを入れます)、結論として、金000円の支払を求める。
・・・このような内容になります。
予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実。相手方が反論してくるだろうと思われることを書きます。
上記の例なら、
相手方が懲戒事由該当行為だといっているのは△△のことであるが、実際には□□であった
などです。
お気づきの通り、労働審判手続申立書を意識した内容になっています。
労働審判手続申立書フォームを参照して頂くと早いです。
補足
上記の例では、理由を示す前に減給処分を行っており、懲戒処分の手続きにも問題がありそうです。
弁明の機会(従業員の言い分をきくこと)が付与されていれば、紛争は回避できたかもしれません。
というようなお話でした。
今の時期(5月)は、会社に入ったものの、何か違うという事で、退職を検討する方が多い時期。ですが、直接、上司と顔を合わせるのが嫌なので、退職代行会社が大繁盛・・・現代はそんな時代です。
ADRによる「あっせん」は上司と直接、顔を合わせず、かつ、ピーディで安価に穏便に労働問題を解決できる方法です。是非、労働問題でお悩みの方は、濱本先生にご相談いただければと思います。