訪問介護220カ所休廃止 市町村の社会福祉協議会 5年間で13%減 人手不足やヘルパー高齢化

市町村の社会福祉協議会 5年間で13%減 人手不足やヘルパー高齢化

(共同通信配信 2023年09月02日)

社会福祉法に基づき全市区町村にある社会福祉協議会(社協)で、運営する訪問介護事業所が過去5年間に少なくとも約220カ所、廃止や休止されたことが2日、共同通信の全国調査で分かった。5年間で約13%減り、現在は約1300カ所。都市部で一般の民間事業者との競合を理由に撤退するケースもあるが、多くはヘルパーの高齢化や人手不足、事業の収支悪化などが響いている。

公的な性格を持つ社協が事業をやめると、採算面などで民間が受けたがらない利用者にサービスが行き届かなくなる恐れがある。政府は「住み慣れた地域で最期まで暮らせるように」という理念を掲げるが、厳しい現実が浮き彫りとなった。

調査は、都道府県が所有する介護保険の事業所データから社協の訪問介護を抽出。2018年と23年(一部は期間が異なる)を比較し、23年データに載っていない事業所について各社協に廃止や休止かどうか尋ねた。

社協の訪問介護は23年現在、全国に1302カ所(休止中は除く)。5年間に44都道府県で218カ所が廃止(統廃合を含む)や休止となっていた。富山、香川、佐賀の3県では休廃止はなかった。
新設分を差し引いた減少数は203カ所(13・5%)。減少率が最も高いのは鳥取県で、53・3%。大分県が38・5%、千葉県が30・4%などと続いた。


民間を含めた訪問介護事業所は全国的には近年、微増している。首都圏などでのニーズの高まりが要因だが、地方では訪問先への移動距離が長く、事業の効率化が難しいといった事情がある。社協では人口減に伴う利用者の減少や、高齢化したヘルパーの退職なども重なり、訪問介護は赤字というケースも多い。

今後も同じ傾向が続くと、各自治体の中心部から離れた地域に住んでいたり、支援が難しかったりする高齢者が自宅で生活を続けられない例が増える可能性がある。

調査の方法

都道府県が所有する介護保険の指定事業所データから社会福祉協議会(社協)の訪問介護を抽出し、2018年と23年を比較した(一部は期間が異なる)。23年データに載っていない訪問介護事業所について、廃止・休止かどうか各社協に聞いた。統合に伴う廃止も含んでいる。「訪問入浴介護」や「夜間対応型訪問介護」、軽度者(要支援1、2)向けに市区町村事業で実施している訪問介護などは調査の対象にしていない。

社会福祉協議会(社協)

社会福祉法に基づき、全ての都道府県と市区町村に置かれている非営利の民間組織。介護や障害福祉サービスのほか、子育て支援、福祉人材の育成、共同募金運動への協力といった事業を実施している。災害時のボランティアセンター開設、生活困窮者らへの資金貸し付けも担う。住民や企業から集めた会費、自治体からの事業委託費や補助金などで運営している。自治体から職員が出向したり、退職後に再就職したりするなど行政との結び付きが強い。

地域包括ケアの要、評価を  社協の訪問介護減少

【解説】政府は20年ほど前から「地域包括ケアシステム」と銘打って、重い要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けられるようにすることを目指してきた。訪問介護は本来、その要となるサービスのはずだが、ヘルパーの在宅ケアの重要性が評価されず、低い賃金に抑えられてきた。そのため深刻な人手不足が続き、各地の社会福祉協議会(社協)が訪問介護から手を引く大きな要因になっている。自宅でサービスを受けることができないため、老人ホームなどの施設に移らざるを得ないといった例が出ているのが実態だ。

「地域包括ケア」を掲げながら、訪問介護を低い評価にとどめている国の政策は矛盾しているのではないだろうか。ヘルパーの報酬を引き上げるほか、採算を取るのが難しい利用者を引き受けた場合、その事業所を財政支援するといった対応が求められる。

公益的な存在、責任ある  東洋大の高野龍昭(たかの・たつあき)教授(高齢者福祉)の話

社会福祉協議会は公益的な役割を担っている存在なので、「訪問介護が赤字だから」「利用者が減っているから」といった理由で事業をやめるのは好ましくない。希望者がいるのなら、サービス提供を続ける責務がある。ただ、過疎地域では一軒一軒の移動時間が長く、採算が厳しい。そうした事業所には行政が補助金などを出すといった対応も考えるべきだ。そもそも、訪問介護の報酬が低すぎるのが問題だ。一方で、地域の介護・医療を持続させるためには今後、高齢者に一定エリアへの集住を促すような施策の検討も必要となるだろう。

サービス停止「立ち往生」  自治体、国に対策要望

市区町村の社会福祉協議会(社協)による訪問介護事業所の休廃止を巡っては、サービスを打ち切られた住民が「介護難民」となり、禍根を残したケースも出ている。一方で、事業を続ける社協もヘルパー不足や赤字で青息吐息。地方自治体からは、中山間地などでも採算が取れるよう国に対策を求める声が上がる。

▽今も納得できず

「まさか、ばっさりサービスを切るとは…。本当に立ち往生しました」。宮城県多賀城市の須田富士子(すだ・ふじこ)さん(66)はそう振り返る。

須田さんは2014年に仕事中のけがで重い障害を負い、市社協が介護保険と共に実施していた障害福祉サービスで居宅介護を受けていた。市社協から「事業の廃止が決まった」と聞かされたのは19年9月のこと。「サービス提供は12月でやめ、20年3月末に廃止する」と、他の民間事業所や近隣の社協への切り替えを打診された。須田さんは「一方的であまりに唐突だ」と、約900人の署名を集め、事業の継続を求める請願を市議会に提出。

19年12月に採択されたが、最終的に市社協は20年3月末に事業をやめた。廃止の理由は、訪問介護が年間1千万円以上の赤字だったからだ。市社協の菅野昌彦(かんの・まさひこ)事務局長は「廃止が唐突だったとは思っていない。ほかにも民間の事業所があり、約30人いた利用者は引き継いだ」と話す。ただ、須田さんは条件の合う引き受け手が見つからず「一時期、入浴はシャワーで体を洗い流すことしかできなかった」。今も納得できない気持ちが残っている。

▽再びの赤字

社協の訪問介護事業所の休廃止は、過去5年間で約220カ所に上る。「民間事業者が増え、社協がやる意義が薄らいだ」「『民業圧迫』と言われる」と話す社協もあるが、多くはヘルパーの高齢化や人手が確保できないことを理由に挙げる。過疎地では高齢者の人口も減り、利用者の減少で収支が悪化している。福島県田村市社協は19年に三つの事業所を一つに統廃合。より高い介護報酬が得られるようサービスの見直しや加算金の取得を進めた結果、黒字転換に成功した。


全国社協の機関誌で好事例として取り上げられたほどだが、その後状況が一変。高齢になったヘルパーがここ1年余りで次々と辞め、収入減で再び赤字に。担当者は「新しいヘルパーを募集しても、誰も来ない」とため息をつく。

▽報酬アップを

なり手確保に苦労しているのは社協だけではない。全国的に見てもヘルパーの約4人に1人は65歳以上。厚生労働省によると、22年度時点の有効求人倍率は15・53倍で、深刻な人手不足にある。
19年にはヘルパー3人が「移動や待機の時間を考慮しない低賃金が人手不足の原因で、政府に責任がある」として、国に賠償を求めて提訴。東京高裁で係争中だ。


厚労省は「移動などの時間も介護報酬に含まれている」との見解だが、見直しを求める声は自治体からも上がる。熊本県山都町など8自治体は中山間地での移動時間を適正に取り扱うよう、介護報酬の引き上げを厚労省に要望している。

来年度は介護報酬の改定年に当たる。厚労省は「必要な方策を検討する」としているが、財源の制約が厳しく、どこまで実効性のある対策を打ち出せるかは不透明だ。

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