「人生会議」って何? 医師の意見に左右され、本人の希望が尊重されないことも | ヨミドクター(読売新聞) (yomiuri.co.jp)
人は死が近づくと、その時、どのような医療やケア(介護)をしてほしいか、言えなくなります。
そのため、そのような状況になる前に「人生会議」を行うことが勧められています。
人生会議とはACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称で、「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組み」(厚生労働省)のことです。
厚労省が令和元年に作成した人生会議の啓発ポスターが話題になりましたので、記憶に残っている方も多いと思います。
誰もが迎える人生の終わりに、無意味な延命医療を受けて苦しんで死にたいのか、それとも、苦しみもなく自然に死にたいのか。人生会議の意味について考えてみてはいかがでしょう。
人生会議は医療・ケアチームの同意が必要
人生会議には、本人とその家族(時に友人)のほか、医師、看護師、ソーシャルワーカーなどから成る医療・ケアチームが参加します。
人生会議で話し合う内容の必須事項は、最期をどこで迎えたいのか、最期はどんな医療とケアを受けたいのか、そして、これら自分の考えを十分に理解している人はだれなのか、です。
ところで、医療・ケアチームは専門家として、その人に最善と考えられる医療とケアを提案するのですが、本人が望むことと一致しないことがあります。
こんな事例が、日本老年医学会ACP事例集に報告されています。(※1)
慢性腎不全の84歳男性。本人は「透析(人工腎臓)だけは、勘弁してください」と訴えました。
家族も「透析をしたくない」という本人の気持ちを尊重していました。
にもかかわらず、看護師と医師が透析を強く勧めたため、1回目の人生会議では意見の一致がみられませんでした。
3か月後に、その医師が海外の論文を調べ、「この患者の場合は、必ずしも透析療法の適応があるとはいえない」と医療・ケアチーム内で述べたことから、チームは患者の希望(透析をしない)が第1選択になりうるということに納得しました。
そのことを患者に伝えると、患者はホッとした様子で笑顔を浮かべ、何度もうなずきました。
最後は本人の意向が通りましたが、医療・ケアチームは3か月間も患者を不安に陥れていました。
また、連載1回目の コラム(5月5日) で紹介したような例もあります。
94歳の男性が脳出血で意識がなくなり、病院に搬送されました。担当医には、本人や家族の「経管栄養で延命されることを望んでいない」との意向が告げられたにもかかわらず、勝手に鼻チューブが挿入され、自然の経過でみとりたいという家族の希望が認められませんでした。
こんな延命至上主義の医師にあたると、人生会議を開いても本人や家族の意思は尊重されません。
このように人生会議は、医師の意見に大きく左右される危険性があります。
最期は本人の強い意志が決め手
人生会議に医療・ケアチームが参加することで、患者は正しい医療情報を得て、終末期に自分が納得する医療とケアを選択できることになります。
しかし、話し合いの結果、そのチームが本人の希望にそぐわない提案をする場合があります。
そのような時は、元気なうちに書いたリビングウィル( 7月7日のコラム 参照)を見せることで医療・ケアチームの提案を拒否することが可能です。また、医療・ケアチームも善意の押し売りをしてはいけません。
「先生にお任せします」と言う患者や家族がいますが、自分自身が納得する死を迎えるためには、自分自身で、人生の最期にどんな医療とケアを受けたいかを決めなければなりません。
人生の最期を会議で決めるって?
私の知り合いが、「自分の人生の最期は会議なんかで決めてほしくない。自分で決めたい!」と言っていました。私も自分で決めたいと思います。その時のために、今からリビングウィルを書き残しています。
最後に、人生会議を解説した動画を紹介します。YouTubeで「人生会議」を検索するとたくさんの動画が見つかりますが、厚労省が作成した動画(※2)は実話に基づくものでお薦めです。
その中で(第1話)、人生会議中に主人公(患者)がこうつぶやきました。「で、どうやったら死ねるんだ。そんなにいろいろ見に来られたら死ねないじゃないか」。ぜひこの動画を見て、考えてください。(宮本顕二 内科医)
※1 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/pdf/acp_example_04.pdf
※2 人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング) 国民向け普及・啓発事業 ~人生会議について考えるきっかけをつくるために~ Vol.1~3