【耕論】国連の存在意義 清田明宏さん 朝日新聞 2024年2月28日
■「役所」ならではの実績も 清田明宏さん(国連パレスチナ難民救済事業機関保健局長)
天井のない監獄と呼ばれてきたガザは昨年10月から極限の状況です。
さまざまな人道危機を長年見てきた同僚も初めてだと驚くほどの「この世の地獄」です。
私が保健局長を務めている国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は国連総会の決議に基づいて1950年に活動を始めました。パレスチナ難民の保護と支援を行っています。
私は医師500人、職員3500人の統括責任者です。
ガザではスタッフも被災しながら150以上ある避難所を運営しています。
避難所には想定の10倍を超える人々が殺到し、トイレは500人に一つです。
23の診療所は多くを閉めざるを得ず、いまは維持しているのは7カ所です。
昨年10月からの紛争に巻き込まれ、すでにUNRWA全体で150人を超える職員が命を失っています。
10月7日のイスラエルへの攻撃に、複数の職員が関わっていた可能性があると指摘されています。
私の立場で言えることは、あってはならないことで調査の結果を待つということに尽きます。
関与の可能性を受けて日本を含む数カ国が資金の拠出を止めました。
調査結果が出たら拠出国の皆さんに納得してもらい再開されることを願っています。
UNRWAは人々の命と生活をつなぐ役割を担っています。
未来への希望をつなぐものですが、その存在が危機にひんしています。
他にも活動している組織はありますが、UNRWAの存在が圧倒的に大きい。
私たちが十分なことができないと、国際社会から見放されてしまったと感じてしまうのも当然でしょう。
命を救う上で一番効果があるのは何よりも停戦でしょう。
しかし、国連の安全保障理事会は常任理事国の拒否権によって停戦を打ち出せません。
政治の大きな失敗によって人々が悲惨な目に遭っています。
私たちは、たとえ停戦がすぐに実現しなくても薬や水、必要な物資を届け、ケガや病気の人を治療し続けるのが仕事です。
国連は基本的に大きな「お役所」だと思います。
官僚機構につきものの無駄も多いし、硬直性を感じることも正直いってあります。
ただ逆にお役所でなければできないような「大きくて大切なこと」があるのも事実です。
特に公衆衛生の分野はそうです。
いまも避難所で感染症の予防に真剣に取り組んでいます。
どうかガザの人々に関心を保ち支援を続けていただきたいと思います。
(聞き手・池田伸壹)
せいた・あきひろ
1961年生まれ。医師。
94年から世界保健機関(WHO)に勤務。2010年から現職。
いまはヨルダンの首都アンマンの本部勤務。