世界の農地の60%近くが牛肉を生産するために使われている「資本主義の次に来る世界」

ある段階を過ぎると、人間の福利を向上させるためにGDPを増やす必要はまったくなくなる。
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要するに、分配が肝心なのだ。
最も重要なのは、万人向けの公共財への投資である。
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質の高い公的医療制度と教育システム、、、
すべての人が健康で長生きできるようにするには、それこそが重要なのだ。
(それは、コスタリカ、フィンランド、エストニアなどを見ればわかる)
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理論上は、人間の幸福のためになるものを生産し、公共財に投資し、所得と機会をより公正に分配するだけで、現在より少ないGDPで世界の人々のために、すべての社会的目標を達成できる。
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高所得国が成長を追求し続けることは、不平等と政治不安を助長し、過労や睡眠不足によるストレスや鬱、公害病、糖尿病や心疾患などの不調の原因となっている。
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所得の配分が不公平な社会は総じて幸福度が低い、、、
不平等は不公平感を生み、それは社会の信頼、結束、連帯感を損なう。
また、健康状態の悪化、犯罪率の上昇、社会的流動性の低下にもつながる。
不平等な社会で暮らす人々は、欲求不満、不安感、生活への不満がより強い傾向にある。
そうした人々は、鬱病や依存症になる割合も高い。
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幸福度が最も高いのは堅牢な福祉制度を持つ国だった。
福祉制度が手厚く寛大であるほど、すべての人がより幸福になる。
すなわち、国民皆保険、失業保険、年金、有給休暇、病気休暇、手頃な価格の住宅、託児所、最低賃金制度などが整っている国ほど、国民の幸福度が高いのだ。
誰もが平等に社会財を利用できる、公平で思いやりのある社会で暮らす人々は、日々の基本的ニーズを満たすことを心配することなく人生を楽しみ、隣人と常に競いあうのではなく、社会的連帯を築くことができる。
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公共サービスはほとんどの場合、民間のサービスより炭素・エネルギーの集約度が低い。
たとえばイギリスの国民保健サービスは、アメリカの保健制度に比べて、CO2の排出量はわずか3分の1だが、より良い健康アウトカムをもたらしている。
公共交通機関はエネルギーと物質の両面において、自家用車より集約度が低い。
水道水はペットボトルの水より集約度が低い。
公共の公園、スイミングプール、娯楽施設は、個人の広い庭やプライベートプールやパーソナルジムより集約度が低い、、、
公共財の存在は、所得を増やさなければというプレッシャーから人々を解放する。
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過去40年にわたって支配的だった新自由主義的政策を根底から覆さなければならない、、、
政府は、成長を求めるあまり公共サービスを民営化し、社会的支出を削減し、賃金と労働者保護をカットし、富裕層の減税を手助けすることによって、不平等を急速に拡大してきた。
気候が崩壊しつつある時代にあって、わたしたちはまったく逆のことをしなければならない。
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ステップ1 計画的陳腐化を終わらせる
売上を伸ばしたくてたまらない企業は、比較的短期間で故障して買い替えが必要になる製品を作ろうとする、、、
過去10年間で、100億台のスマートフォンが廃棄された、、、
毎年、1億5000万台の廃棄コンピューターがナイジェリアなどに輸送される、、、
山積みにされ、水銀、ヒ素、その他の有毒物質が、地面に垂れ流しになっている、、、
選択肢の一つは、保証期間の延長を義務づけることだ。
電化製品の寿命を最長25年まで伸ばす技術は既に存在し、追加費用はほとんどかからない。
簡単な法律で、現状よりずっと長い保証期間をメーカーに義務づけることができる。
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ステップ2 広告を減らす
計画的陳腐化は、成長志向の企業が消費の回転をスピードアップさせるために用いる戦略の一つにすぎない。
もう一つの戦略は広告だ。
過去1世紀の間に、広告業界は劇的な変化を遂げた、、、
心理を操作すれば、必要をはるかに超える消費を促すことができる、、、
人々の心に不安の種をまき、その不安を解消するものとして自社製品を紹介するのだ、、、
人々が見るものを選択できない公共空間からーオンラインのものもオフラインのものもー広告を締め出すのも一手だ。
人口2000万のサンパウロは、すでに都市の主要な場所でこれを実施している。
パリもこの方向へ動き、屋外広告を削減し、学校周辺では全面的に禁止した。
結果は?
人々はより幸福になった。
より安全だと感じ、自らの生活に満足できるようになった。
広告の削減は、人々の幸福にプラスの影響を直接与えるのだ。
これらの措置は、無駄な消費を抑えるだけでなく、わたしたちの心を解放し、常に干渉されるのではなく、自分の考え、想像力、創造性に集中できるようにする。
広告が消えた空間は、絵画や詩、それに、コミュニティを築き本質的価値を構築するためのメッセージで埋めることができる。
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経済学者の中には、広告を制限すると市場の効率性が損なわれる、と懸念する人もいる。
広告は人々が何を買うかを合理的に判断するのを助ける、と彼らは言う。
しかし、この主張には説得力がない。
実のところ、広告の大半はまったく逆のことをしている。
それらは人々に不合理な判断をさせるために設計されているのだ。
現実を見よう。
インターネットの時代に、商品を見つけて評価するために、広告が必要だろうか?
検索するだけでことは足りる。
皮肉なことに、インターネットは広告であふれているが、広告を時代遅れにしたのだ。
わたしたちはこの事実を歓迎すべきだろう。
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ステップ3 所有権から使用権へ移行する
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ステップ4 食品廃棄を終わらせる
ここに何度聞いても驚かされる事実がある。
毎年、世界で生産される食品の最大50%ー20億トンに相当するーが廃棄されているのだ。
これはサプライチェーン全体で起きている。
高所得国では、原因は農家とスーパーマーケットにある。
農家は見栄えのよくない野菜を処分し、、、
スーパーマーケットは、過剰に厳しい賞味期限を設け、、、
結局、家庭では、購入する食品の30%から50%を捨てることになる。
一方、低所得国では、原因は貧弱な輸送・保管インフラにあり、食品は市場に届く前に腐ってしまう、、、理屈から言うと、食品廃棄を終わらせれば、現在必要とされている食料を確保しつつ、農業の規模を半分に減らすことができるのだ、、、
脱成長の観点から言えば、これはすぐできて、利益が大きい。
数か国がすでにこの方向へ踏み出している。
フランスとイタリアでは、最近、スーパーマケットの食品廃棄を防ぐための法律が制定された
(スーパーマケットは売れ残った食品を慈善団体に寄付しなければならない)。
韓国は、生ゴミを埋立地に廃棄することを全面的に禁止し、家庭とレストランに対しては、捨てた生ゴミの重さによって料金を徴収するコンポストの使用を求めている。
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ステップ5 生態系を破壊する産業を縮小する
生態系を破壊し、しかも社会的必要性の低い産業についても語る必要がある。
化石燃料産業はその最たるものだが、他の領域にもそれは見られる、、、
世界の農地の60%近くが牛肉を生産するためにー直接的には牧草地として、間接的には飼料を育てる農地としてー使われている、、、
アマゾンの熱帯雨林のかなりの面積が、文字通り牛肉のために焼き払われている。
しかも牛肉は、、、人間の消費カロリーのわずか2%にすぎない。
ほとんどの場合この産業は、人間の福利を損なうことなく大幅に縮小できるはずだ。
恩恵は驚くべき規模になる。
牛肉を非反芻動物[ニワトリなど]の肉や、豆類などの植物性タンパク室に切り替えると、約1100万マイルの土地が解放される。
これはアメリカ、カナダ、中国を合わせた面積に相当する、、、
その第一歩になるのは、高所得国が牛肉農家に給付している補助金を廃止することだろう。
牛肉産業はほんの一例で、他にも縮小を検討できる産業は多い。
軍事産業、プラベーとジェット産業、使い捨てのプラスチック製品、、、SUV車、マック・マンション(粗製濫造された豪邸)などだ、、、
民間航空も縮小する必要がある。
まずは搭乗回数に応じた課税などからはじめ、最終的には、鉄道で行ける航路を廃止し、、、乗客1人1マイル当たりのCO2排出量が最も多いファーストクラスとビジネスクラスを廃止する。
さらにはエネルギー集約的な長距離サプライチェーンに基づく経済から、身近な場所で生産が行われる経済へ移行しなければならない、、、
すでに十分大きくなっていて、これ以上成長すべき出ないのは、どの産業か。
規模を縮小したほうがよいのは、どの産業か。
これまで、こうした質問がなされたことはなかった。
しかし、2020年のコロナウイルスのパンデミックで、誰もが必要不可欠な産業と、不必要な産業の違いを知った。
どの産業が使用価値を中心に組織され、どの産業が交換価値を中心に組織sれているかが、たちまち明かになったのだ。
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たとえば、フランスで2018年に始まった「黄色いベスト運動」は、労働者階級と貧困層からの搾取によって環境目標を達成しようとする政府の試みに抗議するものだった。
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フランスの家庭を対象とする研究では、長い労働時間は、環境負荷の高い商品の消費と直結していることが判明した、、、
余暇を多く与えられた人々には、環境負荷の低い活動に惹かれる傾向が見られた。
運動、ボランティア活動、学習、友人や家庭との交流などだ。
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一つの方法は、「最高賃金」制度を導入して、役員と従業員の報酬比に上限を設けることだろう、、、
税引き後の報酬比を10対1以下にするべきだと主張する。
そうすればCEOはただちに従業員の賃金を可能な限り引き上げようとするだろう。
見事な解決策であり、前例もある。
スペインの大規模な労働者共同組合モンドラゴンは、役員の給与は従業員の最低賃金の6倍を超えてはならないというルールを定めている、、、
しかし、問題は所得の不平等だけではない。
富の不平等も問題だ。
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富裕税(あるいは連帯税)の導入である、、、
10億ドルを超える富の所有に対し、10%の年間限界税率を課す、、、
結局、これほどの富を所有するに「値する」人はいないのだ。
それは自ら稼いだものではなく、レントシーキングや政治的占有によって、低賃金労働者や安価な自然から搾取したものだ。
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計画的陳腐化を終わらせ、資源の消費に上限を設定し、労働時間を短縮し、不平等を減らし、公共財を拡大するーこれらはすべて、エネルギー要求を減らし、クリーンエネルギーに迅速に移行するために必要なステップだ。
だが、それだけに終わらず、これらすべては資本主義の論理を根本的に変える。
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わたしたちが関わる他の生物ー他の人間だけでなく植物や動物ーも、等しく主観的経験を持つ存在である、、、
彼らもわたしたちと同じように身体を持ち、世界を感じ、世界と関わり、反応し、形づくっているのだ。
実のところ、わたしたちが見ている世界は、彼らがわたしたちと共につくったものであり、彼らの世界は、わたしたちが彼らと共につくったものである。
わたしたちと彼らは、知覚の官能的なダンスで互いに交流し、継続的な対話を通して、世界を知っていくのだ。
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結局のところ、わたしたちが「経済」と呼ぶものは、人間どうしの、そして他の生物界との、物質的な関係である。
その関係をどのようなものにしたいか、と自問しなければならない。
支配と搾取の関係にしたいだろうか。
それとも、互恵と思いやりに満ちたものにしたいだろうか?
「資本主義の次に来る世界」290p


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