お世話になっている写真家の小松由佳さんから、メールが届きました。↓
▼AERAdot.(アエラドット)様にインタビューいただきました(2月19日配信記事)
https://yukakomatsu.jp/2023/02/20/3443/
地震で大きな被害を受けたトルコ南部アンタキヤの街。2月16日(写真/アフロ)
トルコ・シリア大地震の死者数が4万人を超えた。
地震発生から10日以上が過ぎた今も行方不明者の捜索が続いている。
トルコには隣国シリアからの難民が多く暮らしているが、被災地の一部ではトルコ人とシリア人との対立が深まっている。
ドキュメンタリーフォトグラファーの小松由佳さんは10年ほど前からトルコ南部で取材してきた。
さらに、この地域にはシリア出身の小松さんの夫の親族が大勢暮らしている。
震災直後から現地と連絡をとり続けてきた小松さんに聞いた。
今回の地震でもっとも被害の大きい都市の一つがトルコ南部、ハタイ県の県都アンタキヤだ。この街は今回の地震で大きくズレ動いた東アナトリア断層のほぼ真上に位置する。
「高層ビルの多いアンタキヤにはまだ大勢の行方不明者がいます。私の夫のいとこの家族も就寝中に生き埋めになってしまい、まだ見つかっていません」
小松さんのコーディネーターを務めてきたアブドュルラフマンさんの友人の家族もアンタキヤのマンションで暮らしていた。しかし、建物が倒壊し、家族全員ががれきの下敷きになった。
アブドュルラフマンさんは救援隊に重機を使った捜索を依頼した。ところが、捜索を後回しにされてしまった。被災者がシリア人だったからだ。
「捜索はトルコ人が優先で、埋もれているのがシリア人だとわかると後回しされました。それに抗議すると、トルコ人の集団とけんかになり、鼻の骨を折られたそうです」
■重症でも入院できない
2011年にシリアで民主化運動が始まり、やがて内戦が勃発すると、トルコは同じイスラムの友人として多くのシリア難民を受け入れてきた。
トルコに移り住んだシリア人は約350万人。その多くが、今回の地震で大きな被害を受けた地域に暮らしている。
当初、「客人」としてシリア人を受け入れてきたトルコ政府だったが、最近、彼らを「負担」と感じるトルコ人が増えてきた。そこに、今回の地震である。
同じ被災者にもかかわらず、「トルコ人とシリア人では、支援に差が出ていると聞いています」と、小松さんは指摘する。
被災現場から救助されたトルコ人は重症のけがを負っていれば、ヘリコプターなどで搬送されるが、シリア人は大けがでも入院が許されず、重症化したり亡くなったりするケースも出ているという。
「私が聞いた話では、複数の骨折をしたシリア人が病院に搬送されましたが、トルコ人しか入院が認められず、家に帰されてしまいました。家には暖房のための薪がなく、寒さのなか、容態が悪化して亡くなったそうです」
■暖房用の薪は2倍に値上がり
今、現地でもっとも不足しているは暖房用の燃料だという。もともとこの地域では冬になると薪や炭を燃料にしたストーブで暖をとってきたが、シリア人はこれらの燃料の入手が困難になっている。
「アンタキヤと、シリア国境に接するレイハンルに住む親族や知人によると、トルコ人には薪や炭が配給されていますが、シリア人に対しては行われていません。なので、自分たちで買うしかないそうです」
https://www.youtube.com/embed/zC-KCirhiPE
アンタキヤやレイハンルでは、トルコ系の支援機関が大量の薪や炭を購入していることもあり、品薄となり、価格も大幅に上がった。
地震前、炭は1キロ5トルコリラ(約40円)だったが、2倍近い9トルコリラに値上がりした。薪は1キロ3リラ(約24円)から、2倍の6リラに値上がりしている。しかも、1回20キロほどしか売ってもらえないという。
「崩壊を免れた家の多くも基礎部分や壁、屋根に亀裂が入って、住むことができない。被災地に避難所が設けられ、暖かいご飯も提供されていますが、利用できるのはトルコ人のみで、シリア人は利用できないそうです」
■シリア人は集団埋葬
小松さんは続けた。
「支援が不公平であることについては、ある意味、仕方がないという思いもあるようです。しかし、亡くなった人に対する扱いが平等でないことに対してはかなり憤りを覚えている。暴動になりかけた、という話も聞きました。遺体の問題はとてもセンシティブです」
墓地の一角には大きな穴が掘られ、身元が確認された遺体であっても、それがシリア人の場合は集団埋葬することが強要されているという。
「イスラム教徒は教えに沿った方法で遺体の埋葬することをとても大切にします。基本的に亡くなってから24時間以内に土葬にしなければならない。もちろん、遺体1体につき、一つのお墓と定められています。トルコ人の場合は、それを守ることが認められていますが、墓地に大きな穴が掘られ、シリア人の遺体はみんなそこに入れられてしまう。死者の尊厳を侵す行為だと、反発する声がかなり上がっている。集団埋葬を拒んで、遺体をシリアに運んで埋葬するという話も結構聞いています」
地震で大きな被害を受けたトルコ南部アンタキヤの街。2月16日(写真/アフロ)
背景には、トルコからシリアへ緊急支援を行うため、人の行き来がしやすくなっていることもある。
結局のところ、トルコに住むシリア人被災者は支援物資だけではかなり足りないものがあり、それは購入しないと入手できない。さらに遺体をシリアに運んで埋葬するにも費用がかかる。
「なので、正直に言うと、彼らが一番必要としているのはお金です」
■八方ふさがりのシリア難民
限られた資器材や物資のなかで、トルコ政府が優先すべきは自国民の救出や支援であることは理解できると、小松さんは言う。
「でも、助けが必要な切羽詰まった状況にあるのは、トルコ人もシリア人も変わりありません。そのなかで、トルコ人に支援が優先されている。シリア人からすれば、自分たちはやはりよそ者でしかないのだ、という不安と不満が高まっています」
このままトルコにとどまり続けるか、それとも内戦が続くシリアに戻るか、シリア難民の心は揺れる。
「昨年からトルコの物価は急激に上がりました。この地震を機にトルコでの生活をあきらめて、シリアに帰る人もすでにかなり出てきています。でも、シリアでは電気やガスなどの供給など、インフラが不安定ですし、再びトルコに戻ってくることはかなり難しい」
彼らが願っているのは欧州で難民認定を受け、そこで生活を再建することだという。
「でも、欧州に渡るには1人7000ユーロ(約100万円)ほどが必要です。多くの場合、その費用を親族から借りて欧州に渡り、そこで働いて借金を返す。でも、それは経済的に余裕のある親族がいないとできない。もともとシリア難民はトルコ社会の困窮層であるのに加え、この地震で多くが家や仕事を失った。この先については、まだまったく考えられない状況だそうです」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)