「故人は人の悪口は一切言わない優しい女性でした。いつもニコニコしていて、私や家族を助けてくれました。君が傍にいてくれたから、僕はこの歳まで生きてこられた。君が傍にいてくれたから、僕は辛いことも乗り越えられた。弱い僕をいつも優しく見守ってくれました。生まれ変わっても、また○○と結婚したい。こんなダメな僕と一緒になってくれて、本当にありがとう。また来世でも会いたい」
そう言って、喪主を務める男性は泣き崩れた。
傍では故人の孫、ひ孫までもが「おばあちゃん、おばあちゃん」と言いつつ、嗚咽を漏らしながら、棺にしがみつき泣いていた。
上記の言葉は、葬儀式が終わり、今、まさにこれから火葬場へと向かう「出棺」の時の出来事の際に聞いた言葉である。
突然の事故で急に亡くなった女性の死を悼み、その場にいた誰しもが込み上げてくるものを抑えることが出来なかった。
やりきれない気持ちを抱えつつ、火葬場へと向かう途中、私は何故か以前見たNHKの大河ドラマ「軍師官兵衛」のワンシーンをふと思い出した。
「貴殿とは短い付き合いだったが、楽しかった。また来世でもお会いしたい」
毛利家に攻められ、死を決意した山中鹿介が、黒田官兵衛にそのように語ったのである。
かつて私は、病院の緩和ケア病棟(ホスピス病棟)で、末期ガン患者さんの看取りに従事し、数百名の最期に立ち会ってきた。
また、お別れの最期の儀式、葬儀という場面には二千件以上は立ち会ってきたが、「また来世でも会いたい」という言葉は、遺族の口からほとんど聞いたことがなかった。
「来世でも会いたい」と言える人がいるだけでも、人は生きるに値する。
と同時に、今の私は、「来世でも会いたい」と心から言えるような人がどれほどいるのか?と自問自答してしまった。
恥ずかしながら、少ないような気がする。
ということは、私に対しても、ほとんどの方は「来世でも会いたい」とは思っていないということであろう。
今のあなたには「来世でも会いたい」と思えるような人がいますか?
また、そう言ってくれる人がいますか?