パレスチナをこんなにしたのは誰なのか「パレスチナ紛争」を語る日本人に欠けている視点

「パレスチナ紛争」を語る日本人に欠けている視点
10月7日のハマスの攻撃後、パレスチナ紛争はまた一気に国際的な注目を集めています。イスラエルによる大規模なガザ爆撃で一般市民の犠牲はますます増加し、近日中に地上軍でガザに侵攻することが予想されています…

高橋宗瑠 大阪女学院大学・大学院教授 2023/10/17 6:40

10月7日のハマスの攻撃後、パレスチナ紛争はまた一気に国際的な注目を集めています。イスラエルによる大規模なガザ爆撃で一般市民の犠牲はますます増加し、近日中に地上軍でガザに侵攻することが予想されています。

多くの報道では7日まで平和な毎日があり、ハマスの一方的で理不尽な行動によってそれが破られたかのように描かれていますが、本当にそうでしょうか。歴史的背景を理解しないと、大きな誤解をしてしまいがちです。

そもそも「パレスチナ紛争」とは?

「古代からアラブ人とユダヤ人が住んでいて、宗教的な理由から紛争している」と思い込んでいる日本人は少なくありませんが、そもそもその出発点からしてそうした見方は誤りです。

20世紀初頭から、アラブ系パレスチナ人が暮らすパレスチナ(当時オスマントルコ領)に、「2000年前、ここは我々の先祖の土地だった、よってここにユダヤ人だけの国家を作る」と、シオニズム(ユダヤ人国家建立の思想)を信奉するヨーロッパのユダヤ人が移住してきたのが、現在のパレスチナ紛争の始まりです。

数千年前にパレスチナで暮らしていたユダヤ教徒と、現在のヨーロッパのユダヤ人の人種的なつながりは極めて希薄と指摘されており、数千年前のことが現代の土地所有権に直結すると考えるのには無理があります。しかし、シオニストはイギリス、そしてのちにアメリカという大国をバックにつけて、強引に計画を進めようとしました。

今回のハマスの攻撃の背景にあるのは、国際法違反や人権侵害

1947年後半から1948年のイスラエル建国宣言後の「第1次中東戦争」の間にユダヤ人自警団(後のイスラエル軍の母体)が武力でパレスチナ人を追放して、パレスチナ人人口の3分の2が難民となってパレスチナ内外に逃れることを余儀なくされました。

イスラエルは現在に至るまでパレスチナ難民の帰還をいっさい許さず、世界中から募ったユダヤ人移住者にそれらの家や土地を分配しています。難民の帰還の権利は国際的に認められており、いくつもの国連決議などでも明文化されていますが、イスラエルは頑なに拒否しています。

国際法違反の入植活動を続けている

そして1967年の「第3次中東戦争」でパレスチナの残り(東エルサレムを含む「西岸」と「ガザ」)を軍事占領したあとも、一貫して、パレスチナ人を追放して土地を収奪して、国際法違反の入植活動、国際人権基準を無視した抑圧を続けています。

ユダヤ人はあらゆる意味で優遇されて人権が保障され、パレスチナ人は法律に基づいても権利が守られない状況で、例えばヨルダン川西岸のユダヤ人入植者にはイスラエルの通常法、パレスチナ人にはイスラエルの軍法が適用されます。

昨今、アムネスティ・インターナショナルやヒューマンライツウォッチなど世界的に著名な国際人権団体がついにイスラエルの差別的な政策を、人道に対する犯罪である「アパルトヘイト」と認定したほどです。

すなわち、パレスチナ紛争は外国人の植民地支配に対する、民族の独立運動と理解する必要があります。独立運動にはさまざまな形態がありますが、当然武力抵抗もその1つです。

「暴力はいけない」と考える日本人は少なくないのですが、植民地支配に対する抵抗は国際法で正当と認められており、パレスチナ民族の当然の権利といえます。もちろん、今回のハマスの攻撃は戦闘員でなく一般市民を狙ったもののようなので、国際法違反として批判されてしかるべきです。しかし、個人的に暴力を推奨するつもりはもちろんありませんが、話し合いだけで独立できるほど、世の中は甘くありません。

ハマスの台頭、パレスチナの分断

今回の攻撃を起こしたハマスは、国際的に認められているパレスチナ自治政府に対して、ガザを武力で制圧して「実効支配」しているテロ集団、と描かれています。しかし、これも背景をよりよく理解する必要があります。

占領後パレスチナ人の抵抗、そしてイスラエルの弾圧などが続きましたが、1993年に突然、独立運動の主体であるパレスチナ解放機構とイスラエルとの間に「オスロ合意」が発表されました。

その合意は、解放機構は武力抵抗を放棄して、西岸とガザにおいてのみパレスチナ国家建立に向けた交渉を開始するというものです。そして、期待されるパレスチナ国家の下準備として、西岸とガザで「パレスチナ自治政府」が設立されて、限定された自治権を行使することが決まりました。

パレスチナ人にとって「オスロ合意」は青天の霹靂

一見して解決に向けた大きなステップに見えますが、詳細を見ると、パレスチナ側に対して不利なものといえます。そもそも一般のパレスチナ人にとってオスロ合意は青天の霹靂であり、パレスチナ全土独立という目標が民主的に決定したわけではありません。

そして、自治政府がイスラエルと協力して、パレスチナ人の活動家などを逮捕して拷問するようになると、多くのパレスチナ人に「植民地支配者が押しつけた傀儡政権」とみなされるようになります。実際、オスロ合意後イスラエルによる違法な入植活動はますます促進され、植民地支配はむしろ強まったと指摘されています。

2006年、パレスチナ自治政府の選挙が行われます。イスラエルや欧米諸国は自治政府の主流が勝つものと高をくくりますが、ふたを開けてみると、オスロ合意の譲歩を否定するハマスが圧勝します。世界中で民主主義の大切さを説き回る欧米ですが、民主的に選ばれたハマス政権をボイコットして、自治政府への資金提供を打ち切ります。

そして欧米は自治政府をけしかけて、武力でハマスを弾圧させしようとするのですが、短い内戦にもハマスは勝ち、自治政府は本拠地だったガザから西岸に逃げ込みます。西岸とガザの分断統治が生じたのは、このような経緯です。

ガザ封鎖、「青空監獄」の過酷な状況

自治政府主流派が西岸に逃げ込むと、イスラエルがガザを完全に封鎖し、人の往来や物資の輸出入を原則的に禁止します。45平方キロメートルに200万人ほどいるガザは、「青空監獄」と呼ばれるようになりました。

伝統的に漁業や農業を営むガザ市民ですが、近海への漁が禁止され、ボートが出ていくとイスラエルの軍艦に攻撃されるようになりました。そしてイスラエルとの境界線に大きなフェンスが建てられ、1キロメートル以内に接近すると狙撃されることがあるため、近くの農地なども使用不可能になりました。

ガザは「後退」している状態

ただでさえガザは1948年にパレスチナの別の地から追放された難民が多い地域で、封鎖で経済が完全に破綻し、失業率は46%、人口の8割近くが国連の食糧支援を受給しているありさまです。

インフラを維持するための機械部品などの輸入をイスラエルが許さないため、爆撃された水の処理施設も発電所も次第に使えなくなり、安全な飲料水もなく、電気の供給も日によっては8時間ほどしかありません。

「発展(development)」でなく「後退(de-development)」の状態で、2012年に国連が発表した報告書では、「2020年にはガザは人間が住める状況でなくなる」という予測さえ発表されたほどです。

2005年以降ガザ内にはイスラエル兵は駐屯しておらず、イスラエルの植民地もありません。そういう意味では、いたる所にイスラエルの植民地があって、軍隊の検問所がある西岸と様子が異なるのですが、ガザの上空にはつねにイスラエルのドローンや監視気球が飛んで、ハマス関係者(および近くにいた一般市民)が空爆などによって殺害されることも少なくありません。200万人が生殺し状態に置かれているのが実情ですが、国際上ではガザは西岸同様イスラエルに軍事占領されているパレスチナの地とされています。

今回のハマスの攻撃の背景にあるのは、国際法違反や人権侵害

悪化の一途をたどる西岸の情勢も、無視できません。殺害や正当な理由のない逮捕や拷問なども、西岸に暮らすパレスチナ人にとっては日常茶飯事と言えます。今回のハマスの攻撃の背景には、このようなイスラエルによる封鎖や抑圧、国際法違反や人権侵害があります。

平和的に抗議するパレスチナ人を狙撃

ガザの難民には、境界線近くの家を1948年に追放された家族の人が多数います。本人たちがソーシャルメディアに投稿した動画などを見ると、7日の攻撃に参加したハマスの戦闘員には、境界線近くの家を1948年に追放されたそのような家族の出身者が少なくないとようです。

難民の彼らは、一時的にも自分の家に帰ることがイスラエルに許されていません。イスラエルによって「侵入者」との烙印を押されていますが、彼らにしてみると、自分の土地を取り戻す意識が強いのは当然と言えます。

一般市民を狙い撃ちするのはもちろん看過できませんが、それはハマスだけでなく、イスラエルも同様です。封鎖後今までも数回あったガザへの大規模侵攻で合計4000人近くものパレスチナ人の犠牲が強いられており、イスラエルは国際法を無視して、非戦闘員や、発電所、水処理所など民間施設の攻撃などを繰り返しています。

2018年3月から2019年12月までほぼ毎週イスラエルとの国境近くで大規模な抗議集会が行われましたが、イスラエル兵は実弾で平和的に抗議するパレスチナ人を狙撃し、合計200人以上が殺害されました。

この度のガザの空爆もイスラエルは「正確さより破壊力が優先」と公言して、一般市民の犠牲をいとわない絨毯爆撃とさえ言えます。避難所になっている国連の学校や、イスラエルが出した避難命令で逃れる市民も爆撃されています。そして、何よりも過酷な封鎖自体が集団懲罰であり、国際法違反といえます。

今回の攻撃でいつにも増してイスラエルに露骨に肩入れする欧米は、政治的、そしてとくにアメリカは軍事的支援を強化しています。また、幾分か後退する可能性が強いですが、アラブ諸国にも長年の方針を転換して、イスラエルと国交を正常化する国が出てきています。

今後の展望、そして日本の経済人に求めること

しかし、欧米でもアラブ諸国でも、その行動が必ずしも民意を反映していないことを理解する必要があります。ソーシャルメディアの効果もあって、イスラエルの人権侵害はより大勢の人に知られるようになり、市民の意識調査でも「イスラエル離れ」が顕著になっているといえます。

実は、イスラエルの国際的孤立はもう始まっています。同じくアパルトヘイト国家であった南アフリカの方針を転換させたのは、世界各国の市民による、広範囲な国際的ボイコット運動でした。

南アの企業、そして南アと提携する他国企業がボイコットされました。最初は抵抗していた欧米主要国でしたが、市民からの圧力についに屈することになり、国際的な経済制裁へと発展しました。

日本企業に求められている視点と姿勢

南アと同じような、市民によるイスラエルボイコット運動も、国際的に展開されています。イスラエルで事業する企業の撤退が続出する中で、今回のハマスの攻撃で「パレスチナ人は決して屈しない」ことが改めて示されたと言えます。パレスチナ人の正当な権利を尊重する根本解決が図られない限り、国際的なボイコットはますます強まるものと予想されます。

日本もとくに第2次安倍政権時から、イスラエルと関係を強化しています。政府主導で「イスラエルと提携を」と進められており、レピュテーションリスクを懸念する日本の企業から私に、「占領に加担していないイスラエル企業と組めないものか」と相談が寄せられることがあります。しかしイスラエルのあらゆる企業(少なくとも日本企業と提携できる企業)や研究機関などが占領に加担しているのが実情です。

イスラエルの入植者人口は70万人で、イスラエルのユダヤ人人口の11人に1人ほどに当たります。植民地はもはや地方都市で、金融機関や商業施設など、イスラエルの主要企業がすべ事業しています。大学などの研究機関も軍隊の委託研究を多くしており、ハイテクのスタートアップも、多くが軍事技術の民間転用です。経済全体が入植政策、そして軍事と一体化しているので、日本の企業の期待と裏腹に、「クリーンなイスラエル機関」などありません。

近年「ビジネスと人権」に注目が集まり、企業が寄付活動などでなく、人権侵害に加担しない重要性が認識されるようになっています。場合によっては、イスラエルと提携する日本企業がボイコットの運動のターゲットになりうると、しかと認識する必要性があります。

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【ガザからの最新報告・2】―住民のハマス観―(土井敏邦) - エキスパート - Yahoo!ニュース
(撮影・ガザ住民) ガザのジャーナリストからの報告の第二弾。【ラファ市の被災者】 今日(6月4日)、ラファ市(ガザ地区最南部でエジプトとの国境の街)でインタビューしました。(Q・自己紹介を) イスマイ

【ガザからの最新報告・2】―住民のハマス観― 土井敏邦ジャーナリスト 2021/6/17(木)

 ガザのジャーナリストからの報告の第二弾。

【ラファ市の被災者】

 今日(2021年6月4日)、ラファ市(ガザ地区最南部でエジプトとの国境の街)でインタビューしました。

(Q・自己紹介を)

 イスマイル(仮名)で54歳です。1986年から自動車整備工の仕事をしています。

(Q・今回の戦争でどういう損害を受けましたか?)

 イスラエル軍の戦闘機がごらんのように私の家の建物を爆撃しました。一階は自動車整備工場で、私の住居は二階でした。だから家が破壊されて、住居と仕事の両方を失いました。

(Q・家族は大丈夫でしたか?ケガはなかったですか?)

 妻や子どもたちは無事です。空爆される直前、イスラエルの情報機関から電話がありました。「10分以内に家を出ろ!」という通告でした。私は家族を連れてすぐに家を離れました。

(Q・なぜイスラエル軍はあなたの家を狙ったのですか?何度も自問したことでしょうが)

 もちろんです。何度もこの疑問を自問しました。私に起こったことはイスラエルによるテロです。私はハマスや他の武装組織とは全く関係のない一般住民です。今、私の生活の全てが破壊されました。今はホームレスです。仕事もありません。私の工場で働いていた3人の従業員も失業してしまいました。

(Q・正直に教えてください。この戦争の最中、そしてその後のハマスの行動を支持しますか?)

 いいえ。私はハマスの行動には同意しません。私はイスラエルへの軍事行動には反対です。ハマスは20年間もイスラエルにロケットを撃ち続けています。しかしそれによって私たちに何一つ、いいことはありませんでした。イスラエルではなく私たち住民が敗者です。デイルバラ(ガザ地区中部の街)で暮らす親戚が教えてくれました。ハマスが発射したロケット弾が住民の家の中で爆発し、家にいた家族3人が犠牲になりました。

 ハマスの行動はひどいです。戦争の直後から何千トンの支援物資がガザ地区の外から送られてきました。数日後、ハマス系のスーパーマーケットに行くと、その支援物資を店頭で目にすることができます。つまり支援物資がハマスのマーケットで売られているんです。ハマスは盗賊です。そう言うのはとても辛いですが。

(Q・今どこに住んでいますか?この破壊された建物はどうしますか?)

 いま、私と家族は兄弟の家で暮らしていますが、借家を探しています。兄弟の家に長く暮らしたくないですから。いつもニュースをフォローしています。家を再建してくれる(海外支援の)プロジェクトがないかと思って。

(Q・世界に何を訴えたいですか?)

 海外の国々に言いたいです。子どもたちがちゃんと暮らせるように助けてください。全ての若者たちが今、ガザを脱出するか、自殺を考えています。

【ベイトラヒヤ町の被災者】

 昨日(2021年6月12日)、ベイトラヒヤ町(イスラエルとの国境に近いガザ地区北部の町。農業で有名な地区)で一人の男性にインタビューしました。

(Q・自己紹介を)

 モハマド(仮名)で、42歳です。難民ではなく、元々ベイトラヒヤの出身です。私の家族は妻と4人の子どもがいます。小さなアイスクリーム工場で働いています。

(Q・この戦争でどういう被害を受けましたか?)

 家を失いました。完全に破壊されたんです。ほんの数秒で家が瓦礫の山になってしまいました。

(Q・なぜ家が狙われたんですか?)

 わかりません。私にではなくイスラエルかハマスに聞いてください。

(Q・あなたはイスラエルとハマスに怒っているんですか?)

 もちろん、そうです。イスラエルは全く慈悲もなく冷血に、アメリカ製の残酷なミサイルで私たちを殺戮し家を粉々にします。

 ハマスは最近のパレスチナの歴史の中で最悪の組織です。ハマスは「パレスチナの大義」のためにイスラエルと闘っているのではなく、イランのために闘っています。また彼らはガザに来る支援物資や資金を全て盗んでいます。

(Q・今どこで暮らしていますか?)

 家族は今、義父(妻の父親)の家にいます。寛大に私たちを迎え入れてくれました。

(Q・家の再建プロジェクトに登録するつもりですか?)

 私は家の再建は考えていません。今、家族を連れてガザを脱出することを考えています。ハマスとそのマフィアから逃れるためにガザを出るつもりです。できるだけ早く脱出したいです。

(Q・あなたは家族と共に集団出国する話をしましたが、そのためには大金が必要です。貧しいあなたはその資金をどうやって賄うつもりですか?)

 最近、ブルドーザーを借りる準備をしています。破壊された家から瓦礫を取り除くつもりです。それが終わったら、家があった土地を売るつもりです。それでまとまった金を手に入れ、ガザ脱出の費用に充てるつもりです。

(Q・今の仕事の収入はいくらですか?)

 電力不足が工場の仕事を破壊してしまいました。アイスクリームの市場はひどい状況です。電力不足でアイスクリームが溶けてしまうために、スーパーマーケットや商店からの需要はほとんどありません。だから仕事は不規則です。週に2~3日しか仕事がありません。平均月収は650~700シェケル(2万2千~2万4千円)です。

(Q・子どもたちの将来のことを心配していますか?)

 ガザには未来はありません。だからガザを脱出しようとしているのです。今回の戦争の後、私の子どもたちは病的な恐怖心に苦しんでいます。悪夢にうなされ、夜中に泣き叫びます。近々、精神科の医者に連れていくつもりです。子どもたちの将来は消耗しきったガザにではなく、ガザの外の世界にあります。

(Q・海外にどういうメッセージを送りたいですか?) 

 二つのことをお願いしたいです。まずガザに国連の多国籍軍を派遣してほしい。私たちとイスラエルとの長い「休戦」を実現し、平穏な状態を維持するためです。

 第二には、海外からの支援はハマスの手に渡さないこと。ハマスはその金や物資をハマス支持者だけに分配するからです。

【「住民を飢えさせない」という政治の役割】

 紹介したようなハマスを非難する現地の声を公開することは、さまざまな危険を伴い、非難を浴びる。

 一つは、ガザ住民のハマス批判の声は、イスラエル側に、自国のガザ封鎖政策、ガザ攻撃の「正当化」に利用されかねないことだ。「住民を日常的に苦しめているのは我われの政策や攻撃ではなく、ハマスなのだ。イスラエルではないのだ」と。

 またハマスと敵対するヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府は、「ハマスによって住民はこれほど苦難を強いられている。我われこそがパレスチナを代表し、ガザ地区を統治するにふさわしい」という宣伝に使うかもしれない。

 一方、「パレスチナ支援者」「親パレスチナ」の人たちは、「パレスチナ問題の根源はイスラエルの植民地主義、占領、封鎖にある。ハマス批判は、この問題の根源から目をそらさせてしまう」と主張するだろう。

 しかし、いまガザ住民を苦しめているのはイスラエルの封鎖、占領政策だけではない。ガザ住民に甚大な被害をもたらすイスラエルの攻撃を誘発したハマスら武装勢力のロケット弾攻撃であり、被害を受けた住民に十分な支援をしないハマス政府の無策に、住民は激しい怒りと絶望感を抱いている。

 ハマスのスポークスマンは私に、「パレスチナ人が向かうべき方向は、占領と闘い占領を終わらせること、自分たちの故郷で自分たちの国を建てることです。人はただ食べたり飲んだりするためだけに生きているのではない。占領下で奴隷のように生きるわけにはいきません。全ての人が飢えてパンを求めているのではありません。彼らは“自由”に飢えているのです。自由と尊厳があれば、なんでもできます」と、イスラエルへのロケット弾攻撃を正当化した。

 確かに占領され、封鎖されるパレスチナ人には、それを行うイスラエルに対して“抵抗する権利”がある。しかし過去4回のガザ攻撃の実例が示すように、抵抗権としてのハマスらの「イスラエルへのミサイル攻撃」は、封鎖からの解放、占領からの解放、生活の改善も住民に何一つ、もたらさなかった。逆に占領、封鎖は一層強化され、ガザ地区の経済は崩壊し、多くの住民は自由も仕事の糧も奪われ、とりわけ若者たちは将来への夢、希望さえ失った。

 イスラエル軍の攻撃で住居を失い、仕事を失い、生活の糧さえ失った多くの住民は今、「自由”に飢えている」のではなく、「人間らしく生きるための最低限の生活基盤」に「飢えている」のだ。それが奪われて、人はどうやって“尊厳”が保てようか。俳優の故・菅原文太が言ったように、政治の役割の一つは、「国民を飢えさせないこと」だ。「独立国家・自由・尊厳」といった「パレスチナの大義」を大言壮語する前に、まず住民を「飢えさせることなく、人間らしく生きる条件を整える」ことが何よりも優先されるべきはずだ。それさえできず、ハマスに批判的な住民が訴えるように、「『パレスチナの大義のための闘い』と喧伝し、アラブ諸国やイランなど海外から、さらなる『武装闘争』のための資金を呼び込もうとしている」とすれば、「ハマスは最近のパレスチナの歴史の中で最悪の組織」という住民の声は説得力がある。

【なぜメディアは住民のハマス批判を伝えにくいのか】

 今回のガザ攻撃をめぐる日本のメディア報道で、被害住民のハマス観に言及したニュースを私はほとんど目にしなかった。私が唯一目にしたのは「朝日新聞」(2021年6月3日朝刊)の「武力衝突ではガザ市民に多くの犠牲が出たが、イスラエルの占領との闘いという大義名分があるため、パレスチナではハマスへの強い批判も起きていない」という記事だった。

 なぜメディアで住民のハマス批判がなかなか報じられないか。私は以下のような理由があるのではないかと推測している。

 まず、取材し記事を書く特派員や掲載の判断をする本社デスクのレベルで、「ただでさえ一般の読者(視聴者)には“パレスチナ問題”は遠くて複雑な問題なのに、パレスチナ内部の問題まで言及すると問題はさらに複雑化し、読者(視聴者)はますます混乱しついていけない」という判断から、パレスチナ問題を「イスラエ
ル対パレスチナ」という二項対立で単純化し、「わかりやすく」しようとする判断のため。

 もう一つは、もしハマス批判を記事やニュースにしたらハマス当局に睨まれ、二度とガザ地区の現場取材ができなくなるのではという現場を取材する側の懸念。

 さらに、日本メディアが雇う現地コーディネーターやストリンガー(現地取材者)が親ハマス系の場合、日本人特派員のためにアレンジする取材対象者からハマスに批判的な住民を意図的に排除してしまう可能性もありえる。

 もう一つ挙げれば、ハマスを非難する証言者の身の安全の問題である。匿名にしやすい活字媒体ならまだしも、映像の場合、証言者が特定されやすい。そうなればハマス当局から激しい弾圧を受けることを住民は経験から知っている。とりわけ海外のメディアの取材の場合、住民はその証言記録がどう使われるか、またハマス関係者の手に渡ってしまうのではないかという不安のために、本音を語ることを躊躇してしまう。今回、私が住民の声を現地のパレスチナ人ジャーナリストに聞いてもらったのは、私自身が現場に入れない事情の他に、そういう「住民の不安」が頭にあったからだ。

 いずれにしろ、いま緊急に世界に伝えられなければならないのはガザ地区で貧困と絶望のなかで生きることを強いられている一般民衆の現状と声である。彼らが何に苦しみ、何に怒り、何を求めているのか。そして国際社会がその住民たちのために何ができるのか、何をすべきなのか。

 “パレスチナ”の「大義」「正論」「問題」を声高に語り、「わかったつもりになる」のではなく、現地で必死に生き延びようとする“一人ひとりの人間”から目をそらさず、その小さな叫び声に耳を澄ますことである。

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ガザからの最新報告(土井敏邦) - エキスパート - Yahoo!ニュース
イスラエルでの仕事を求め殺到する住民(撮影・ガザ住民) 今年5月のイスラエルによる「ガザ攻撃」から5ヵ月、ガザは今、どうなっているのか。 ガザ在住のジャーナリストが10月7日、以下の現状報告を送ってき

【ガザからの最新報告】 土井敏邦ジャーナリスト 2021/10/9(土)

 今年5月のイスラエルによる「ガザ攻撃」から5ヵ月、ガザは今、どうなっているのか。

 ガザ在住のジャーナリストが10月7日、以下の現状報告を送ってきた。

 「前回のガザ攻撃で住居を失ったホームレスの住民は今なお状況は変わらず、苦しんでいます。『再建プロセス』はいまだ始まっていないからです。冬が間もなくやってきますが、彼らにはまだ家がないのです。

 ハマスの「軍事的な冒険」と腐敗に、住民は以前に増して苛立っています。前回のガザ攻撃は人々の精神状態をいっそう悪化させました。「2014年のガザ攻撃(注・死者約2300人、負傷者約11000人、家破壊約18000軒)よりもさらに壊滅的」と言う人もいます。

 貧困率はさらに増加しています。何千人という若者がガザ脱出を試みています。

 250万人のガザ住民のうち新型コロナウイルスの予防ワクチンを受けられた人の数は現在、35万人だけです。
何週間も前から感染の新たな波が押し寄せています。病院では毎日、新型コロナウイルスによる死者が登録されています。

 全ての住民が経済状態がよくなることを渇望しています。ほとんどの住民には仕事がないのです。

 2日前、イスラエル政府が2500人のガザ住民にイスラエルでの出稼ぎを認めると発表しました。その2500人の枠に応募するために多くの人々が殺到しました。その痛々しい写真を見れば、ガザの住民どれほど地獄のような状況の中で生きているか想像できると思います」

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愛知県の指導で名古屋市内の精神鍛錬所と昭和塾堂が「最低生活デー」の見本献立をつくり、県当局はこれを普及させようとしたが、それは同県(北設楽郡)御殿村では、一般農家の「最上の御馳走よりも尚高価なもの」であったため、人々のひんしゅくをかった。

このような悲喜劇はなぜ生まれるのであろうか。
戦争の受益者となる機会の相対的に多い都市住民と違い、農山漁村の民衆は、日清戦争以来、戦争のたびに大きな犠牲・矛盾・困難をかかえこんできており、しかも常に戦争を熱心に支えてきた。

(第1節 戦争への不安と期待 デモクラシーからファシズムへ 「草の根のファシズム」)

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軍隊は農民兵士に新しい展望を与えてくれるようにも思われた。
戦場勤務を通じて伍長・軍曹などの下士官になれば、復員後、村の有力者となる道が開けていた。兵士は伍長任官に強い執着を示した。

(第1節 戦争への不安と期待 デモクラシーからファシズムへ 「草の根のファシズム」)

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日中戦争が泥沼化して戦争終結の見通しがたたず、当の陸軍が戦線の漸進的縮小・撤兵を考えたことさえあった1940年前半は、一つの転機であった。しかし、民衆の意識は、戦争遂行という点では、1937年後半と比べて一層確固たるものになっていた。

(第1節 戦争への不安と期待 デモクラシーからファシズムへ 「草の根のファシズム」)

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