以下、個人的にお世話になっている写真家・小松由佳さんのコメントも入った記事です。
トルコ地震「がれきの中から『助けてくれ』の声も何もできず…」迫る72時間 日本で起きる地震との違いは?(1/4)〈dot.〉 | AERA dot. (アエラドット) (asahi.com)
地震発生後のトルコ・アンタキヤ(写真/アフロ)
トルコ南部からシリア北部にかけて6日に発生した大地震で多くの建物が倒壊し、これまでに8000人以上が死亡した。
救助活動が進むにつれて死者数はさらに増える恐れがある。
フォトジャーナリストの小松由佳さんは10年ほど前からトルコ南部を取材してきた。
さらに、この地域にはシリア出身の小松さんの夫の親族が大勢暮らしている。
震災直後から現地と連絡をとり続けてきた小松さんに聞いた。
「町を歩いていると、建物が崩れたがれきの中から『助けてくれ』って、声が聞こえる。そんな救いを求める声があちこちから聞こえる。だけど、重機がないと何もできない。それが本当につらい、と」
トルコ南東部の街アンタキヤに住む友人から、小松さんはSNSのボイスメッセージで悲痛な言葉を聞いた。
■水、食料の配布はない
米地質調査所(USGS)によると、地震発生は現地時間6日午前4時17分(日本時間6日午前10時17分)。地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.8。
震源はトルコ南部ガジアンテップの西約34キロ、深さは約18キロ。
小松さんの親族は主にガジアンテップ、アンタキヤ、オスマニエといった地方都市のほか、シリア国境に近いレイハンルに住んでいる。
地震発生直後から小松さんは親族と連絡を取り続けてきたが、まだ数人の消息がわからないという。
「早朝、まだ多くの人が寝ているときに地震が起きました。揺れの時間は5分くらいと、かなり長かったようです。すぐに必要なものだけを持って外に避難した。これほど大きな地震を経験したことがないと、みんな言っています」
地震発生から約26時間後、現地時間7日6時ごろ(日本時間7日14時ごろ)、レイハンルに住む知人に電話すると、家から少し離れたところでたき火をして夜を明かしたという。
「毛布をかぶっているけれど強い雨が降っていて、本当に大変だと、言っていました。みんな、公園や空き地、路上、広場、車の中に避難している。電気、ガス、水道は途絶えています。少なくとも親族はまだ水や食料の配布を受け取っていません。ただ、レイハンルには高層建築が少ないので、人的被害はそれほど大きくないそうです」
シリアで誕生直後の女児救出(写真/アフロ)
■がれきの街、アンタキヤ
この地域の家の多くがコンクリートブロック製のため、倒壊したらその下敷きになり、人的被害がかなり増えているのでは、と語る。
「高層マンションが崩れて人々ががれきの中に生き埋めになっているようです」
小松さんの親族が暮らす街のなかで、もっとも被害が大きいと感じるのは冒頭に書いたアンタキヤだ。ハタイ県の県都アンタキヤは古い歴史を持つ商業都市で、人口が集中し、高層建築も多い。
「しかも、古いマンションがかなり建っていました。それが崩れて大きな被害が出ているようです。アンタキヤはレイハンルから車で1時間ほどですが、レイハンルの消防車や救急車のほとんどがアンタキヤに向かったと聞きました」
トルコの隣国シリアでも大きな被害が出ている。特にレイハンルやアンタキヤに近いイドリブ県や、“古都アレッポ”のあるアレッポ県ではたくさんの建物が倒壊している。
「夫は母国で子どものころに地震を経験していますが、これほど大きな地震に出合ったことはないとのことです」
6日午後にはM7.5の地震があり、現地では余震が続いている。震源の深さも10キロと比較的浅いところで起きているだけに、余震での被害も懸念される。
■日本でも起こるのか?
今回なぜ、この場所で地震が発生したのか、海洋研究開発機構の山本揚二朗副主任研究員は、次のように説明する。
「南側のアラビアプレートに対して、北側のアナトリアプレートが南西方向に動いた。この二つのプレート境界、東アナトリア断層で発生した地震だということは言えます」
トルコ地震(写真/アフロ)
トルコの国土はほぼアナトリアプレートの上に乗っており、その周囲にはアラビアプレートをはじめとする四つのプレートがある。
それぞれのプレートは年間数ミリから数センチの速度で移動している。固着したプレートの境界にはひずみがたまり、それが解放される際に地震が発生する。
そのため、トルコは日本と同様、地震が多い。なかでも地震の頻度が高いのは黒海に近い北アナトリア断層付近と、エーゲ海周辺、そして今回の東アナトリア断層付近だという。
トルコ地震はシリアでも大きな被害が出ている(写真/アフロ)
「ただ、USGSが出している1900年から2016年にかけて起こった地震の分布図を見ると、東アナトリア断層付近は規模の大きな地震は少ない。M6を超える地震はここ20年ほどの間に少し起きていますが、M7を超える地震、ましてや今回のM7.8クラスの地震は大昔までさかのぼらなければ発生していない場所です」
しかし、プレート境界から離れた場所で起きる日本の内陸地震とは違い、東アナトリア断層の場合はまさにプレート境界そのものなので、地震が起これば、そこにたまった力が地上を直撃する。
日本では同様の地震が起きることはないのか?
「トルコの場合、プレートの境界が陸地にあります。一方、日本ではプレートの沈み込みは海で起きているので、今回のようなプレート境界における横ずれ地震は起こり得ません。ただ、陸地の横ずれ断層による地震、という意味では兵庫県南部地震や熊本地震などの例があります」
■迫る72時間
被災地の映像を見ると、大勢の人が家屋の下敷きなって亡くなった阪神淡路大震災を思い出す。
今回の被害の大きさについて、これまでトルコで調査を行ってきた山本副主任研究員は、「地震の揺れの大きさもありますが、やはり、建物の耐震性の低さが要因の一つとしてあると思います」。
冬の寒さのなか、生存率が急激に低下する、地震発生から72時間が迫っている。一人でも多くの人が助かってほしいと願うばかりだ。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)