『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』 – シアター・イメージフォーラム
12/7 渋谷シアター・イメージフォーラムにて初日舞台挨拶&トークショーの様子
(佐藤そのみ監督と、字幕翻訳者の磯尚太郎さんのトークイベント)
映画「春をかさねて」「あなたの瞳に話せたら」は、過去に、弁護士会館、国分寺のスローカフェさん、多摩市のキノコやさん等において、自主上映会があり、筆者は既に5回ほど見ています。
何度見ても、その度に新しい発見がある、素晴らしい映画です。
早稲田大学や当法人でも上映会をしたいなと思い、佐藤監督に直接ご連絡を差し上げ、お目にかかったうえで、是非、自主上映会をウチでもやらせてほしいと願い出ていたところ・・・、なんと、劇場公開が決定したとの佐藤監督よりお知らせが。。
それは行くしかないでしょということで、行ってきましたよ。渋谷のシアター・イメージフォーラムまで。
映画を見た方の感想は、既にFBやXなど、ネット上で、たくさん出ています。
佐藤監督自ら発言されている文章も、以下の様に、たくさんあります。
石巻市出身・佐藤そのみ監督作「春をかさねて」「あなたの瞳に話せたら」全国で上映(動画あり / コメントあり) – 映画ナタリー
東日本大震災の経験を映画に 佐藤そのみさんが込めた思いは – 大震災と子どもたち – NHK みんなでプラス
「必ず前に進める」大川小の卒業生がドキュメンタリー上映…家族や友人を亡くした10代の葛藤【高知発】|FNNプライムオンライン
このブログでは、上記の映画の素晴らしさは言うまでもなく、何故、この映画が筆者の心を引き付けるのかを、以下、筆者の独断と偏見で書いてみようと思います。
今からもう20年ほど前。緩和ケア病棟(ホスピス病棟)で働いていた時、末期がん患者さんのAさん(40代男性)と仲良くなった。
その男性は肺がんで、呼吸すら苦しい状態なのに、それでも何故か、筆者と話をしたがった。
「もう俺の病気は治らないんだ。もうすぐ俺は死ぬ。俺は独り身だし、彼女もいない。独りぼっちだ。家族とも疎遠で、死んだら無縁仏だ。俺の人生は、なんだったんだろうな?意味のある人生だったのかな?」
そんな話をぽつぽつとされる中、当時20代後半だった筆者は、ただ話を聞くことしかできず、何と答えてよいか分からず、俯きながら、悶々とする日々を過ごしていた。
そんな時、たまたまAさんのカルテを見ていると、Aさんの趣味は<映画観賞>と記載があった。
筆者も映画好きなので、Aさんに映画の話を振ってみたところ、Aさんは「病院で映画の話が出来るとは驚いた。あんた面白いな。どんな映画が好きなの?」と聞かれたので、「最近では、リービング・ラスベガス(ニコラスケイジ主演)やソナチネ(北野武監督)、誰も知らない(是枝裕和監督)は、何度も見ました。黒澤や小津、溝口も大好きです。あとは昔のイタリア映画が特に好きです!」などと生意気にも答えたところ、Aさんは「おもしれえ。俺もイタリア映画好き!あんた自転車泥棒見た?パゾリーニって知ってる?」と言ってきた。
それ以来、Aさんは、医師や看護師と症状緩和(疼痛コントロール)や薬の話は一切しなくなり、筆者とやたら映画について話をしたがった。
そのAさんは、ある時、こう呟いた。「あと二週間くらいはたぶん、生きられると思う。俺の人生最期のわがままを聞いてくれるか?死ぬ前に大好きな映画を、もう一度見返したい。人生でマイベスト10の映画の自主上映会をここでしたいから、お前さん、映画のDVDを、ここに持ってきてくれないか?」
それからAさんは、人生の最期に見たい映画10本を、考えて考えて考え抜いた末に選んだ。
それら10本の作品は、病院の談話室にて、スクリーン上で上映された。一日一本ずつの上映会を10日連続で行い、10本の映画の上映が終わると、Aさんは寂しそうな表情を浮かべて、こう言った。
「俺が死んでも、社会からすぐに忘れられる。だれも俺のことなんて、憶えていない。でも、この映画はずっと残るんだよな。人々の記憶にも。そう思えは、いい映画に出会えたことが、俺の誇りかな。俺が生きた証は、映画をたくさん見たという事かも。思えば、人生で何にも成し遂げられなかったけど、映画と出会えて、映画を通じて人生に潤いが生まれたことだけは、自慢できるかな」そう言って、悲しそうに微笑んだ。
Aさんは、それから呼吸困難になり、話すことがほとんどできなくなり、次第に衰弱していき、最期は目を見開いたままひとりで死んでいった。
12/7に、映画「春をかさねて」「あたたの瞳に話せたら」を久々に映画館で見返して、筆者は何故か、Aさんのことを思い出した。
映画「春をかさねて」「あなたの瞳に話せたら」は、筆者にとって、人生の最期にもう一度、見返したい映画、ベスト10に入ることは間違いないと思う。
筆者は、2011年3月11日の東日本大震災の時、直接的には津波等の被害を経験していない。しかし、直後から、東北入りし、現地で遺体搬送~火葬・埋葬・供養の業務に長い間、従事してきた。
震災から13年経った今でも毎月のように福島に通い、多少なりとも復興に関わらせている。人間の嫌な面も、それなりに見てきた。そして、多少の挫折も経験した。
上記の二本の映画は、筆者が抱える(多少の)痛みも悲しみを優しく包み込んでくれて、全てを赦してくれるような、そんな素敵な映画。心から出会えてよかったと思える作品。だからマイベスト10に入る。
筆者がいつかあの世に行ったら、映画好きなAさんに、「春をかさねて」と「あなたの瞳に話せたら」を、是非教えてあげたいなと。