気になっていることがある。政府がことを進める速度とタイミングだ。
教育費の無償化や外国人の受け入れを含めた少子化対策は遅れに遅れ、取り返しがつかないところまで来ている。
再エネ開発も進まず、原発再稼働に追い込まれた。農業振興も遅れ、食料の安全保障は危うい。
世界がどんどん変わっているのに、夫婦別姓も同性婚も実現できていない。
女性活躍と言いながら、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位だ。
では何でも遅いのかというと、軍拡は突然ドカンと予算をつけ、マイナンバーカードの完全導入は超スピードで進めている。
「いったん立ち止まって、システムを整えてから再出発したらどうか」と言っても止まらない。
健康保険証廃止に至っては、マイナンバーカードの取得がうまくできない人は健康保険証が使えなくなる、という当たり前の現実を無視して走り続けている。
なぜ適切な速度でないのか、と不思議に思っていたところ「堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法」(幻冬社新書)が出た。
「今だけ金だけ自分だけ」と堤未果が言ってのけたその言葉で、政府と企業の間の回転ドアを行ったり来たりする岸田文雄首相以下、政治家と忖度(そんたく)官僚の慌ただしい動きが見えてきた。
速度が遅い事柄は、国民にとって必要なこと。
速度が速い事柄は、国民には必要ないが、大企業と政治家が欲しいこと、と整理してみると、「遅い」と「速い」の理由がわかってきた。
改憲して日本が軍隊を持つことは2012年ぐらいから準備してきたようだが、「ウクライナ侵攻」のショックを利用して一気に動き始めた。
国民番号制度はずいぶん前から提案されていたが、そこにコロナショックである。
「給付金」と「健康保険証」を利用しているのは、コロナを連想させるためであろう。
ちなみに軍拡とマイナンバー制度が同じタイミングで動いているのは、明治時代、戸籍制度の制定直後に徴兵令が出されたことを思い起こさせる。
マイナンバー制度そのものについては、個人単位の身分証明書という点で「戸籍をなくす」方向なのであれば歓迎だ。
選択的夫婦別姓制度の発足と戸籍制度の撤廃を同時におこなうのであれば賛成、と声を上げたい。
今の世界で戸籍制度があるのは、中国と台湾と日本だけなのである。
「風速計」 週刊金曜日 2023年7月21日