(書評より)地球を破壊する資本主義産業、それを支える政治、二元論思考。これに立ち向かうための35のポイントや抜粋
生命圏としての地球はまもなく破壊され尽くされます。
その原因は成長を追求し続ける資本主義産業社会とそれを支える政治にあります。
格差を今よりずっと縮める政治ぬきに地球の生命維持、回復はありえません。
もっと利益をという資本主義の欲望達成行動(これが「成長」の正体・・・)を放棄しなければ、つまり、脱成長の道を歩まなければ、ここ十年に著しい豪雨、灼熱などの異常気象はますます激しくなり22世紀などはとうてい地球生命には来ないでしょう。
これを回避するには、自然を人間と区別しモノとして略奪する二元論から抜け出し、地球のあらゆるものは有機的につながっているという一元論に戻ることが求められます。
それは、ごく一部の人びとが保持しているアニミズム(すべてのものには命があり、命はたがいにつながっている)と重なります。
このようなことを念頭に置くと、本書はとてもスムーズに読めることでしょう。文章はやさしいです。
ちなみに、学問とか学術論文とかも、基本は優劣の二元論で、論で他を支配しようとし、難解な言葉を言い換える努力などせず、むしろ、難解さを誇るようなところもありますが、本書は、論文知=学知と一般民衆知という二元論から解放されていて、ひじょうに読みやすい、学者個人の所有物ではない人類知にとてもやさしい一冊と思います。
しかし、読みやすいということは読み飛ばしてよいこと、どうでもよいことばかりが並べられていることとは、まったく違います。
この本にはぼくが知らなかった多くの大切なことがゆたかに交差し合っています。
以下、それらのことをできるだけたくさんご紹介したいと思います。
1 大企業が土地を所有し、草木を根絶やしにして、単一商業作物(おもに食用家畜の飼料)を栽培し、飛行機で農薬を撒き散らし、生命が交差し重なるゆたかだった生態系を薄っぺらいものにしてしまった。
2 海生生物は陸生生物の倍の速度で消滅している。
3 1970年以来、鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類の種が半減した。さらに数十年で百万種が絶滅する恐れがある。
4 気温上昇ゆえに巨大嵐が2020年代は1980年代の倍も発生している。
5 原因は、高所得国の過剰な「成長」=地球破壊、超富裕層の過度の蓄財にあり、低所得国と貧しい人びとの生活が理不尽に脅かされている。不平等がこの脅威をもたらしている。
6 地球環境を破壊するエネルギーの代わりにそうでないクリーンエネルギーを用いれば環境は破壊されない、と言うが、そうではない。クリーンエネルギーが用いられても、それは従来のエネルギーの「代わり」ではなく、「さらに加えて」である。クリーンエネルギーが用いられても、従来のエネルギーの使用はさらに高まっている。クリーンエネルギーに移行するには金属、レアメタルが必要で、その採掘が生態系を傷める。
7 自然破壊、自然略奪は、人間は他の生物から独立した存在であるという二元論的思考に支えられているが、最近は、科学が二元論を否定し始めている。人間は膨大な数の微生物を体に宿らせ、それに依存していることがわかってきた。植物は人間の精神の健康に欠かせないことが医学的に解明されてきている。木々は他の木々とコミュニケーションを持ち、土壌中の菌糸ネットワークによって養分や薬用成分をシェアしていることがわかりつつある。地球そのものが超生物のように活動していることが発見されている。
8 GDP(国内総生産)は住民の幸福の基準にはならない。そこには環境破壊、人的負担など、生産にともなうマイナス要因(不幸の要因)は考慮されていない。木材を伐採すれば自然環境という富は減る、マイナスになるが、木材の商品価値だけがプラスに計上される。公害で人びとが苦しんで人的なダメージを受けるが、病院の売り上げだけが数字になる。
9 各国政府はGDPを上げ経済を「成長」させるために、労働者の権利を減らし、環境基準を下げ、公地を業者に払い下げ、公共サービスを民営化して、多国籍企業、資本に仕える。
10 経済成長すれば、やがて、貧困層もゆたかになる、雇用が増える、生活が向上する、と政府は言うが、そうではない。
11 現在の世界の資源消費量は1980年の2・5倍以上になってしまっている。科学者の計算では、これは地球が耐えられる一年間の資源消費量の2倍にあたる。
12 資源消費の結果、森林破壊、湿地帯の干拓(つまり湿地帯の生態系が破壊される)、動植物の棲息地の減少、二酸化炭素を吸収してくれる植物の減少(すなわち二酸化炭素による地球温暖化加速)、大地や海の劣化、死、気候崩壊、海洋酸性化が急速に進む。
13 アメリカやヨーロッパのハリケーン、洪水、熱波は報道されるが、サウス(貧しい国々)では、その何倍、何十倍の規模の気象災害が生じている。
14 第二次産業(製造業)から第三次産業(サービス業)に移行し資源消費が減るという主張があるがそうではない。サービス業で得られた収入は自動車や家具などの資源を要する商品の消費に用いられる。「フェイスブックが数十億ドル規模の企業になったのは、写真のシェアを可能にしたからではなく、生産と消費のプロセスを拡大したからなのだ」(p.161)。
15 「ある段階を過ぎると、人間の福利を向上させるためにGDPを増やす必要はまったくなくなる」(p.175)。
16 GDPの増加よりも、政治による住民間の「分配が肝心なのだ。最も重要なのは、万人向けの公共財への投資である」(p.180)。
17 具体的には「質の高い公的医療制度と教育システム・・・すべての人が健康で長生きできるようにするには、それこそが重要なのだ」(p.182)。それは、コスタリカ、フィンランド、エストニアなどを見ればわかる。
18 「理論上は、人間の幸福のためになるものを生産し、公共財に投資し、所得と機会をより公正に分配するだけで、現在より少ないGDPで世界の人々のために、すべての社会的目標を達成できる」(p.183)。
19 「高所得国が成長を追求し続けることは、不平等と政治不安を助長し、過労や睡眠不足によるストレスや鬱、公害病、糖尿病や心疾患などの不調の原因となっている」(p.184)。
20 「所得の配分が不公平な社会は総じて幸福度が低い。不平等は不公平感を生み、それは社会の信頼、結束、連帯感を損なう。また、健康状態の悪化、犯罪率の上昇、社会的流動性の低下にもつながる。不平等な社会で暮らす人々は、欲求不満、不安感、生活への不満がより強い傾向にある。そうした人々は、鬱病や依存症になる割合も高い」(p.185)。
21 「幸福度が最も高いのは堅牢な福祉制度を持つ国だった。福祉制度が手厚く寛大であるほど、すべての人がより幸福になる。すなわち、国民皆保険、失業保険、年金、有給休暇、病気休暇、手頃な価格の住宅、託児所、最低賃金制度などが整っている国ほど、国民の幸福度が高いのだ。誰もが平等に社会財を利用できる、公平で思いやりのある社会で暮らす人々は、日々の基本的ニーズを満たすことも心配することもなく人生を楽しみ、隣人と常に競いあうのではなく、社会的連帯を築くことができる」(p.186)。
22 引用が続いたが、このようなアプローチは生態系にプラスに働く。社会において人々がより平等に生きることができるようになると、「もっと収入を!」「もっとたくさんの高級なものを!」「もっとすばらしいものを(とじつは思わされているだけのものを)!」という欲望と消費、広義での買い物依存、消費依存から解放される。その結果、不要な生産が減り、二酸化炭素排出が減り、地球環境の危機が低くなる。
23 富裕層は貧困層より多くのものを、しかもエネルギーのかかるものを消費する。豪邸、高級大型車、プライベートジェット、頻繁な飛行機利用などである。それでも使い切れないお金は、生態系を破壊するような「成長」企業に投資される。
24 「公共サービスはほとんどの場合、民間のサービスより炭素・エネルギーの集約度が低い。たとえばイギリスの国民保健サービスは、アメリカの保険制度に比べて、CO2の排出量はわずか3分の1だが、より良い健康アウトカムをもたらしている。公共交通機関はエネルギーと物質の両面において、自家用車より集約度が低い。水道水はペットボトルの水より集約度が低い。公共の公園、スイミングスクール、娯楽施設は、個人の広い庭やプライベートプールやパーソナルジムより集約度が低い・・・公共財の存在は、所得を増やさなければというプレッシャーから人々を解放する」(p.191)。
25 「過去40年にわたって支配的だった新自由主義的政策・・・政府は、成長を求めるあまり公共サービスを民営化し、社会的支出を削減し、賃金と労働者保護をカットし、富裕層の減税を手助けすることによって、不平等を急速に拡大してきた。気候が崩壊しつつある時代にあって、わたしたちはまったく逆のことをしなければならない」(p.192)。
26 つまり、日本の政権がここ数十年やってきたことにはこういう意図があって、世界規模の出来事だったのだ。地球温暖化と貧富の格差は、資本家、企業、金持ちのための政治と密接につながっていたのだ。
27 では、これらを解決するにはどうしたらよいか。
「ステップ1 計画的陳腐化を終わらせる」。
つまり、数年経てば壊れるように設計され、部品交換でも修理できない製品を作り、定期的に買い替えさせる、ことを終わらせる。「過去10年間で、100億台のスマートフォンが廃棄された・・・毎年、1億5000万台の廃棄コンピューターがナイジェリアなどに輸送される・・・山積みにされ、水銀、ヒ素、その他の有毒物質が、地面に垂れ流しになっている」(p.213)。30年もつスマホやパソコ
ン、300年、せめて100年もつ家具、住宅を製造せよ!
28 「ステップ2 広告を減らす」。
「広告を締め出すのも一手だ。人口2000万のサンパウロは、すでに都市の主要な場所でこれを実施している・・・広告の削減は、人々の幸福にプラスの影響を直接与えるのだ。これらの措置は、無駄な消費を抑えるだけでなく、わたしたちの心を解放し、常に干渉されるのではなく、自分の考え、想像力、創造性に集中できるようにする。広告が消えた空間は、絵画や詩、それに、コミュニティを築き本質的価値を構築するためのメッセージで埋めることができる」(p.218)。
29 「ステップ3 所有権から使用権へ移行する」。
30 「ステップ4 食品廃棄を終わらせる」。見栄えのよくない野菜、まとめ買い割引で売られた余分な食品、厳しく設定された賞味期限越えの食べ物など、けっきょく、30~50%が捨てられている。これをやめにしたら、生産や流通による温暖化が抑えられる。
31 「ステップ5 生態系を破壊する産業を縮小する」。肉商品生産のために森林が消滅的に破壊されている。世界全体への酸素供給が危機にある。肉をそんなに食べないほうが、健康で長生きできる可能性は高い。
32 労働時間を減らすことも地球環境保護につながる。「フランスの家庭を対象とする研究では、長い労働時間は、環境負荷の高い商品の消費と直結していることが判明した・・・余暇を多く与えられた人々には、環境負荷の低い活動に惹かれる傾向が見られた。運動、ボランティア活動、学習、友人や家庭との交流などだ」(p.226)。
33 「計画的陳腐化を終わらせ、資源の消費に上限を設定し、労働時間を短縮し、不平等を減らし、公共財を拡大する――これらはすべて、エネルギー要求を減らし、クリーンエネルギーに迅速に移行するために必要なステップだ。だが、それだけに終わらず、これらすべては資本主義の論理を根本的に変える」(p.234)。
34 「わたしたちが関わる他の生物――他の人間だけでなく植物や動物――も、等しく主観的経験を持つ存在である・・・彼らもわたしたちと同じように身体を持ち、世界を感じ、世界と関わり、反応し、形づくっているのだ。実のところ、わたしたちが見ている世界は、彼らがわたしたちと共につくったものであり、彼らの世界は、わたしたちが彼らと共につくったものである。わたしたちと彼らは、知覚の官能的なダンスで互いに交流し、継続的な対話を通して、世界を知っていくのだ」(p.272)。
35 「結局のところ、わたしたちが「経済」と呼ぶものは、人間どうしの、そして他の生物界との物質的な関係である。その関係をどのようなものにしたいか、と自問しなければならない。支配と搾取の関係にしたいだろうか。それとも、互恵と思いやりに満ちたものにしたいだろうか?」(p.291)。
ジェイソン・ヒッケル「資本主義の次に来る世界」
Jason Hickel 経済人類学者 エスワティニ(旧スワジランド)出身で、数年間、南アフリカで出稼ぎ労働者と共に暮らし、アパルトヘイト後の搾取と政治的抵抗について研究してきた。