被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学

ジャーナリスト長谷川学さんより許可を頂きましたので、以下、掲載します。

被害者続出でも国は推進の異常! 成年後見制度は 「国家によるカツアゲ」|長谷川学 | Hanadaプラス (hanada-plus.jp)

なぜ国連勧告を無視し続けてまで政府は成年後見制度を促進するのか?

なぜ新聞やテレビは被害者が続出しているにも拘わらず報じないのか?

いまも平然と行われ続けている弱者を喰いモノにする「国家によるカツアゲ」。その実態を告発する。

目次

● なぜ新聞、テレビは成年後見制度の欠陥を報道しないのか?

● 国連が厳しく批判した日本の「法定後見」

● 国家が弱者の資産を弁護士、司法書士らに分配する

● 人権意識に欠けた岸田政権と社会福祉協議会

● 80年住んだ家から追い出され、マンションを買わされる

● 「社協」抜きに成り立たない!職員数14万人の巨大組織

● 「後見担当の専門員」――実際は素人で生活支援員に丸投げ

● 社協と親しいK弁護士の登場

● 弁護士と不動産屋が結託

● 無権代理の可能性、約600万の弁護士報酬

● 「年寄りなのでやりたい放題」家族写真まで勝手に処分

● 突然解雇された生活支援員

● 「話が逆だ!」K弁護士の懲戒請求を申し立て

なぜ新聞、テレビは成年後見制度の欠陥を報道しないのか?

3年後、65歳以上の認知症の人の数は約675万人になり、5・4人に一人が認知症になると予想されている。  

政府は認知症高齢者と知的障害者を支援するため2000年に成年後見制度をスタートさせたが、この制度には多くの欠陥が指摘されており、一昨年9月には国連から「差別的」との批判を受けている。  

だが日本の新聞、テレビは成年後見制度の欠陥をほとんど報道しない。現に国連の批判についてもNHKが簡単に報じた程度で、あまり国民に知られていない。  

新聞、テレビが制度批判に慎重な理由は、制度の旗振り役が「法の番人」の最高裁判所だからだ。ある新聞社の編集幹部が語る。

「新聞、テレビには“法の番人の最高裁が間違った制度を作るはずがない”という思い込みが非常に強い。この制度の問題点を社内で指摘しても、『それは例外だろう。最高裁が作ったのだから大半はうまく機能しているはずだ』と聞く耳を持たれない」  

しかし最高裁の無謬原則が通用するのは国内だけ。実際、先の国連(障害者の権利に関する委員会)は日本の制度が「障害者が法律の前に等しく認められている権利を否定」していると強く批判。成年後見制度に関する全ての差別的な法規定及び政策を廃止し、民法を改正することを求めるとともに、認知症高齢者らの自立と意思を尊重する仕組みへの変更を勧告した。

国連が厳しく批判した日本の「法定後見」

日本は、岸田文雄外相時代の2014年に国連の障害者権利条約を批准しており、国連勧告に応じなければならない。  

批判されたのは、日本の成年後見制度の根幹部分だ。具体的には①国家(家庭裁判所)が認知症の人や知的障害者から、財産管理権や契約等の法律行為についての本人の意思決定権を強制的に奪して、➁家裁が選任した後見人に、本人に代わって財産管理や契約を結ぶ代理権を与える仕組みである。  

この仕組みを「法定後見」と呼ぶ。成年後見制度は、国家の強制力に基づく法定後見と、本人が認知症になる前に自分の後見人を決める任意後見の二つからなるが、国連は、法定後見の「意思決定を代行する制度」そのものを「障害者が法律の前に等しく認められる権利を否定」していると批判し、岸田政権が進めている「第二期成年後見制度利用促進計画」についても、同じ理由から懸念を表明している。  

要は、日本の制度は国連からダメ出しされた欠陥品なのだ。

国家が弱者の資産を弁護士、司法書士らに分配する

他の先進国と日本の法定後見の決定的な違いは、他の先進国では親族後見人が基本になっているのに対し、日本では親族が滅多に後見人になれず、後見人の8割以上を弁護士や司法書士らが占めていることだ。  

親族後見人は無報酬が基本だが、本人にとって赤の他人の弁護士、司法書士が後見人になると、本人は毎年36万円から84万円もの報酬を死ぬまで払わされる。  

無駄なお金を払わされる本人と家族からすると、日本の制度は、認知症の人などの社会的弱者を救済するという美名のもとに、国家が弱者の資産を間接的に管理して法曹界仲間の弁護士、司法書士らに報酬の名目で分配するシステムでしかない。  

民法は、後見人に対し、本人の意思を尊重しつつ、健康状態などに配慮して医療、介護の契約を結ぶことを義務付けている。だが弁護士、司法書士後見人は、本人を施設に入れて、あとは施設と家族任せにしていることが多い。仕事といっても、本人の通帳とキャッシュカードを事務所の金庫に入れて管理する程度なのが実態で、弁護士のなかには、後見人をしていた期間中に本人と一度も面会しなかったツワモノもいる。  

法定後見では、本人と家族には後見人を選ぶ権利がなく、家裁がつけた後見人は、何もしなくても交代させられることはない。本人や家族が家裁に「後見人を変えてほしい」と申し立てても、家裁は聞く耳を持たない。しかも家裁と弁護士後見人らは、後見人の報酬額を本人と家族に教えず領収書も発行しないのだ。いったい、いつの時代の制度なのか。

人権意識に欠けた岸田政権と社会福祉協議会

現状の法定後見は、家裁が後見人に選任した弁護士らに仕事を丸投げし、トラブルが起きても「お上」の権力で不満を押し潰している。こうした実態から、私は日本の法定後見は「国家によるカツアゲ」だと思っている。

「後見による被害を受けた米国の歌姫、ブリトニー・スピアーズの告発により、カリフォルニア州では後見制度の法改正を行い、本人が後見人を選べるようにし、後見人が本人の最善の利益のために行動していない場合は、最高5万ドルの罰金が科せられるようになりました。日本政府も猛省して見習うべきです」  

後見トラブルに詳しい一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表はそう語るが、政府に従順な新聞、テレビはこうした実態を調べようとせず、報道もしない。それを良いことに、岸田政権は国連勧告のあとも、成年後見制度を推進する方針を変えていない。  

政府が人権意識に欠けているのだから、政府が「成年後見制度の中核機関」と位置付ける末端の市区町村や「社会福祉協議会」(社協)も体質は同じ。社協は、後見や福祉を市民とつなぐ事実上の第三セクターだ。  

宮内氏が語る。

「中核機関の職員の後見に関する知識は非常に浅い。彼らは、後見で儲けている弁護士や司法書士を講師に招いて勉強するので、“良い話”しか聞かされない。ほとんどの自治体や社協の職員は本気で“成年後見制度は良い制度だ”と信じ込んでいて、法定後見が人権侵害を引き起こしていることをまったく自覚していません」  

その結果、自治体と社協の職員は、認知症ではない普通のお年寄りにまで成年後見制度を利用させてトラブルを拡散させている。典型的な事例を紹介しよう。

80年住んだ家から追い出され、マンションを買わされる

被害者は東京都目黒区に住む田中英子さん(90・仮名)。田中さんが、しっかりした口調で話す。

「社協に紹介された弁護士のせいで、私の人生は狂ってしまいました。弁護士のせいで、わずか数カ月の間に私は80年間住んだ自宅を追い出され、弁護士が顧問を務める不動産会社の仲介マンションを弁護士に急かされて買わされました。その結果、私の生活は一変し、心労のせいで、髪の毛がどんどん抜けてしまったのです」  

田中さんは耳は遠いものの認知症ではなく、意思疎通は問題なく行える。田中さんがトラブルに巻き込まれたのは、目黒区の地域包括支援センター(以下、包括と略す)に相談したことがきっかけだった。  

包括は「市町村が設立主体となり、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等を配置して、住民の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域の住民を包括的に支援することを目的とする施設」(厚労省ホームページ)、つまり公的機関である。包括は「権利擁護業務」の一環として、市民に成年後見制度を利用させている。  

私は多くの後見トラブルを取材してきたが、被害者の多くは「包括の職員から成年後見制度を勧められ、制度の問題点を知らされずに利用してしまった」と悔やんでいた。

「社協」抜きに成り立たない!職員数14万人の巨大組織

田中さんの証言や各種資料によると、田中さんが包括に相談した内容は次のようなものだった。

「2014年2月に、右足首をドアに挟まれて骨折した。脊柱管狭窄症と骨粗鬆症もあり、足腰が弱く、歩きづらい状態だ。両親はすでに亡くなっている。現在は自宅で姉(当時、88)と二人暮らし。姉は元公立高校の教師。私も洋裁の講師をしていたが、いまは二人とも退職して年金暮らしだ」
「姉は認知症と診断されている。昼夜逆転の生活をし、おむつを破ってトイレに流して詰まらせることがあるが、できる限り私が姉の面倒を見てあげたいと思っている」

「いまは私が郵便局でお金を下ろし、各種契約の手続きもできるが、私に何かあると認知症の姉が心配だ。いずれ姉妹で同じ施設に入ることを考えている。いまのうちに公的機関とつながっておきたい」  

相談を受けた包括の職員は、田中さんに「日常生活自立支援事業」の契約を勧めた。  

自立支援事業は、認知症で判断能力が十分でない人が地域で生活できるように、預貯金の引き下ろしや医療、介護、福祉の各種契約の援助、定期的な訪問による生活変化の観察などのサービスを行う。  

判断能力は不十分でも、自立支援事業の契約を理解できる人が対象。専門員と呼ばれる社協の正職員(社会福祉士など)が支援計画書を作成し、それに基づき、社協の臨時職員である生活支援員が月1回程度、自宅を訪問して、お金の引き下ろしなどを行う。サービス利用料は1時間1500円が基本で、利用者が負担する。  

事業の実施主体の社協は、都道府県、市区町村ごとに約2000の組織があり、現場の実務を担う市区町村の社協は職員数約14万人の巨大組織。地域の福祉、後見、医療等は社協抜きに成り立たないと言われている。  

社協は形式的には民間団体だが、実際は自治体の補助金なしに運営できない半官半民の組織だ。目黒社協の昨年度の約5億円の収入のうち、区の補助金や赤い羽根などの共同募金分配金、区からの受託金などを合わせると4億円以上にのぼる。  

目黒社協は目黒区総合庁舎の1階と3階にある。目黒区南部包括支援センターの運営を区から受託しており、区の包括と目黒社協は表裏一体の関係だ。

「後見担当の専門員」――実際は素人で生活支援員に丸投げ

2014年12月、包括から連絡を受けた目黒社協は、正職員の専門員と生活支援員(1年ごとの雇用契約、時給1000円)を田中さん宅に派遣し、田中さんと自立支援事業の契約を結んだ。  

このときの生活支援員は池田誠子さん(仮名)。のちに田中さんのトラブル相談を受けて解決に乗り出し、それを理由に目黒社協から解雇されることになる。  

なお、後見担当の専門員といっても、「後見の専門知識はなく、社協と親しい弁護士、司法書士を市民に紹介する程度の仕事しかしない」(ある社協職員)のが実態である。  

社協作成の個人ファイルによると、当時の田中さんの人となりは「精神面では、年相応の物忘れはあると思われるが、判断能力の低下等はなく、温和で真面目な性格である」。  

田中さんは認知症ではなかったが、「年相応の物忘れはあると思われる」との理由で契約が成立。一方、姉は「判断能力が著しく低下している」との理由で契約できなかった。  

15年1月、先月とは別の専門員が池田さんと一緒に田中さんを訪問し、支援計画書を作成した。池田さんは、解雇されるまでの約8年間、生活支援員として田中さんを2カ月に一回程度、訪問し続けたが、この間、田中さんを担当する専門員は9人も交代した。  

専門員は、生活支援員が提出する援助実施記録票を読む程度で、実務は“雀の涙”の報酬しか得られない生活支援員に丸投げした。目黒社協は、池田さんの支援時間を一回当たり30分から1時間と決めた。

社協と親しいK弁護士の登場

目黒社協の「生活支援員活動マニュアル」は、生活支援員に「信頼関係を大切にする」 「利用者の訴えや様々なサインに目と耳を傾ける」ことが大事だと説いているが、一方では支援時間外に利用者に連絡したり訪問することを禁じ、支援以外の家事などを頼まれても断る、個人の連絡先を教えない、といった制約を課している。  

こうした制約のせいで、「不本意ながら、郵便局で下ろしてきたお金を田中さんに渡して雑談する程度のことしかできなかった」と池田さんは述懐する。  

16年、田中さんは姉の在宅介護は限界と判断。姉は施設に入った。2年後、田中さんの身辺に大きな異変が起きた。貸主から自宅(借家)の立ち退きを求められたのだ。相談を受けた専門員は、社協と関係が深い司法書士を田中さんに紹介した。  

ところが、司法書士は立ち退き問題の対策はそっちのけで、頼まれてもいないのに入院手続きなどを行う見守り契約と財産管理委任契約、任意後見契約などを提案。遺言書の作成まで持ちかけた。  

司法書士が作成した資料には、弁護士などと見守り契約を結ぶと契約時に2万円と毎月5000円以上の報酬が発生し、財産管理等委任契約の報酬は月額3万円から7万円と書いてあった。これらについて田中さんは不要と考えた。  

だが認知症の発症前の段階では毎月の報酬が発生しない任意後見契約と、自分の死後に発効する遺言書の作成には応じても良いと考えた。将来の不安に備えた保険の意味からだ。  

だが田中さんの最大の心配は、あくまでも立ち退き要求への対処だった。そこで専門員は、新たに社協と親しいK弁護士を紹介した。  

田中さんは、K氏との間で任意後見契約書と、K氏を執行者とする遺言書を作ることに同意し、公正証書にした。その費用として、合計32万4000円をK氏に支払った。  

田中さんとK氏、社協の関係はこの時点では良好だったようで、遺言書には姉が先に亡くなったときは田中さんの財産をすべて「目黒区に寄贈する」と書いてある。  

だが、田中さんの本来の目的である立ち退き問題の解決については、社協とK氏はとくに何もしなかった。

弁護士と不動産屋が結託

立ち退き問題は、22年5月に再びクローズアップする。田中さん宅の土地、建物を購入した都内の不動産会社が正式に立ち退きを求めてきたのだ。  

3カ月前にも立ち退きを求められていた田中さんは「ここ(自宅)でずっと暮らしていきたい」とK氏に相談。K氏は「それを相手側に伝えていただければ結構」とファックスで通信。妥当な対応をした。  

不動産会社は、建物を取り壊して新しくマンションを建設する計画を立てていた。同社は田中さんに一時的な転居を要請。立ち退きは任意だが、田中さんが転居に応じないときは裁判を起こす可能性も伝えられた。  

立ち退き問題を正式に受任したK氏は訴訟回避策として、「立ち退き料を受け取り、一時転居し、その後、再入居する方向」を田中さんに提案した。  

だが7月に入ると、K氏が奇妙な動きを始めた。7月15日、K氏は一時転居のマンション探しに関して、「私のほうでも、不動産業者にあたってみます」 「私がいつもお世話になっている不動産業者と2名でご自宅に伺いたい」とファックス。  

7月25日には、「ここでずっと暮らしたい」という田中さんの希望と異なり、①3000万円の立ち退き料と引き換えに、戻ってこない前提で他にマンションを購入する②立ち退き料が少ない場合は一時転居後に再入居する、という二つの方向をファックスで提示。  

これ以降、戻ってこない方向に力点を置いた調整が進められることになった。  

そのうえで7月26日、K氏は①の新たに購入するマンションについて「私のほうで探してみたい」、翌日も「私のほうで、不動産業者(10年以上付き合いのある、大変信頼できる業者です)にあたって、物件を探してみたい」とファックス。  

7月29日、K氏は自分が顧問を務める不動産会社が仲介するマンションに田中さんを連れて行き、内見させた。K氏は、自分が仲介業者の顧問であることを田中さんに伝えなかった。  

さらに8月1日、K氏は「このままですと、物件を他の方に買われてしまい……」と、購入を急がせるファックスを送信。8月8日のファックスでも「物件が売れてしまわないうちに」と急かし、翌日、以下のファックスを送り付けた。

「先日見ていただいた物件ですが、驚いたことに、田中様の他にも2名の検討者がおり、2名とも内見を済ませてかなり前向きに検討していたそうなのですが、Iさん(筆者注・K氏が顧問の不動産会社の社長)に大至急で交渉してもらい、田中様を優先してもらえることになりました。本当に良かったです」 「バタバタして大変恐縮なのですが、売主としては、8月21日(日)に、売主の会社で契約したいとのことでした。売主の会社は西新宿にあるのですが、Iさんが車で田中様をお連れします」  

K氏の一連の言動は、田中さんの代理人というより、顧問先の不動産会社の営業マンを彷彿させる。

無権代理の可能性、約600万の弁護士報酬

田中さんの「ここで暮らしたい」という思いに反し、マンションを購入して戻ってこない方向での代理人同士の交渉がどんどん進んだ。当時89歳で身寄りも相談相手もなかった田中さんには、もはや流れに抗う術はなかった。  

9月16日、不動産会社の代理人とK氏の間で、①現在、田中さんが住んでいる建物について田中さん姉妹と地主との賃貸借契約を解約する②田中さんに立ち退き料として約3000万円を払い、田中さんが退去する内容の和解調書が成立した。  

だが、この賃貸借契約の解約のやり方には疑問点があった。賃貸借契約は田中さんだけでなく、姉(97)も当事者だったため、解約には姉の同意が必要だった。そこでK氏は、姉の代わりに妹の田中さんに委任状に署名(代筆)、捺印してもらって姉の訴訟代理人に就任。姉妹の代理人として和解調書を作成した。  

ところが、姉を診察した医師の診断書によると、姉は16年に施設入所した時点で、アルツハイマー型認知症により明瞭な意思疎通が困難だった。K氏が姉の代理人に就任したのは22年8月だが、診断書によると、姉はすでに19年の時点で「右中大脳動脈領域の広範な脳梗塞を発症。以降発語はまったくなく、意思疎通は完全不可」だった。これは「支援を受けても、契約等の意味・内容を自ら理解し、判断することができない」状態、つまり判断能力がまったくない状態であることを示している。

「判断能力がない人の代理人になるには後見人になる必要があります。具体的には、本人の親族や市区町村長が家裁に後見人をつける申し立てを行い、家裁が必要と認めると後見人がつけられる。しかし、K氏は姉の後見人ではありません。本人を代理する権限がない者が代理人としてふるまうことを無権代理と言います。  

K氏は、K氏に依頼された田中さんが、姉の気持ちを忖度して代筆、捺印したのだから問題ないと主張するでしょうが、K氏の行為は無権代理の可能性があると思います」(前出、宮内氏)  

最終的に地主は、3150万円の立ち退き料を田中さんに支払った。立ち退き料の報酬と着手金の追加費用として田中さんはK氏に516万円を支払い、さらにK氏が顧問を務める不動産業者の仲介マンションの購入のために3280万円を支払った。先に支払った着手金や任意後見、遺言書の作成料などを含めると、田中さんがK氏に払った報酬は約600万円にのぼる。  

田中さんは「K氏は同じマンションの別部屋を一つ見せてくれただけで、他の業者の仲介物件や自立型のシニア住宅は一つも見せてくれませんでした。弁護士同士のやりとりで立ち退き期限が決まり、煽られるような形でマンションを買いました」と悔しがる。  

購入した部屋(約46㎡)は築51年で借地権付き。女性の一人暮らしなのにマンションに防犯カメラはなく、ポストに鍵がかからない。「足が悪いのに、家のなかの廊下や風呂場などに段差があり、引っ越してきた当初は、立て付けが悪くて窓も開きませんでした」と田中さんは嘆く。

「年寄りなのでやりたい放題」家族写真まで勝手に処分

災難は続いた。K氏の顧問先の不動産会社社長が依頼した引っ越し業者と、田中さんが新たに契約することになった介護事業所のケアマネージャーが、これまで田中さんが使っていた洗濯機やエアコン、インターホン、家族写真アルバム、箪笥などを勝手に処分してしまったのだ。  

しかも事業所のヘルパーは、田中さんが頼んでいないのに、新たにエアコン2台と炊飯器を購入して田中さんに請求。部屋にはもとから1台エアコンが取り付けてあったので、3台になった。このうち、物置部屋に設置されたエアコンと炊飯器を田中さんは一度も使ったことがない。

「私が一人暮らしの年寄りなので、皆、やりたい放題でした」(田中さん)  

引っ越し後、田中さんは「80年間暮らしてきた家でずっと暮らしたかったのに追い出され、買いたくもないマンションを買わされた。社協に紹介された弁護士に高い報酬を払わされたが、意味がなかった」と社協に不満を言ったが、相手にされなかったという。  

後見に関する社協の専門員の仕事は、社協に出入りしている弁護士や司法書士を紹介することで終わり。そのあとのことは自分たちの責任ではない、ということだろう。  

突然解雇された生活支援員

引っ越し後の一昨年10月末、田中さんは生活支援員の池田誠子さんに、「引っ越しはしたくなかった」 「社協が紹介した弁護士に600万円払ったのに、何もしてくれなかった」と相談した。  

目黒社協主催の市民後見人養成講座を14年に受講し、市民後見人と生活支援員になった池田さんは、後見制度は正しいと信じ、それを推進する社協と弁護士をずっと信頼していた。  

目黒社協の機関紙『てって』(20年9月2日号)には、成年後見制度推進キャンペーンの一環として、市民後見人として活動中の池田さんの『「人生の先輩」の人生にかかわることができ、伴走できるのは素敵なことだと感じています』というコメントが載っている。  

池田さんが語る。

「専門員は、田中さんが弁護士に不満を持っていることを私に一言も言いませんでしたが、田中さんとの雑談のなかで、田中さんが社協と弁護士に不満を持っていることは薄々分かっていました。600万円という金額はとても大きいので、たまたま後見の勉強を一からし直そうと思って受講した後見の杜の宮内代表に経緯を話したところ、宮内さんから“問題がありそうだ”とアドバイスを受けたのです」  

宮内氏は東京大学で市民後見人養成講座の特任助教を務めたあと、後見の杜を立ち上げて代表に就任。宮内氏は池田さんの小学校の同級生だった。  

ところが目黒社協は、池田さんが外部の宮内氏に相談したことを理由に、池田さんを問答無用で懲戒解雇にした。池田さんは解雇は不当として労働審判を申し立てたが、審判員から「労働審判は、あなたがしたことが田中さんに良かったかどうかを判断する場ではない」と言われたため、申し立てを取り下げざるを得なかった。

「話が逆だ!」K弁護士の懲戒請求を申し立て

田中さんはこう語る。

「池田さんは足の悪い私の代わりに郵便局で生活費を下ろし、医療や介護の手続きの代行などもしてくれました。私は池田さんを最も信頼しています。私のことを大事にしてくれた池田さんが解雇されるなんて、話が逆でしょう」  

田中さんは、後見制度の被害者とその家族で作る「後見制度と家族の会」(石井靖子代表)に加入。8月6日、田中さんと「家族の会」は、東京弁護士会にK氏の懲戒請求を申し立てた。判断能力のない姉から仕事を受任し報酬を得たこと、自分が顧問を務める不動産会社の仲介物件であることを隠し、他の仲介業者の物件を一切見せることなく強引に購入に追い込んだというのが理由だった。  

懲戒請求を受けたことについて質問したところ、K氏は「守秘義務」を理由に回答しなかった。  

弱者を喰いモノにする「国家によるカツアゲ」は、いまも平然と行われ続けている。

長谷川学https://hanada-plus.jp/articles/241

ジャーナリスト。1956年生まれ。早稲田大学卒業。講談社『週刊現代』記者を経てフリー。『週刊現代』で、当時の小沢一郎民主党代表の不動産疑惑(のちに東京地検が政治資金規正法違反で摘発)をスクープ。著書に『成年後見制度の闇』(飛鳥新社・宮内康二氏との共著)など。

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