「負債と信用の人類学」人間経済の現在

2020年9月2日、文化人類学者であると同時にアナーキスト活動家でもあった人物がこの世を去った。デヴィッド・グレーバーである。

彼が案出した「ブルシット・ジョブ」概念や、2011年のウォール街占拠運動で掲げられた「わたしたちは99パーセントだ」という標語は、いまや彼の名以上に有名かもしれない。

享年59歳、、、

2011年に刊行された「負債論」とは、リーマンショックと欧州債務危機に動揺する世界にたいして、文化人類学的知性から発せられた力強い応答だった。

それから10年あまりの年月を経た現在、元来はリーマンショック後の金融状況を指していた「ニューノーマル」なる語はポスト・コロナの生活様式へと語義を拡張させ、ウクライナ危機に由来する資源・穀物価格の高騰によって経済は停滞し、各国債の債務不履行が現実化しつつある。

グレーバーが拓いた人類学的負債論の深化と、「他者を信じ他者に負う」人間経済の探求を目論む本論集は、こうした時代的要請に対する人類学からのあらたな応答となるにちがいない。

(佐久間寛 「負債と信用の人類学」人間経済の現在 諸言)


公式の奴隷制は撤廃されたが、(9時から5時まで労働に就いている者ならだれもが証言できる
ように)少なくとも一時的にあなたの自由を譲渡[疎外]することは可能である、という観念は
持続している。

実際のところ、週末をのぞき眠っていないあいだなにをすべきであるか、わたしたちの大半は、
この観念によって規定されている。

グレーバー「負債論」


「他者を信じ他者に負う」人間経済の探求@「負債と信用の人類学」2023以文社

“Debt, Credit, and Human Economies: Anthropological Perspectives”

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