信濃毎日新聞 2024年10月19日
昨年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘が始まり1年が過ぎた。
佐久市の佐久総合病院で勤務経験があり、昨年末から断続的にガザの病院で戦傷者らの治療に当たる
医師の安藤恒平さん(46)=甲府市=が、甲府市内で信濃毎日新聞の取材に応じた。
子どもを含む悲惨な状態の患者が運び込まれる中、自身も危険と隣り合わせの状況に置かれる日々を
振り返り、平和の大切さを訴えた。
安藤さんは福岡市出身で九州大医学部を卒業した。
心臓血管外科が専門だったが「人が行きたがらない場所に医療を届けたい」と、2011年から国際医療団体「国境なき医師団」の医師としてナイジェリアやパキスタンなどに赴任。
21年からは赤十字国際委員会(ICRC)に所属する。
佐久総合病院では10年から1年間、外科治療の経験を積んだ。
「土地柄や出会った人々が魅力的だった」とし、今もしばしば佐久市を訪れている。
昨年12月以降、ガザに4回派遣された。
比較的安全とされる病院には多くの人が身を寄せ、廊下で寝泊まりしたり階段で調理したり。
ひしめき合って命をつないでいた。ガザでは、攻撃を受けた病院もあるという。
これまで安藤さんが勤務する病院が攻撃を受けたことはないが、昼夜を問わず窓越しに砲撃による
煙が上がっているのが見えた。
足に破片が刺さった赤ちゃんが運ばれてきた時は「狙われていなくても砲撃に巻き込まれる」と思った。
戦争の理不尽さと共に、戦地に身を置いていることを実感した。
直近では今年7月下旬から9月上旬にガザ最南部ラファにICRCが設置した野外病院で治療に従事した。
各国の医療関係者でつくるチームのリーダーを初めて任された。
ラファにはガザ北部から逃れてテント生活をする市民が大勢いる。
搬送されてくるのはほとんどが男性で、手足が吹き飛んでいたり、顔がつぶれていたり。
いずれも交通事故などとは違う、日本では目にすることのない傷だった。
一命を取り留めても一瞬で家族や体の一部を失った精神的ダメージは計り知れない。
患者が運ばれてくるたびに「なぜこんなことを」と思わずにはいられなかった。
「どんな人にでも分け隔てなく医療を届ける」という信念から治療に専念し、政治的な話はしないようにしている。
「俺は兵士じゃない」と訴える男性患者もいたが、本当のところは分からない。
医師の心身への影響を考慮し、1回の派遣期間は5から6週間。
それでも「1回で5から10キロ痩せる」。
帰国中は次の派遣に備えて休養しつつ、全国各地からの講演依頼に対応する。
ガザでの戦闘が始まって今月7日で1年となった。
日本では関心が薄れていると感じ「現地を知る自分と交流を持ってもらうことで何か感じてほしい」と願う。
1日は甲府市内で小学校教諭向けに講演した。
参加者から子どもたちに伝えたいことを問われると、安藤さんは「いろいろあるけれど」と少し考えてこう語った。
「平和はぼうっとしていてもやってくるものではない。平和は自らの手で得るもので、努力しなきゃいけない」
年内は国内で過ごし、来年以降、要請があれば再びガザに向かうつもりだ
「自ら努力しないと、平和は得られない」 ガザ派遣の医師、戦争の理不尽さ直面|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト