延命治療の中断を法制化した韓国 自殺の多さ、緩和ケアの不足…安楽死には慎重論(GLOBE+) – Yahoo!ニュース
韓国では延命治療を中断する法律が2018年に成立。
さらに対象を拡大すべきだという議論が起きる一方、慎重論もある。
最高裁の判断で人工呼吸の中断を許容
欧米で合法化が広がる安楽死について、隣の韓国でも、議論されていると知り、ソウルへ向かった。 韓国では2018年2月、「延命医療決定法」と呼ばれる法律が施行された。死が間近の患者の心肺蘇生や人工呼吸器装着などの中断を認めるもので、2023年6月までにのべ約29万人がこの法のもとで亡くなった。 世論の高まりのきっかけは、やはり裁判だった。
高齢女性の病状が悪化し、人工呼吸器が着けられた。家族は「不要な延命医療」として中断を望んだ。医師が中断を拒否したため家族が裁判を起こし、最高裁は2009年、中断を許容すべきだとの判断を下した。 中断が認められる方法は、大きく分けて四つある。
(1)事前に本人が意向書を作る(2)末期患者らが要請し担当医師が計画書を作る(3)家族2人以上の意見により患者の意思を推定(4)家族全員の合意がある─。
(1)の意向書は2023年6月までに約184万人が作った。適用対象となる19歳以上の国民の約4%、65歳以上の約14%にあたる。 これまでに同法が適用されて亡くなった患者が実際にどの方法をとったかをみると、本人の意向を直接反映したといえる(1)と(2)の合計は、2018年当初は3割程度だった。徐々に増えてはいるが2022年は42%で、6割近くは家族が代わりに決定をしている。
海外の安楽死団体への登録「4年で3倍」
もっと積極的に死の選択を認めるべきだとする動きもある。2022年6月、野党・共に民主党の国会議員、安圭伯(アン・ギュベク)氏は同法の改正案を発議した。 受け入れがたい苦痛がある末期患者が希望すれば、医師の助けを受けて亡くなる医師助力死、いわゆる安楽死を認めようとするものだ。 安議員はこれを「助力尊厳死」と名付け、7月の取材に「人間らしく生き、死を迎えるために自己決定権を与え、苦痛を減らすもの」と必要性を語った。
「スイスの安楽死支援団体に登録する韓国人が300人いて、4年間で3倍に増えた」と推定する報道もあり、安議員は「韓国社会で法改正が求められている証拠」と話した。 しかし反論も多く、改正法案は国会の負保健福祉委員会に2022年11月に上程されたものの、審議は保留になっている。
大韓医師協会(韓国医師会)は「生命を短縮させる行為で、許容すれば生命を軽んじる風潮を韓国社会に蔓延(まんえん)させる恐れが大きい」と主張する。 広報担当の金利娟(キム・イヨン)理事は老人医学や家庭医療を専門とする臨床経験から「不治の病になったお年寄りから『子供たちの荷物になりたくないからそろそろ死ななければ』という声をよく聞いた」と話す。
韓国は先進国とされる経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、人口当たりの自殺率が最も高い。「医師助力死が認められると、制度の犠牲になる人が出てくるのでは」と金理事は心配する。
緩和ケアの充実に課題
延命医療決定法の目的は、患者の自己決定の尊重と最善の利益の保証とされる。施行から5年で、どのような変化がみられるのか。 仁川聖母病院のホスピス緩和ケアセンター長、金大均(キム・デギュン)氏は「良い死とはどういうものかを家族などの間で話す機会は増えてきた」。死をタブー視しがちだった国民性に変化がみられるという。
ただ、実際に意向書や計画書を作った患者に「延命治療とは何かわかっていますか」と聞くと、答えられない人が多く、「熟考すべき問題を熟考できていない」と指摘。患者の価値観を聞き、医師と患者が深く話し合う文化こそが大事だが、育っていないとの見解も示す。
そのうえで、「自己決定の尊重という本来の目的は達成されていない。定着にまだまだ時間がかかる法律だ」と言う。 この法律は、ホスピス緩和医療の充実とセットにできたものだった。しかし不十分だと医師協会もみる。
金理事は「末期患者の痛みや憂鬱(ゆううつ)に対処するケアに国がもっと支援をしていかねばならない」。 国側もその点は認め、ホスピスの拡充をはかる見解を示す。 また、延命医療決定法では、医療を中断できるのは死まで数日に迫った「臨終期」に入ってからだ。
国立延命医療管理センター長の趙貞淑(チョ・ジョンスク)氏は、数日間という短い期間は世界的に異例とし、死まで数カ月の「末期」に対象を広げることを検討していると話した。患者の意識が明確で自己決定できる時期という意味でも、対象期間の拡大には合理性があると言う。