同調圧力と排除

高木顕明という明治から大正時代に生きた僧侶がいた。

彼は戦争反対を訴えたため、所属していた教団・真宗大谷派から僧籍剥奪という重い処分を受け、獄中死した。

戦後、教団はその誤りを認め、謝罪した。

だが、戦時中、非戦を訴えれば、誰しもが「非国民」と言われた時代である。

宗教教団と言えども、檀信徒に「お国の為に死んで来い」と言い続けた。

釈尊は「殺すな」と述べたにも関わらず、その釈尊の教えと正反対の事をしてしまったのである。

「出る杭は打たれる」「長いものに巻かれろ」「空気を読め」という言葉もあるように、この国に蔓延する「同調圧力」は、今現在も根強いことを、私は震災後、福島に通うことで知ることとなった。

震災直後、現地で聞いた声を備忘録として、2023年の今、再度、以下掲載しておきたい。

福島市20代女性

『子どもがいるので、放射能のことが気になって仕方がない。しかし、それを仮設の人に言うと、偉い先生も大丈夫って言っているから気にするな!と言われる。何故、子どもの命を守りたいと思って放射能の話をすることで孤立してしまうのか?もう仮設にはいられない』

福島市30代男性

『福島から避難した人、避難したいけど出来ない人、福島に留まる人。それぞれ皆、考え抜いた末に、苦渋の決断をしている。だが、○○しないのはおかしい!間違っている!と、自分と考えの違う人を排除し、叩き潰そうとする風潮が至る所に蔓延している。放射能より人間の方がよっぽど怖い』

いわき市20代女性

『東京の人は、放射能が怖いって思いますか?福島には、放射能より怖いものがいっぱい渦巻いています。私は日々、放射能の話をするだけで、周囲から変な目で見られるんです。ただ子供を守りたいだけなのに。人々の偏見や差別の心の方が、放射能よりずっと恐ろしい』

福島市10代女性

『私の姉の母乳から、ストロンチウム90とセシウム137が出た。その母乳を子供は飲んでいる。その事を人に言うと<不安を煽るな>と言って皆から非難される。病院に行っても<心配しすぎだ>と言われる。私も姉も、社会的に孤立している。誰も私の話を聞いてくれない』

南相馬市10代女性

『将来、私は何処に行っても福島出身というだけで、差別を受けるのだろうか?ネット上に[息子は福島出身の人とは結婚させたくない]と書き込んでいた母親がいたけど、それが世間の本音なのかな?絆とか頑張ろうとか平気で言うくせに。人間は、残酷で恐ろしい』

福島市20代女性

『マスクをしていると、お前は神経質だ。気にし過ぎだと周囲の人たちに言われる。それが嫌で、マスクを意図的に外している。でも内心は不安で不安で仕方がない。でもそれを声に出すと批判される。私はどうすればいいの?同調圧力がここ福島では蔓延している」

南相馬市20代女性

『福島は元々高齢者の割合が高い。そして町の有力者は、たいてい男の長老。そんな人たちが、私たち若者の考えなどお構いなしに、除染や賠償など、重要なことを次々に決めていく。放射能は安全、長老の言うことだけに従っていればいい!余計なことは考えるな・口に出すなという圧力に押しつぶされ、生きづらい。若者の投票率が低いのは、若者だけが悪いの?大人たちがそうさせてるんじゃないの?』

南相馬市30代女性

『我が子が年間1ミリシーベルトを既に超えて被曝している。旦那に話すと<お前は神経質>と言われる。ママ友に話すと<頑張って>と言われる。頑張っても放射能は消えてなくならない。県外に避難しようと何故、旦那は言ってくれないのか?ストレスで子供にもすぐ怒鳴ってしまう』

伊達市60代男性

『福島の人々の多くは、放射能の問題を命がけで見ないように、考えないようにしている。誰かが何とかしてくれるだろうという意識が蔓延していることは否定できない。メディアや行政などは、その考えたくない人々の意識に加担している。そのことを言うとさらに孤立する』

南相馬市60代男性

『放射能なんか気にする方がどうかしている。目に見えないし、偉い先生も大丈夫って言っていると言う層と、せめて子供たちだけでも県外へ避難させたいと言う層がある。当然、前者の層の方が数が多く、後者は少数派。前者は主に原発を容認してきた人。後者は女性や子供を持つ世帯に多い』

相馬市20代女性

『福島県以外の方から、この人殺し!何で福島を離れないんだ!と言われたことがあります。福島を離れる自由と同時に、福島に残る自由もあっていいと思う。私はシングルマザーで、手に職もないし、今の仕事を辞めて、新しい土地で新しい仕事を見つけて暮らせる自信はないんです』

いわき市60代男性

『「浜通りの連中は、お金が貰えていいよな。福島市や郡山市などの中通りは線量が高いのに、何のお金も貰えないんだよ。あんたら浜通りの連中だけお金が貰えてズルい」と中通りの人達によく言われる。どうして同じ福島県民が一致団結出来ないんだろう?金が絡むと、人間の本性が見事に出るね。同じ風評被害を受けている福島県民同志が喧嘩しても、東電や国が喜ぶだけ』

福島大学の40代教員

『除染を開始した頃には<市民の不安を煽るからやめろ>と言われた。除染の限界を語った時には<復興の流れに水を差すな>と言われた。反応の違いは、原発事故による汚染・健康被害の程度をめぐる評価の違いを背景としている』

いわき市70代男性

『何でこんなに病院で長時間待たされるのか?震災前は、こんな事なかったのに。被災者は、早く出て行ってくれないかな。もともと病院が少ないのに、その少ない病院に被災者が入ってきて、俺たち地元のいわき市民はいい迷惑だ。あいつらは税金も払っていないのにデカイ面して腹が立つ』

いわき市60代男性

『俺はこのいわき市に避難してきて、地元いわき市民と打ち解けたいんだ。でもどうやってアプローチすればいいか分からない。向こうも、俺たちとどうやって関わっていったらよいか分かっていないと思うよ。被災者は出て行けと地元住民からよく言われるけど、それを聞いて一番喜ぶのは、政府や東電ではないか?同じ福島県人同士が助け合わなくてどうする!一つになりたいのに、一つになれない』


震災後、「ひとつになろう」「頑張ろう日本」など、「絆」の重要性が叫ばれた。

絆の持つ力自体は否定しない。

しかし、日本社会は歴史的に過去「ひとつになれなかった」人に残酷な仕打ちをしてきた。

それは2023年現在、根本的には変わっていない。

というか、同調圧力と排除の論理は、さらに強くなってきていると感じるのは筆者だけだろうか?

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