糖尿病との格闘の歴史に終止符を打つ
~幹細胞の概念が生んだ臓器再生という光~ 小島 秀人
日本の成人の 5 人に 1 人、世界で 5 億 3700 万人が罹患していると言われる糖尿病。
特に生活様式の変化に伴い、2 型糖尿病は世界中で増加の一途を辿っている。
一度罹患すると完治せず、食事療法、運動療法、薬物療法による厳しい血糖コントロールを強いられる。
「糖尿病を治したい」という信念を持ち続けて、糖尿病治療の研究に一意専心に取り組んで来た滋賀医科大学の小島秀人氏に、これ迄の研究の成果と今後の展望を伺った。
しかし、どの治療法も、糖尿病を治す為 の治療ではありませんでした。
私の中には、常に「糖 尿病は何故治らないのか?」という疑問が有りました。
・膵臓の代わりに肝臓からインスリンを出すその時、どうして も理解出来ない現象が 1 つ有りました。治療し ていないマウスなので、インスリンが出る筈の ない肝臓からインスリンが出ていたのです。膵 臓ではなく肝臓からですよ。
――これが「糖尿病幹細胞」の発見に繋がる訳 ですね。
小島 先ず、その細胞が体のどこから来ている のかというのが疑問でした。これについてはノ ーベル賞の受賞対象となった緑色蛍光タンパク 質(GFP)を使う事により明らかにする事が出 来ました。糖尿病マウスでは、肝臓だけではな く、脂肪組織や骨髄等、体中の様々な臓器でプ ロインスリンが産生され、炎症性サイトカインの TNF- αを共発現していました。そして、プ ロインスリンを産生する細胞の殆どが骨髄から 来た細胞である事が分かりました。つまり、犯人は骨髄 の中に居たのです。長い間膵臓の病気だと思わ れていた糖尿病は、実は白血病と同じ骨髄から 血管を流れてやって来る病気だったのです。
・骨髄由来の異常細胞が再生システムを破壊
――骨髄由来の細胞が糖尿病にどの様に関与し ているのでしょうか。
小島 この骨髄由来の細胞というのが、造血幹 細胞由来の細胞です。造血幹細胞は血液を作る と同時に、血管を作る細胞です。人の体には 元々、臓器を再生してホメオスタシスを維持す るシステムが備わっています。造血幹細胞はそ の中心として働き、体のあらゆる臓器で壊れた 臓器を再生するシステムを作り上げています。
――異常な造血幹細胞は何故生まれるのでしょうか。
小島 異常細胞は高血糖によって作られます。又、幹 細胞が臓器の細胞に変わる過程では、ある遺伝子が多 く発現し、ある遺伝子の発現が少なくなるという様に、 遺伝子の発現が調節されて違う細胞に変わって行きます。それをエピゲノム調節と言います。がんが起こる時 も、本来発現しなければならない遺伝子が発現しないが為にがんになってしまいます。遺伝子が変わる訳で はありません。糖尿病でも同じ事が起こっているのです。一方で、そもそも糖尿病には成り易い体質がありま す。それが遺伝です。日本人の持っている遺伝子の中で 糖尿病に成り易い遺伝子というのがゲノム研究によっ て分かって来ています。そういう遺伝子を持った人が 生活習慣や自己抗体が原因で糖尿病を発症し易いので すが、予防すれば必ずしも発症する訳ではありません。
――「糖尿病の完治」の、研究の現状を教えて下さい。
小島 先ずは合併症を治療する所からと思い、神経障 害が治る事を立証しました。この 1 ~ 2 年はβ細胞の再生に取り組みました。そして、完全ではありません が、95% 消失したβ細胞が 5 ~ 6 割位戻せる様になり ました。これでようやく、様々な合併症も含めて糖尿 病が治るというところ迄来ました。論文は現在投稿し ているところです。
・移植不要・既存薬で糖尿病は完治出来る
――どの様に治療するのでしょうか? 移植が必要な のでしょうか?
小島 移植は必要有りません。全身の血管を元に戻し て再生システムを復活させる事で、糖尿病は治す事が 出来ます。実はそういう薬が既に在るのです。