変わらない現実

東日本大震災から、まもなく12年(13回忌)。

筆者は直後から福島県に入り、ひとりひとりの様々な声を聴いてきた。

震災が風化されつつある今、当時、筆者が聴かせていただいた声(言葉)を、改めて掲載してみたい。

あの震災を忘れないためにも。。



福島に住む友人が、震災から数年たって、私にこう述べたことがある。

「震災から数年が経って、福島の問題がなかったことにされようとしている。しかしそれは、第二第三の福島を生み出す可能性がある。福島の実態をきちんと見て、検証し直さないと、また同じことが起こる」と。

だが、選挙をやれば原発推進・容認派が未だ当選し、原発事故を経ても社会は大きく変化していない。

ここで一つの疑問が出てくる。

当事者である福島在住の人々が今以上にもっと立ち上がり、声を上げ、国や県を動かしていけば、もっと事態は良いほうへ回復していくのではないか?という疑問である。

しかし、そのことはなかなか容易ではないことに、筆者は、数多くの人の声を聴くにつれ、思い知ることとなる。

福島市 60 代男性

『「何故、福島では市民運動が盛り上がらないのかって?日本人は今まで、お上からの指示に従うだけで、自分で考えて行動してこなかった。原発の問題に関しても、未だに福島では原発容認派が多数派だと思うよ。福島県内では、あきらめ感・無力感が漂っている』

会津若松市 30 代女性

『避難生活を送っている私たち当事者抜きに、偉い人たちが私たち当事者の知らない所で、私たちの生活に関する大事なことを決定されている。私たち当事者はカヤの外。今までだってそうだったし、これからもそうだろう。そのあきらめ感が、若者の政治離れ、無気力を生み出している』

福島市 70 代男性

『俺たち原発周辺の住民は皆、多かれ少なかれ原発の恩恵を受けていた。俺だって東電にぶら下がって家を買った。そして原発を推進する議員を選挙で選んできた。それが今、間違っていたと本気で思うならば、俺たち住民自らが考え方を変えないと、何も変わらない。でもね、それが一番難しい。偉い人の言う通り、皆が行く方に、自分も無意識的に付いていっただけ。自分の頭で物事を今まで一切考えてこなかったんだもの。急に考え方を変えるなんて、俺たち年寄りには無理だよ』

南相馬市 30 代男性

『原発は安全!と判決を出した最高裁判事は、東芝に天下っていった。その東芝は、東電に原子炉を納入している。一体、どのくらいのカネが電力会社から飛び交っているんだろう?想像するだけで怖いよ。莫大な原発マネーが蠢いている限り、現実は何も変わらないと思う』

南相馬市 30 代男性

『東電(電事連)は、国民に世界一高い電気料金を押し付け、一方で、原発立地の自治体に電源3法交付金でカネをばらまく。総括原価方式によって、原発を作れば作るほど儲かる仕組みが既に構造的に出来あがっている。こんな事はもう止めようと誰かが言わないと、誰も幸せにならない』

二本松市 30 代男性

『東電の原子炉は、大手ゼネコン数社が独占受注している。経団連・大企業・ゼネコン・商社は、東電にとって、大切な大口顧客。全国原子力発電所の建設費用は十数兆円だよ。物凄い額の原発マネーが、一般庶民の知らないところで動き回って、利権となっている。東電が国有化出来ない訳だ』

相馬市 40 代男性

『電事連からメディア・記者クラブへの広告料は年間数百億円。NHKですら、電力会社の社債を莫大に所有している。だから、フリー記者は、東電様に変な質問をするな!とまで言われてしまう。ジャーナリズムなんて共同幻想。真実なんて、この巨大利権が渦巻く中、伝えられるわけがない』

伊達市 70 代男性

『俺たちの故郷が、放射能に汚染されたことくらい知っているよ。子供たちの甲状腺検査で、かなりの数の異常が見つかったことも知っているよ。でもそれを言って、どうなる?地元住民ですら放射能の話はダブー視されているんだよ。もう、どうでもいい。仕方がない。諦めるしかない』

いわき市 70 代男性

『「行政や政治家はダメだ。話にならない」という全否定型。「俺の話を聞け」という押しつけ型。「どうせ何も変わらない」という無関心型。この3パターンの住民が、被災地の中でせめぎ合っている感じ。だが、誰も責任は取りたくない。自治会の役員などに口は出すけど、自分から進んで役員をやったり、住民の為に汗を流す人は少ない』

いわき市 40 代男性

『結局、人間は自分さえよければそれで良いという我がままな生き物。原発をゼロにするのは事故が起こった今、正論だと思うよ。でもね、福島県内の田舎に住んでみたらいい。仕事なんてないから。柏崎刈羽原発でもどこでも、俺は家族を養うため、原発で働くよ。それしかできないから』

いわき市 60 代女性

『福島県庁まで行って私たち仮設住宅の住民の声や要望を伝えました。そうすると、地元の役場に相談してくれと言われました。そこで地元の役場に相談すると、県や国に行ってくれと言われました。私たちは一体、どうすればいいの?毎回毎回たらい回しにされ、もううんざり。私たちがやっているのは、砂漠に水を撒くようなもの。現実は何も変わらない。』

南相馬市 50 代男性

『日本の民主主義は株主のみに通用する。日本人の多くが原発に反対しても、東電の株主が原発を推進する限り、原発は無くならない。東電の大株主は、生命保険と銀行等の金融機関、そして東京都。本当に原発を無くしたいのならば、預金を預ける銀行を、市民は吟味する必要がある』

南相馬市 50 代男性

『都会と違ってここ地方は、人間関係のしがらみが強い。血縁・地縁も強い。うまくいっている時はいいけど、仕事で失敗した、事業に失敗した、離婚した、自己破産した等で、悪い噂が隣近所に伝わると、一気に白い目で見られ、排除の対象となる。都会の孤立も問題だけど、地方の煩わしい人間関係は凄いよ。この町で生きようと思ったら、おとなしくしていた方がいい。何か言うとすぐ噂になって、村八分にされるから』

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