財政難、糾弾…女性支援活動に相次ぐ壁 千葉の保護施設は交付金に数年 「苦しむ女性をこれ以上生んではならない」

財政難、糾弾…女性支援活動に相次ぐ壁 千葉の保護施設は交付金に数年 「苦しむ女性をこれ以上生んではならない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

性暴力や虐待、障害などで支援が必要な女性たちが暮らす婦人保護施設で唯一、全国から受け入れている「かにた婦人の村」(千葉県館山市)で、新棟の建設計画がまとまった。

交付金の申請手続きで国や自治体と折り合えないなど、紆余うよ曲折を経た。女性支援を巡っては、活動の壁が少なくなく、最近はネット上でも論争が起きている。来春に控える困難女性支援法の施行を前に「現在地」を探った。(木原育子)

◆唯一全国から女性受け入れ「生きているだけで精いっぱい」

 東京都心から電車で3時間弱ほどの千葉・房総半島の先端。群青の海を望める高台に「その村」はある。

 「自然がいっぱいで、鳥の鳴き声もよく聞こえる。いい所ですよ」。ここで暮らして9年になる女性(48)が迎えてくれた。特別支援学校卒業後、交際中の男性が犯罪に巻き込まれ、家族も多額の借金を背負い、逃げる途上で保護された。

 「ようやく楽しいって感覚を思い出せている」と女性。地域の作業所に通いながら、支援スタッフのサポートを受け、退所後の生活場所を探している。

 「かにた」は、国内47ある婦人保護施設のうち、唯一全国から女性を受け入れている。売春防止法に基づき1965年に建てられ、現在はキリスト教系の社会福祉法人が運営する。

 暮らすのは21〜90歳の約45人。8割ほどに軽度な知的障害がある。ひどい虐待や性暴力によるトラウマ(心的外傷)で、自然豊かな場所で長期療養が必要と判断された人も。農作業やパン作り、手芸などに取り組み、少しずつ自尊心を取り戻してきた。

 施設長の五十嵐逸美さん(61)は「生きているだけで精いっぱいの女性も多い。文化的で最低限の生活が送れるようにと憲法はうたうが、どれだけ社会の理解が得られているのだろうか」とため息をつく。

◆国も自治体も「しぶしぶだった」

新棟の完成イメージ図=かにた婦人の村提供

新棟の完成イメージ図=かにた婦人の村提供

 五十嵐さんの懸念の種は、現在進む新棟の建設計画だ。今は広大な山里の敷地に寮舎や作業棟が点在しているが、入所者の高齢化や防災面で1カ所に機能を集約させる必要が出てきた。

 国も2015年に計画を承認。だが、思うように進まなかった。19年に千葉県内で大型台風に見舞われ、防災対応の必要性が改めて認識されてもだ。立ちはだかったのが資金面。事業費は11億3300万円。運営する法人の自己資金2億7300万円や借入金を投じても到底及ばない。

 福祉施設の建設に対応する国の交付金「次世代育成支援対策施設整備交付金事業」の活用を目指したものの、各地の女性を受け入れる施設の特性が壁になった。

 申請は通常、都道府県が窓口になるが、施設がある千葉県の担当者は「入所者は全国から来ている。法人の主たる事務所も東京なのに、施設があるということで千葉が担うのは…」と受け付けず。

 負担のかかる事業に、国も二の足を踏み、どの自治体が申請窓口になるかさえ決めるのに数年を要した。結局、16の関係自治体で「折半」に。まず東京都が肩代わりし、国の負担分と合わせ、施設は総計6億6000万円の交付を受けた。

 「話がまとまり、ありがたい。だが国も自治体もしぶしぶだった。厄介者扱いは今も昔も変わっていないように感じた」と五十嵐さん。資金はそれでも足らず、現在は寄付を募る。

 これまでも「かにた」は苦難の連続だった。

 長期で女性を保護する運用だったが、入所者が高齢化して予算がかさむと、国側から「終生利用」に否定的な意見が相次いだ。2003〜11年は国が措置を認めず新規入所者はゼロ。事務費の定員払いだった仕組みが12年に現員払いへ変わると収入が減り、運営は常に苦しかった。

 「追い出されるのかと精神的に不安定になった人もいた。これが女性支援の実態」と五十嵐さんは語る。

◆「Colabo」の炎上で他の団体にも「税金使うな」の声

女性支援のための新法制定に向け、意見を交わす与野党の女性議員や民間団体メンバーら=昨年2月、国会で

女性支援のための新法制定に向け、意見を交わす与野党の女性議員や民間団体メンバーら=昨年2月、国会で

 財政的に苦しい女性支援団体は少なくない一方、最近は自治体の補助金を巡って矢面に立たされる事態にもなっている。

 事の発端は、若年女性支援で東京都の委託事業を担う一般社団法人「Colabo(コラボ)」の活動報告書だった。一部内容がネット上で炎上。糾弾の矛先は、同様に若い女性支援をする団体の活動にも向き、「こんな支援に税金を使うのは変」との声が相次いだ。

 スタッフの1人は肩を落とす。「こうした声が大きくなり、交付金が打ち切られたら活動できない。最も被害を受けるのは、支援対象の女の子たちなのに」

 川崎市議会では昨年末、自民市議がコラボについて「市と都の委託事業と二重に税金を受け取れるのか。事実となれば、福祉を食い物とした犯罪で…」と追及。市側は問題ないと説明したが、同時に「今後の民間団体の連携のあり方などについて検討を進めていく必要がある」と答弁した。

 市の担当者は「否定的な意味ではない」と述べた上で難しさも口にする。「18歳未満は児童福祉法の対象だ。『若年女性』という支援の枠組みは18歳未満も含むため対象が重なる。整理が必要になるだろう」

◆「侮辱的な視線が染み付いた社会構造が無理解生む」

困難女性支援法施行を心待ちにする女性。「かにた婦人の村」で暮らす=千葉県館山市で

困難女性支援法施行を心待ちにする女性。「かにた婦人の村」で暮らす=千葉県館山市で

 来春には、こうした若い世代の女性も含めた「困難女性支援法」が施行される。法の所管は、これまでの厚生労働省の担当課が今春発足の「こども家庭庁」に移管される一方、女性保護事業自体は厚労省に残る。

 元厚労次官の村木厚子さんは「女性支援の対象の中にはティーンエージャーもいて省庁の間でも重なりがある。それは悪いことではなく、どうやって社会から受けた女の子たちの『傷』を回復させられるかだ。こども家庭庁の調整機能を生かし連携してほしい」と語る。「生きることに苦しむ女性をこれ以上、生んではならない」

 支援法成立の背景には、社会のひずみに追いやられた女性に目が向けられてこなかった反省がある。

 お茶の水女子大の戒能民江名誉教授(ジェンダー法学)は「女性の人権は尊重されてこなかった。男性が意思決定の中心にいる中、若い女性は社会で大した役割も果たしていないと思われてきた。売春防止法ができた頃から性搾取に取り込まれた女性は特に差別的な目で見られ、自己責任が問われてきた」と語り「侮辱的な視線が染み付いた社会構造が女性支援への無理解を生んでいる」と訴える。

 支援法の施行を待つ1人、冒頭の女性が語った。

 「生きることは苦痛だったけど、今は朝が来ても安心して目を開けられる。その尊さを知らない女性がいるとしたら、それはその女性がかわいそうなんじゃない。『社会の不幸』って呼ぶんだと思う」

  ◇ 

 かにた婦人の村は、新棟建設に充てる資金をクラウドファンディング用のサイト「READYFOR」で募っている。3月20日まで。新棟は木造3階建て。延べ2187平方メートル。地域との交流スペースのほか、トラウマを抱えた女性をケアする心理治療室も設ける。入居定員60人。

◆デスクメモ

 侮蔑的な視線が染み付いた社会。文中の一節が重い。頭をよぎるのは、同性婚を巡る首相秘書官の暴言。「見るのも嫌だ」と。反対論に同調するのは「秘書官室は全員」とも。無理解と蔑視は政権中枢まで染み付く。この状況こそ嫌でならないし、当人の辞職で幕引きしていい話でもない。(榊)

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