「ハーバード大学を支持してトランプに抵抗する米国の大学」

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宮田 律教授 @Fb
「ハーバード大学を支持してトランプに抵抗する米国の大学」

 ハーバード大学のアラン・ガーバー学長は、ハーバード大学は反ユダヤ主義との闘いに取り組んでいるが、学問の自由が侵害されることは断じて認められないと述べ、連邦政府の資金提供に関連するトランプ政権の要求を拒否した。

「どの政党が政権を握っていようとも、いかなる政府も、私立大学が何を教えることができるか、誰を受け入れて雇うことができるか、どの研究分野で何の調査を行えるかを指示すべきではない」とガー
バー学長は述べている。

 これに対してトランプ大統領は(2025年4月)16日、ハーバード大学が彼の政権の要求に同意することを拒否した後、下のように、ソーシャルメディアの投稿でハーバード大学を非難した。

「ハーバードは急進的な左翼、愚か者、そして学生やいわゆる『未来のリーダー』に失敗を教えることしかできない『鳥の頭脳』を雇ってきた。冗談をもって憎悪と愚かさを教えてるハーバードはもはや連邦資金を受け取るべきではない。」

 「鳥の頭脳」は日ごろの発言からしてトランプ大統領のほうだと思えるが、ハーバード大学の姿勢は、米国の他の大学にも政権に抵抗する気概や勇気を与えることになった。

 プリンストン大学の政治学教授であるヤン・ヴェルナー・ミュラー氏は、各大学のキャンパスで発生している混沌・混乱した環境にもかかわらず、教育機関は協力し合わなければならないと述べた。

「大学は、政府が分割統治戦術を採用していることを認識する必要があります。米国の大学はトランプ政権に対する訴訟戦略で協力し、一般市民を自分たちの味方につけるために共通のアプローチを採り、また大学への研究助成を使って脅迫することを、大統領が私的な裏金を使って行っているような印象を議会に与えるために、可能なことを行うべきです。」とミュラー教授はガーディアン紙の意見記事に書いている。

 ブラウン大学のクリスティーナ・H・パクソン学長は、ハーバード大学の姿勢を支持し、「この機会にハーバード大学を称賛し、ガーバー学長とハーバード大学がこの勇気ある原則的な立場をとってくれたことに感謝したいと思います。トランプ政権の要求を拒絶することで、ハーバード大学は、全国の高等教育機関にとって危機に瀕しているものを守ることの意味を示しました。」とMassLive(マサチューセッツ州のローカルニュース)に語った。

 また、プリンストン大学のクリストファー・アイスグルーバー学長は、プリンストン大学はハーバード大学を支持し、ガーバーの「力強い手紙の全文」を読むよう人々に勧めているとLinkedInに書いている。アイスグルーバー学長は、学問の自由が侵害されれば、米国の大学の知識の追求と社会の強さに切実に不可欠なものを損なうことになると述べた。

 トランプ大統領は大学における反ユダヤ主義を問題にしているが、米国社会全体に見られる反ユダヤ主義を取り締まる姿勢はこの政権には見られない。

現在、トランプが研究助成打ち切りの可能性をちらつかせながら6つの大学を脅迫しているが、トランプ政権には米国で最も影響力のある諸大学を意のままにコントロールしたいとか、さらに重要なことには、昨年春にイスラエルのガザ攻撃への反対運動が最も高揚した大学を標的にこれらの大学の学生たちの運動を鎮静させたい意向があるに違いない。

 昨年4月に米国の大学キャンパスで起きた運動について、イスラエルのネタニヤフ首相は「反ユダヤ主義の暴徒が主要な大学を乗っ取った」と主張し、「彼らはイスラエルの抹殺を呼びかけている。彼らはユダヤ人学生やユダヤ人の教員を攻撃している。これらの運動には良識がなく、止めなければなない。」と訴えたが、コロンビア大学で始まった運動はイスラエルに武器を供給する企業への大学による投資撤退を求めるものだった。

学生たちにはガザでの戦争を終わらせたいという意図があり、ユダヤ人の学生や教員を襲撃するような性格のものではまったくなかった。

実際、一連の運動にはユダヤ人学生たちも多数参加しているが、ネタニヤフ首相は学生たちの運動がイランから資金を提供されているという荒唐無稽な主張も行った。

米国からの武器の供給が停止すればイスラエルの戦争遂行が不可能になることを意味する。

ネタニヤフが危機感をもったのは当然かもしれないが、ネタニヤフと親しいトランプ大統領も同様な危惧をもったに違いない。

 米国の大学生たちが世界の矛盾の是正に大きな影響力をもつことは、1980年代にカリフォルニア大学バークレー校の学生たちがアパルトヘイトの南アフリカ政府とビジネスを行う会社への投資を大学が撤収するように要求したことが、アパルトヘイト廃止に重大な契機と貢献となったことにも見られた。

 スタンフォード大学のジョナサン・レビン学長も声明で、連邦政府の書簡に対するハーバード大学の異議は米国の自由の伝統に根ざしており、米国の大学にとって不可欠なものであり、擁護する価値があると述べたが、関税措置と同様にトランプの大学への介入は米国社会の利益を損ねるものであることは間違いなく、米国の大学の抵抗が学問の自由を守るとともに、イスラエルによる人権侵害を止めるものであってほしいと思う。

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