「負債と信用の人類学」人間経済の現在 第2章

インフォーマル経済に対する主流の見方は、1970年代から大きく変化してきた。

ILOがインフォーマルセクターを過剰都市化に伴う偽装失業層や不安定労働者層の問題とし、キース・ハートが「インフォーマル経済」(Hart 1975)という用語でガーナ都市部の出稼ぎ者のスラム経済を論じた時代、この経済は近代化に伴ってやがて消滅する部門だとみなされていた。

しかし2000年代以降、インフォーマル経済が縮小どころか拡大し続けていることが認知されるに従い、なぜこの経済が存続と成長を続けるのかに研究者の関心は移行した。

フォーマル経済から排除・周縁化・搾取される人びとの営みという構造的な視座と、国家や市場の不条理な規制に抵抗して自発的に国家やフォーマル経済から離脱した人びとの営みという新自由主義的な視座の対立を経て、最近ではこの経済が親族や友人等の社会関係への配慮からアイデンティティに関わる欲求、秩序形成や空間構築などに至るまで多様な目的を組み込んだ、特有の起業家精神に基づく「別の種類の経済」であることが強調されるようになった。

その企業家精神で強調されるのは、不確実性の高いビジネス環境での生計実践と社会関係資本への投資の特有の結びつきである。

生計多様化戦略は、不確実性の高い環境においてリスクを分散するための戦略である。

(「時間を与えあう」 小川さやか 「負債と信用の人類学」人間経済の現在 第2章)

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