「精神病院」と「精神科病院」

精神疾患の患者さんが入院する単科病院について、筆者が講演などで話題にする場合、2つの言葉を独自に使い分けている。

「精神病院」と「精神科病院」だ。

前者は昭和から続く隔離収容所、後者は患者のリカバリーに真剣に取り組む病院を指す。

精神病院は医療に値する行為を行っていないのだから、「病院」と名乗ることすらおこがましく、医療費の観点からみても一刻も早く消え去るべきである。

一方、精神科病院の医師たちの創意工夫や努力には頭が下がる。

大阪府和泉市にある新生会病院(アルコール依存症治療専門、148床)の名誉院長・和気隆三さんは、80代半ばになった今でも、患者のための病院づくりに奮闘している。

勤務医だった若い頃、断酒会との連携や、院内自治会などの治療共同体づくり、様々なクラブ活動の立ち上げなどを進め、自暴自棄になりがちな患者たちの回復力を高めていった。

1981年、新生会病院を開設。

広い敷地に緑を増やし、1周120メートルのコースをとれる裏庭は、開放病棟から24時間出入り可能にした。

「患者さんは心の不調を癒すために病院にやって来るのですから、心安らぐ環境が必要です。豊かな緑の中で体を動かし、良い人間関係を築く。そのような場を提供してきました」と語る。

給食の味にもこだわり、外部委託はせずに院内で作り続けている。

「口の悪い患者さんも『給食だけは美味い』と褒めてくれます」。

アルコール依存症の重症患者は、食事をせずに酒ばかり飲むので、栄養状態が極めて悪い。

回復のためには、ビタミンやミネラルが豊富な美味い食事が必要なのだ。

最近、入院患者たちに万歩計を配る試みも始めた。

沢山歩いてお腹が空けば、食事がますます美味しくなる。

「酒よりも飯だ」と思えるようになれば、しめたものだ。これぞ食事療法の鏡である。

名誉院長の向上心は止まらない。

2023年11月、和気さんは病院改革を進める千葉市のK病院(受診者の急増を避けたい病院の意向で匿名)を見学することになり、筆者も同行させてもらった。

K病院のストレスケア病棟は、ホテル顔負けの個室が並ぶ。

靴を脱いで上がる無垢材の床(一部個室はバリアフリー)、大きな窓、間接照明、快適なベッド、清潔なトイレ(部屋によってはシャワーもある)などを備える。

状態が安定している患者は、部屋の内側からカギをかけられる。

6000円から1000円の差額代が発生するが、院長は「いずれは全病室をストレスケア病棟並みに整備して、差額代をなくしたい」と語る。

入浴はもちろん毎日可能。

女性患者のためのパウダールームもある。

見学を終えた和気さんは「うーん、負けた。うちも女性ユニットを新設した時、パウダールームを作りました。でも、個室も待合室も、何から何までこちらの方がいい。職員を見学に来させたい」と悔しそう。

和気さんの病院改革に終わりはない、、、

佐藤光展「精神医療ダークサイド」最新事情第35回  「集中」2024年1月号収載

「心の病気はどう治す?あきらめるのはまだ早い!名医に聞いた希望のガイドブック」1月刊行予定

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