ガザ取材30年、見逃した二つのこと 共生「永遠に不可能」―イスラエル人ジャーナリスト:時事ドットコム (jiji.com)
私は何を見逃していたのだろう―。
パレスチナ自治区ガザを30年以上取材してきたイスラエル人ジャーナリストのシュロミ・エルダール氏は、10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル急襲以降、自身に問い続けている。
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◇越えた一線
エルダール氏はガザを実効支配するハマスに精通し、後に最高指導者となるハニヤ氏の単独インタビューも行ったことがある。
監督を務めたドキュメンタリー映画「いのちの子ども」(2010年公開)では、難病を抱えたガザの赤ん坊を救うためにイスラエル人とパレスチナ人が協力する姿を描いた。
それでも、時事通信とのインタビューで「私は二つのことを理解していなかった」と振り返る。
一つは、ハマスのガザ地区トップ、ヤヒヤ・シンワル氏の人物像。そして、ガザの若者のことだ。
シンワル氏は11年の捕虜交換でイスラエルから帰還した1人。より危険視されていた人物もいたが、釈放当日、バスに乗る人々とは別に、黒塗りのメルセデス・ベンツに乗り込んだのがシンワル氏だった。
その後、指導者の1人になったシンワル氏は、他の囚人奪還を誓ったという。
エルダール氏は、ハマスはかつて軍事部門と教育や医療などを行う福祉部門がバランスを取り、「ハマスの活動を危険にさらす一線は決して越えなかった」と指摘する。
しかし今回はそれを大きく逸脱。仲間の奪還という目的達成のためには犠牲もいとわないシンワル氏の人間性が反映されたとみている。
◇「もうたくさん」
ハマスは05年にイスラエル軍と入植者が撤退した後の07年にガザを実効支配。ガザは同年、イスラエルに封鎖された。
カタールなどからの資金を市民生活の向上に充てずに武器や地下トンネルの整備に費やし、貧困の原因はイスラエルにあると若者に教え込んだ。
07年以降に生まれた世代は、イスラエル人を一度も見たことがなく、「イスラエル人は怪物だ」というハマスのプロパガンダに「洗脳されている」とエルダール氏は説明する。
今回の襲撃で、ガザの重病人をイスラエルの病院に送り届けていたイスラエル人ボランティアもハマスに殺害された。
エルダール氏は「いつか和平が訪れると信じていた人たちだ」と怒りをにじませる。
「もうたくさんだ」。エルダール氏は取材中、そう繰り返した。ガザに対する見方は変わった。
(共生は)永遠に不可能だ。ガザの体制が変わってもだ」とも言い切った。
「いのちの子ども」に登場した赤ん坊は少年に成長し、ガザで暮らしているという。
電話で無事を確認できたと話した時は、安心した表情をのぞかせた。