60代の夫婦が絶望…障害のある娘の「財産管理権」を裁判所からいきなり奪われた、その一部始終

60代の夫婦が絶望…障害のある娘の「財産管理権」を裁判所からいきなり奪われた、その一部始終(長谷川 学) | 現代ビジネス | 講談社(1/4) (gendai.media)

7月11日に、私どもの団体で講演して下さるジャーナリスト・長谷川学さんの記事です。

無念の死を遂げた妻

成年後見制度は、超高齢社会になだれ込む日本にとって、認知症高齢者、そして知的・精神障害者の財産と生活を守るために設計され、「弱者のための」崇高な使命を持つ制度として2000年にスタートした。

ところが、後述するように、その実態を見ると、むしろ「弱者を食い物にする」と呼んでもよい出来事が全国で発生している。

この制度の運用面の最大の欠陥は、認知症高齢者や障害者の意思が無視される傾向が強いこと。また家族がほとんど後見人になれないことだ。こうした大きな欠陥があるため、制度発足から四半世紀近く経ったいまも利用者は約22万人。推計では認知症の人は日本に1000万人おり、利用率はわずか2%程度だ。

この制度は欧米各国でも大きな問題になっている。昨年暮れに日本全国で上映された米映画『パーフェクト・ケア』は、“完璧なケア”で裁判所からの信頼も厚い法定後見人(裁判所が選任した後見人という意味)が、実は高齢者の資産を合法的に搾り取る悪徳後見人だったという設定。この映画とは別に、米国では、昨年11月、人気ポップシンガーのブリトニー・スピアーズに対し、裁判所が成年後見制度の適用を解除して大きな話題になった。

日本では、マスコミが成年後見制度のことをほとんど報じないため、制度の問題点が社会の共通認識になっていない。しかし水面下では、制度の矛盾を象徴するような事件が昨年秋以降、立て続けに起きている。

一つは、家裁の強権的な制度運用により強いストレスを受けたとされる女性が、心筋梗塞を起こして死亡した事件について、女性の夫が昨年末、国(さいたま家裁判事)を相手取り東京地裁に国家賠償請求訴訟を起こしたこと。「無念の死を遂げた妻に成り代わり現在の成年後見制度が本当に住民のためになっているのかを裁判で問いたい」と夫は語る。

もう一つの事件は、未成年者の知的・精神障害者の後見問題に関するものだ。今年4月の成人年齢(満18歳)引き下げを契機に持ち上がり、法務省と全国の法務局、公証人、障害を持つ子の親たちや家裁を巻き込んだ大騒動になっている。こちらの事件の背景にも、家裁が親を後見人に選ばないことに対する親たちの不信感と不満がある。

「ストレス死しそうだ」

まず国賠訴訟について説明する。提訴したのは亡くなった女性の79歳の夫(埼玉県在住)だ。夫によると、亡くなった女性は生前、「この制度を利用して良いことは一つもなかった。不安と怒りが募って夜よく眠れない。ストレスが溜まる一方でストレス死しそうだ」と繰り返し話していた。

女性は、自治体のパンフレットで成年後見制度を知り、知的障害を持つ娘のために良かれと思い制度を利用。2019年6月、路上を歩いているときに心筋梗塞を起こし、69歳で急死した。女性に心臓病の既往症はなかった。

「妻が急死したとき、娘は、いつものようにお菓子作りの作業場で働いていました。夕方、家に帰った娘に“今日、お母さんが死んじゃったよ”と話すと、娘は押し黙ったまま涙をポロリと流しました」と夫は話す。

女性は2012年から制度を利用。家裁は女性を娘の後見人に選任し、女性の献身的な仕事ぶりを評価していた。ところが2017年になって突然、女性とは別に新たに財産管理のための弁護士後見人を家裁が選任したことで一家は地獄に突き落される。後見人には本人に代わって(1)財産を管理する権利と(2)身上監護(医療や介護の契約などを行う)権利が家裁から賦与されるが、さいたま家裁判事は、女性から財産管理権を剥奪して弁護士に与えたのだ。

目的は、家裁が新たに選任した弁護士を通じて、夫婦が娘名義で積み立てた1600万円の預貯金を信託銀行に預けさせ、家裁の許可がない限り使えないようにするためだった。これは「後見制度支援信託」と呼ばれる仕組みで、家裁を統括する最高裁事務総局家庭局の指示で全国規模で推進されている。

「私たち夫婦は、障害を持つ娘の将来を案じて、夫婦の乏しい資産の中から、娘の名義でコツコツとお金を積み立ててきました。ところが家裁は“お前たち夫婦は娘のお金を横領する恐れがある”と言って、妻から娘名義の財産を管理する権利を問答無用で取り上げました。

弁護士は、娘の預貯金を信託銀行に預ける手続きを進めようとしたが、その手続きに対する報酬だけで娘の預貯金から弁護士に最低でも20万円払わねばならないという。しかも私たちの死後に娘が亡くなったら、信託した預貯金の残額は全額国庫に没収される。妻は“とんでもない制度だ”と憤慨していました」

「親族後見人」が激減

成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表が語る。

「本人の預貯金が800万円以上ある認知症高齢者や障害者の場合、家裁は親族が親や子のお金を横領するのを防止するという名目で、親族以外の第三者の弁護士や司法書士らの士業を後見人に選任するのが一般的です。このため2000年に9割を占めていた親族後見人は現在3割に激減。いまでは後見人の7割を弁護士と司法書士らが占めています」

その一方で、全国の家裁は2015年頃から、過去に家裁が親族を後見人に選任したケースについても「預貯金が800万円以上ある場合は、そのお金を強制的に信託銀行に預けさせて使えなくするか、親族を監視する後見監督人(弁護士)を強制的につける運用を行っている」と宮内氏は語る。監督人にも報酬が発生するのは言うまでもない。

弁護士、司法書士による被後見人の財産横領事件は毎年のように報じられているが、最高裁家庭局は、親族後見人に対してだけ後見信託などの横領防止策を強制している。

「妻は“私は後見人として一度も家裁から問題を指摘されたことがない。それなのに、ある日突然 、お前たち夫婦は娘の金を泥棒する可能性がある泥棒予備軍だ、と言って家裁は娘名義のお金を取り上げた。屈辱の余り、怒りで胸が張り裂けそうよ”と悔しがっていました」(夫)

夫婦は、家裁と弁護士による信託強制に強く反発して抵抗した。すると家裁は女性を娘の後見人から解任する挙に出た。後見人を解任された女性は疲労困憊の様子だったという。女性が心筋梗塞を起こして路上で急死したのは、それからしばらくのこと。一市民が国家(家裁)や弁護士といった法律専門家と対峙し続けるのは大変なストレスだっただろう。

女性は、いつも娘の将来を心配し、夫にこう話していた。

「親は娘のために無報酬で懸命に後見人を務めるけど、弁護士後見人は娘と赤の他人なので娘に関心はない。弁護士は娘の預貯金通帳を金庫で管理する以外、年に一回、家裁に報告書を提出するほかは事実上何もしない。それなのに年間数十万円もの報酬を娘のわずかな資産から取っていく。これが娘が死ぬまで延々続いたら、弁護士報酬だけで娘のお金はなくなってしまう」

妻の死後、夫は娘の後見人になりたいと申し立てたが、家裁は認めなかった。現在、娘の後見人には弁護士が就いている。

「無報酬で子のために尽くす親がいるのに、なぜ親が後見人になれないのか。親が子のためにと残したお金が、弁護士らの士業後見人のために使われる現状に、全国の障害を持つ親御さんは戦々恐々としています。そうした全国の親の一人として制度の在り方に一石投じるために裁判に踏み切った」と夫は語る。東京地裁の判決は今年4月の予定だ。

一方、この裁判との関連で注目されるのが、先に触れた法務省を舞台とする大騒動だ。マスコミはまったく報じていないが、障害者の親が子の後見人になれない問題を巡り、法務省が大混乱に陥っているのだ。

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