「2分の即興劇で生活習慣を変える! =健康教育プログラム= ゆうへいきょう著
2023 社会保険出版社
エピローグ
本書をご覧になってどのような感想を持たれたでしょうか?
プロローグでお話ししたように本書の抽象的な目的は、「人は望ましい方向に変われるか」という問いに対して、回答を提示することです。
私の回答を繰り返すと、全てではなくても多くの場合「他人からの助けがあれば、変われる」です。
本書が提案する健康教育プログラムの効果を評価するのは、現在進行形ですが、少なくとも望ましい効果を得られたとの嬉しい報告がいくつもありました。
例えば、ある参加者は、1年前のわずか2分の即興劇で、相手役に「あなたに長生きして欲しいから、お願いだから、夜中にアイスクリームを食べないで」との説得を受けました。
この(フィクションに過ぎない)説得のシーンを、未だに夜中にアイスクリームが食べたくて冷凍庫を開けるたびに思い出すので、以来1年以上、夜中にアイスクリームが食べられなくなったと私に話してくれました。
僅か2分のフィクションでも、現実を変える強い力があることを実感しました。
この体験談でたった2分の説得劇が成功した理由は、説得が出来合いのマニュアル通りではなく、セリフに直接現れなくとも、「目の前の相手の存在そのものを祝福している」というメッセージが伝わったからではないでしょうか。
即興劇の特徴は、その場限りで消えてしまうことです。
しかし祝福を受けた、大切に思われた記憶は強く留まり、説得された側の頭の中では何度も再生されているのです。
アイスクリームの誘惑に負けそうになる時に、自分の存在そのものを祝福してくれた思い出は心強いパートナーになり、誘惑から守ってくれる砦になってくれるのです。
最後に、米国の神学者ラインホルド・ニーバーが作者とされる、祈りの言葉を紹介します。
・変えられないものを静穏に受け入れる寛大さを与えてください。
・変えるべきものを変える勇気を与えてください。
・そして、変えられないものと変えるべきものを識別する知恵を与えてください。
この祈りの「識別する(distinguish)」という英単語には「気付く」という意味もあります。
変えるべきものに気付く、演劇的手法を通じて集団としての知恵・集合知が生まれる、他者からの助けを安心して受けられる場を提供することが、私の健康教育プログラムの究極的な目的ともいえます。
本書を手に取った方が、このような場の提供に参加されることを、心よりお待ちしております。