2010年にNHKが放送した「無縁社会」という番組をご存じだろうか?
私が生活困窮者の葬送支援をする活動が番組内で紹介されるや否や、全国から「おひとりさま」を中心に相談が殺到したのである。
電話・メール・手紙・FAXだけで述べ1万件近く相談を受けただろう。
現在でも「あんたに葬儀をやってほしい」「葬儀やお墓の相談に乗ってほしい」という相談が私の元には絶えない。
と同時に、話を聞いていると経済的にも家族にも恵まれている状態で、葬儀が出来る状態にもかかわらず、「あんたをテレビで見たよ。あんたはお布施なしで無料で葬儀をやってくれるんだろう。俺は親父が死んでも葬式もしないし、遺骨も要らないから、あんたが代わりに処分してくれよ」という声を聞くことがしばしばあるのだ。
「故人をきちんとお弔いをしてあげたい、でも経済的に余裕が無い」と言う方に私は無料で葬送支援のお手伝いさせて頂いている。
しかし、世の中にはこちらの足元を見て、「お布施がタダだから」という安易な発想で葬送の依頼をしてくる人も大勢いるのだ。
そのたびに、何ともやりきれない気持ちに私はなる。
宗教を信じない・宗教は必要ないと思われる方は、葬儀や納骨の際に、宗教者を呼ぶ必要はないと私は考える。
相談の事例を紹介しよう。
相談者の男女比であるが、4対6で女性の方が若干多い。
年齢は、やはり中高年以上の方が多く、ご主人を亡くされたお連れ合いの方、親兄弟を亡くされた方が多い。
相談の内訳
1 お布施・お寺に関する相談
2 葬儀社の対応・料金に関する相談
3 お墓に関する相談
4 人生・悩み相談・その他
やはり「お布施」に関する質問、問い合わせが圧倒的に多かった。面談を行った方で、了承を得ている方の声の一部を紹介する。
「お布施」「お寺」に対する一般の方の声
布施とは欲を捨てさせていただく行為。行う側の修行(60代男性)
家族が亡くなり、病院から菩提寺の住職に電話をかけた。すると「お布施は○○万円でお願いします」と最初に言われ、悲しかった。住職はまず、遺族(家族)の悲しみの声に耳を傾けるべきではないか?ビジネスとして僧侶をやっているのか?(50代女性)
地方から上京してきたため、お寺との付き合いが全くありませんでした。身内の葬儀の際、葬儀社から紹介された僧侶に読経を依頼。しかし、後から僧侶に包んだお布施の一部が葬儀社に流れていることを知り、ショックを受けました。(40代女性)
経済的な事情で、お布施をする余裕がない(50代男性)
寺院の維持・管理費として認識している(70代男性)
戒名(法名)のランクによってお布施が異なるのはおかしいと思う(60代女性)
日常的なお付き合いが皆無なのに、葬儀の時だけ高額なお布施を要求されても困ります(70代女性)
宗教者として信仰を持っているとは感じられない。家業としてやっているように見える(50代男性)
菩提寺の住職と普段から信頼関係が出来ているので、特に問題はない(70代男性)
父が亡くなりそうです。葬儀など行わず、直葬(火葬のみ)で済ませたいと思っているが、問題ない のか?(30代男性)
葬儀社の対応・料金についての相談
料金が高すぎる。何故、そんなに高いのか理解できない(70代女性)
以前からよく知っている葬儀社さんに依頼した。料金も良心的で、安心して任せることが出来た。(60代女性)
病院指定の業者さんは、裏で病院と取引があるのではないか?(40代男性)
料金設定が不明確。説明責任を果たしていない(40代女性)
大切な人を亡くし悲しんでいるのに、心ない一言で大変傷ついた。もっと気配りや配慮が必要ではないか?人の「死」を食い物にしている感じがする(50代女性)
数社から見積もりを取ったが、同じ祭壇でも全く料金設定が違うのは何故か?他の業界ではありえないのではないか?(60代男性)
前から付き合いのある互助会に父の葬儀を依頼したが、互助会のシステムそのものに疑問を感じた。イザという時に安く対応できると考えて互助会に入ったが、積立金がなくても料金設定そのものは、他の良心的な葬儀社の方が安く施工できる。互助会の仕組みは「顧客の囲い込み」そのものだ。(40代男性)
事前に葬儀社を決めておきたいので、何社か事前に見積もりを取っておきたい(70代女性)
お墓・石材店に関する相談
霊園・お寺によっては、石材店が予め決まっている場合がある。それは何故か?(40代男性)
父が亡くなって頼みもしないのに、石材店のダイレクトメールが届く(40代女性)
良い石材店の基準を教えて欲しい(70代女性)
地方にある先祖代々のお墓を首都圏に移したいが、どうすれば良いか?(50代男性)
子どもがいない(後継ぎがいない)ので永代供養墓・納骨堂を探している(60代女性)
散骨したい。(70代女性)
生活が困窮しているために主人のお墓を作れない。どこかに納骨出来るところはないか?(70代女性)
人生相談・その他
自死遺族や生活困窮者からの相談
霊魂についての相談
相談を通じて見えてきたこと・実態白書
お布施は料金ではありません。
相談を受けていて感じるのは、包む側と受け取る側の温度差、コミュニケーション不足が最大の問題。
経済的状況はそれぞれの家庭によって異なるので一律化する必要はない。
僧侶の活動や信仰心を見て、各自が出来る範囲で良いのでは?
お布施に込められた「願い」を感じる必要がある。ほとけさまは常に見ています。
お布施に関する相談者からの問い合わせで多いもの
お布施を包む意義が感じられない
高額な料金を明示された(株式会社○○寺になっているのでは?)
僧侶が信仰を持っているようには見えない
お寺は家の家業になっているのでは?「宗教」は「心」を扱うものなのに、何故に金額の話ばかり?
しかし、「信頼できる・ちゃんとしたご僧侶に供養してほしい」という相談は多い。
では、ちゃんとした(信頼できる)というのは、どのような僧侶のことなのか?
相談で言われたことは・・・
- 僧侶としてよりも人間として尊敬できる
- 時間を守ってくれる
- お布施が少ない金額でも心をこめてやってくれる
また生前に戒名(法名)を欲しいという相談は1件。
理由を聞いてみると、戒名料が高いから、生前から戒名をもらえば安く済むのでは?ということ。
檀家になるとか、寄付を要求されるとかの付き合いは現時点では、まっぴらごめん。
このギャップをどう埋めていくのか?そのために僧侶側が出来ることは
→宗教的な土台をきちんと持った上で、宗教用語を極力使わず、宗教を超えていこうとする実践
→社会の痛みにどれだけ向き合えるのか?
→信心を行動に移し実践する、汗を流す
→お布施の使い道を明示していく
相談者の多くは「人との繋がり・目に見えないものとの繋がりを求めている」
→しかしそれは、既成仏教の枠にとどまらない。宗教意識の変化
病院に「死」が隠ぺいされるようになり、死や苦しみが見えにくい時代は、死生観なき時代。それは信仰を持ちにくい時代である。
ゆえに「いのち」のバトンタッチ・親から子へ「いのち」の重みを伝える機会の喪失しがちである。
しかし、ひとりぼっちは嫌だ、誰かと繋がっていたい・分かち合いたいという気持ちは依然として存在する。
また、特筆べきことは300件近くの僧侶からの問い合わせがあったこと。
地方在住の僧侶からの問い合わせが多く、「檀家が減少して寺院運営が難しい」「仏教行事に人が集まらない」「葬儀社からの紹介で、葬儀の導師の仕事を請け負うが、お布施のバックマージンの要求が厳しく、どうしたら良いか」など、寺院運営に困難を抱えている僧侶からの相談も多く、僧侶自身も檀家さんや葬儀社さんとの関係に悩んでいることが分かった。
本来あるべき姿の葬儀とはどのようなものか?
生とは何か?死とは何か?お布施とは何か?僧侶とはどうあるべきなのか?
生と死を巡る諸問題に包括的に対処し、壊れてしまった地域社会の再構築を目指す。その試みを私たち労働者協同組合「結の会(ワーカーズ葬祭&後見サポートセンタ)」は実践している。
それは家族・地域・会社に代わる新しい縁であり、檀家制度とは別の、あたたかい、ゆるやかな繋がりある世界を目指すものでもある。