「幸せな人生」に必要なものはなにか…ハーバード大学が80年かけて出した”最終結論”

「幸せな人生」に必要なものはなにか…ハーバード大学が80年かけて出した”最終結論”(プレジデントオンライン) – Yahoo!ニュース

幸せな人生には何が必要なのか。明治大学の堀田秀吾教授は「ハーバード大学が742人を80年にわたって追跡調査した研究結果によると、人の幸福と健康を高めてくれるのは、家柄や学歴、職業、家の環境、年収や老後資金の有無ではなく、『信頼できる人』の存在だった」という――。

■世の中の3割近くの人が、「職場の人間関係」に悩んでいる

 さて、みなさんの中に、上司や同僚とそりが合わない、コミュニケーションがうまくとれない、何らかのハラスメントや嫌がらせを受けているという人や、「上司や組織の仕事の進め方が合理的でない」「真面目に働き、成果を上げている人間と、そうでない人間がいる」「自分の働きに対する評価や待遇が適切でない」「飲み会など、時間外のイベントに参加させられる」といったことに、ストレスを感じている人はいませんか。

 ちなみに、厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、25.7%の人が職場の対人関係に強いストレスを抱えていると答えており、日本労働調査組合が2021年に行った「職場の人間関係に関するアンケート」でも、16.5%の人が「職場の人間関係に疲れて悩んでいる」、12.7%の人が「職場の人間関係にストレスを感じている」と答えています。

■意欲や生産性を上げるのは、賃金ではない

 職場の人間関係は仕事の効率や生産性に大きく影響します。

組織のあり方や人間関係に問題があると、当然のことながら、仕事への意欲が下がったり、意思疎通やコミュニケーションがスムーズにいかなくなり、業務に支障が生じたり、離職率が上がり、優秀な人材が流出したり、人手不足に陥ったりしやすくなるからです。

 職場の人間関係と仕事の効率の関係性については、「ホーソン実験」という有名な実験によって明らかにされています。

ホーソン実験は1927年から1932年にかけて、当時ハーバード大学教授だった、ジョージ・エルトン・メイヨー教授らがウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行った研究のことを指します。

 教授らは、生産性を上げるために何が必要なのかを見つけるため、さまざまな実験を繰り返した末、生産性の向上にもっとも大きな影響を与えるのは、労働時間や休憩時間、賃金や物理的な労働環境ではなく、人間関係であるという結論に至ったのです。

■組織の人間関係は、そもそも破綻する運命にある

ここで、みなさんに知っておいていただきたいことがあります。

それは、組織の人間関係は、そもそも破綻(はたん)する運命にあるということです。

なぜなら、基本的には、人が増えれば増えるほど、一人ひとりの当事者意識が減るからです。

 その結果、組織全体としての生産性が下がったり、さまざまな人間関係のトラブルが起こったりするのです。

みなさんの職場のことを思い浮かべてみてください。

会議で積極的に発言する人、会社の業績アップに貢献している人は限られていませんか? 

 上司や同僚の中に、あなたから見て、まったく仕事に対してやる気や熱意、前向きさが感じられない人、サボってばかりいる人、成果を上げておらず、会社に対してまったく貢献していない人、言われたことしかしない人はいませんか?

 大した仕事をしているようにはとても思えないのに、働きに見合わない高い給料をもらっている人はいませんか?

そんな人たちを見て、ストレスや不満がたまり、あなた自身のモチベーションが下がったり、生産性が落ちたりしていませんか?

■当事者が増えるほど、人は無意識に手を抜いてしまう

仕事に対して前向きになれない人は、仕事に対して当事者意識を持てない人だといえるかもしれません。

「自分が積極的に行動し、この仕事でしっかりと成果を上げなければ」「会社の業績アップに貢献し、自分の収入も上げたい」といった意識がなく、「そこそこに仕事をして、そこそこの給料さえもらえればいい」「自分が頑張らなくても、ほかの人が頑張ってくれるだろう」と考えているのです。

 人が増えれば増えるほど、個人個人の当事者意識が減ってしまうのは、「傍観者効果」が働いてしまうからです。

傍観者効果とは、集団心理を表す社会心理学の言葉で、「自分がやらなくても、ほかの誰かがやるだろう」と考え、率先して行動しようとしない心理状態のことを指します。

 傍観者効果については、ニューヨーク大学のダーリーとコロンビア大学のラタネが、次のような実験を行っています。

 その結果、ほかの人がいる状況では一人ひとりの責任感が薄れ、人数が増えれば増えるほど、人は傍観者になりやすく、自分からは動かなくなる傾向があることが判明したのです。 ———-

※「傍観者効果」に関する実験 実施者:ダーリー(ニューヨーク大学)、ラタネ(コロンビア大学) 方法:大学生を2名、3名、6名のグループに分けて、各グループ内で討議をさせる。その最中に、突然参加者の一人(仕込み役)が発作を起こした場合、行動を起こした学生の人数や、行動を起こすまでの時間を計測する。 結果:2名のグループでは全員が何らかの行動を起こしたが、6名のグループでは62%の学生しか行動を起こさず、行動を起こすまでの時間も長くかかった。

■「ほかの人が頑張ってくれるからいいや」と思ってしまう

1913年に行われた、フランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンの実験も有名です。

リンゲルマンは、1人から8人までのグループに、それぞれ綱引きをさせ、引っ張る力を測定しました。

すると、1人の際の力を100%としたとき、2人の場合は93%、3人の場合は85%と、人数が増えるごとに一人あたりの力が減り、8人のときには39%にまで減っていたのです。

同じグループの人数が増えれば増えるほど、人の心には自然と「自分が全力を出さなくても、ほかの人が頑張ってくれるからいいや」という気持ちが芽生えてきます。

 これは「リンゲルマン効果」もしくは「社会的手抜き」と呼ばれる現象です。

しかも、ダーリーとラタネが行った別の実験により、こうした手抜きは無意識のうちに行われることが明らかになっています。

■周囲の人間に惑わされてはいけない

 これまで見てきたように、基本的にはチームやグループ、会社などの人数が多くなればなるほど、傍観者効果やリンゲルマン効果が働き、自分の仕事に責任を持たないメンバー、頑張らないメンバーが増えます。

その結果、まず集団としてのモチベーションの低下、組織の生産性の低下が起こりますが、弊害はそれだけではありません。

「働きアリの法則」のことは、おそらくみなさんご存じでしょう。

働きアリの法則とは、アリの集団を「よく働くアリ」「普通のアリ」「働かないアリ」の3種類に分けたとき、必ず、よく働くアリが全体の2割、働くこともあれば働かないこともある普通のアリが6割、まったく働かないアリが2割になるという法則のことを指しますが、これは人間にも当てはまるといわれています。

たとえば、最初、その組織に100人のメンバーがいたとすると、20人は熱心に働き、60人は普通に働き、20人はあまり働かない、という分布になります。

 そして、熱心に働いていた20人が、負担の多さ、ほかの人たちの勤務態度に嫌気がさして退職し、組織の人数が80人になったとすると、今度は16人が熱心に働き、48人が普通に働き、16人はあまり働かない、という分布になります。

■本当に大切にするべき人を見極めたほうがいい

 どれほど人が多い組織でも、中には必ず意欲を持って仕事に取り組むメンバーがいるはずなのですが、やる気やモチベーションの低いメンバーが多いと、意欲の高いメンバーの負担が増え、モチベーションの低下が伝染したり、離職率が高くなったり……といったことが起こりやすくなります。

そのような組織は、衰退の一途をたどるしかありません。

あなたが仕事へのモチベーションを維持し、仕事に積極的に取り組み、より高い収入を得たいと考えるなら、働きの悪い上司や、意欲やモチベーションの低い同僚に期待したり、不満やストレスを抱いたりしている場合ではありません。

 傍観者効果やリンゲルマン効果が作用してしまう以上、組織において、そうした人が一定数生まれてしまうのは仕方がないことなのです。

 そこにエネルギーや時間を割くよりも、組織の中で本当に大切にするべき相手と理想的な人間関係を構築すること。

 それが、限られたあなたの時間を有意義に使い、パフォーマンスを高め、あなたがビジネスで成功し、豊かな人生を送るための鍵となります。

■「たった一人」でも温かな、信頼できる人がいればいい

 本当に大切にするべき相手と理想的な人間関係を構築することは、ストレスを軽減し、脳の機能や仕事のパフォーマンスを高め、人を健康に、幸福にします。

 ハーバード大学には、1938年から80年以上(発表された研究では75年分のデータを検討)にわたり、「幸福な人生」について研究している研究者たちがいます。

彼らはその間、次のような形で、約700人の被験者たちの追跡調査を行って人生を記録し、現在は2000人以上に及ぶ、被験者の子どもたちについての研究も行っています。

※「幸福な人生」についての研究 実施者:ヴェイラント(ハーバード大学)ら 方法:1938年時点でハーバード大学2回生だった者と、ボストンでもっとも貧しい地域に住む少年たち、計742人を対象に、インタビューやアンケートによって仕事や家庭生活、健康についての質問を継続的に行う。

結果:家族や友人、コミュニティとつながりがあり、質の良い、温かい人間関係の中で生きている人は、社会関係が薄い人よりも幸福かつ健康で、長生きしている。

また、80代の仲の良い夫婦は、身体的な痛みが多くても、自分たちを幸福であるととらえ、良い人間関係を持たない人は、身体的・精神的な痛みの増長を感じていた。さらに、信頼できる相手がいる人の記憶は長持ちし、信頼できる人がいない人は、記憶力が早くに低下する傾向があった。

■幸せに必要なのは「家柄、学歴、年収、老後資金」ではない

 この研究の結果、人の幸福と健康を高めてくれるのは、家柄や学歴、職業、家の環境、年収や老後資金の有無などではなく、質の良い人間関係であることがわかりました。

 しかも友人の数は関係なく、たった一人でも心から信頼できる相手がいる人、温かい人間関係の中で生きている人は、脳が健康に保たれ、心身の苦痛が和らぎ、より長生きします。

 逆に、孤立感を覚えている人は、自分を周りよりも不幸だととらえ、中年期以降に健康を損なったり、脳の機能が衰えたりしがちで、孤立していない人に比べて寿命が短くなる傾向にあったのです。

 ほかにも、「嫌な上司のもとで働く従業員は、好きな上司のもとで働く従業員に比べて、心臓発作や脳卒中で死ぬリスクが60%高くなる」「人間関係が悪い会社では、社員が高血圧や高コレステロール、糖尿病に悩む確率が20%増加する」といった報告もあります。

■つきあう友人の状況でも「幸福度」は変わる

 では、あなたにとって本当に大切にするべき相手とはどのような人であり、理想的な人間関係とはどのようなものなのでしょうか。

 何よりも大事なのは、「ポジティブな人、信頼できる人と共に時間を過ごすこと」です。

愛知医科大学のマツナガらは、18~25歳の被験者たちに、架空のライフイベントや人間関係などが描かれたストーリーを読ませ、主人公になりきって追体験してもらい、そのときの反応(唾液に含まれる、「幸せホルモン」ともいわれるセロトニンの量)を調べました。

ライフイベントの内容は「ポジティブ」「ニュートラル」「ネガティブ」の3つに、人間関係も「ポジティブな友人」「ネガティブな友人」「友人がいない」の3パターンに分かれていたのですが、その結果、「ポジティブな友人がいること」が被験者の幸福度を著しく高めることがわかりました。

ポジティブで幸せそうな友人がいるケースでは、たとえライフイベントがネガティブなものであっても、幸福を感じる傾向が見られたのです。

逆に、ネガティブな友人がいる場合は、友人がいない場合よりも幸福度が下がる傾向が見られました。

幸福度が人間関係によって左右されるのは、人間に高い共感能力があるからです。

人は、対面している相手、近くにいる相手が発している感情をそのまま受け取り、同じような感情を抱きます。  

そのため、ポジティブな人と共に時間を過ごしたほうが、人生はポジティブな方向に向かいやすいのです。

■職場でも、信頼できる人は一人いればいい

 もちろん、仕事の人間関係においても同じことがいえます。

何事にも積極的な人といると積極的に、モチベーションが高い人といると意欲的になりやすいといえるでしょう。

一方で、ネガティブな人、消極的でモチベーションが低い人との人間関係に時間やエネルギーを費やすことは、あなたのビジネスにおいて、決してプラスにはなりません。

また、職場にたった一人でも信頼できる人がいるかどうかは、職場の人間関係への満足度を大きく左右します。

 2016年に行われた、仕事仲間との関係構築に関するアンケート調査(エン・ジャパン株式会社が運営する人材紹介集合サイト「ミドルの転職」が実施)によると、職場に信頼できる人がいる人で、「職場の人間関係に満足している」と答えた人は61%、職場に信頼できる人がいない人で、「職場の人間関係に満足している」と答えた人は23%であり、信頼できる人が職場にいることで、職場の人間関係への満足度が高まることがわかります。

 そして、信頼できる人の存在は、あなたが仕事でミッションを達成するうえで、大きな力となります。

 あらためて、職場の上司や同僚、取引相手との人間関係について考えてみましょう。

あなたが心から信頼できる人、あなたの仕事への意欲を引き出し、あなたをポジティブな気持ちにしてくれる人はいますか? 

 人間関係にある程度線引きをし、そうした人との関係により多くの時間とエネルギーを割くことが、あなたのビジネスを成功に導き、あなたの人生を健康で幸福なものにしてくれるのです。

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