データサイエンス化の潮流で失われるものとは?
経済学は、テクニカルに洗練された学問といえる。
サムエルソンの『経済学』以来、入門から修士課程までの教科書が整備され、体系的かつ網羅的に学習を進めることができる。
しかし、学問のこうした「制度化」は、「硬直化」の歴史でもある。
とりわけ、近年、急速に進んだデータサイエンス化の潮流は、経済学の〈余白〉を洗い流してしまってはいないだろうか──。
本書は経済に限らず、文化・歴史・音楽など、経済思想史家の折々の所感が静かに綴られている。
本書はこう問いかける。
経済学を学ぶ者は、経済学以外の幅広い分野に関心を持ち、みずからの教養を高める努力をすべきではないか。
数学や統計学しか扱わない経済学に果たして未来はあるのか。
清水幾太郎との出会い、師事した菱山泉・伊東光晴のことなど、本書ではさまざまな情景が浮かび上がる。
一方、高校に導入された「歴史総合」や大学で相次いで廃止される第二外国語についての著者の思いが語られる。
めまぐるしく進んでいく時代に失ってはならないものとはなにか。
経済学の〈余白〉を恢復する試み。
著者による連載、日本経済新聞夕刊「あすへの話題」の書籍化。
白水社「経済学の余白」 根井雅弘 著