森永卓郎の読まずにはいられない 「アエラ読書部」 書評 2023年7月24日号
コロナ禍、ウクライナ戦争、銀行破綻に地球温暖化、、、大惨事を煽るその裏で日本の喰い荒らす「強欲資本主義」の恥ずべき手口とは?
私は著者の作品は、ほぼすべて読んできたのだが、今回もいつも通り、鋭い切れ味が続いている。
タイトルの「ショック・ドクトリン」というのは、ナオミ・クラインが2007年に刊行した本のタイトルで、惨事便乗型資本主義とも呼ばれる。
惨事が起きて国民の心に空白が生まれた時、間髪を入れずに規制緩和、民営化、社会保障カットという新自由主義への構造改革を行い、その過程で強欲資本主義者たちが大儲けをする仕掛けのことだ。
ただし、惨事は自然災害に限らない。
ショック・ドクトリンの元祖、マーガレット・サッチャーが利用したのは、フォークランド紛争勝利の熱狂だったし、小泉純一郎元首相が利用したのは、「郵政を民営化すれば、日本経済がよくなる」という意味不明の経済理論だった。
著者は、いまの日本で、3分野でショック・ドクトリンが進行中だという。
マイナンバー制度と新型コロナ対策、そして脱炭素政策だ。
マイナンバー制度に関しては、現在、致命的な不備が次々に発覚し、国民の批判が高まっている。
にもかかわらず、政府は紙の保険証廃止の旗を降ろさない。
それはデジタル化で巨大な利権を手にする企業と官僚がいるのと同時に、マイナンバー制度を使わないと、国民の金融資産や国民の行動と思想を政府が完全に捕捉することができないからだ。
国民監視は、他の政策にも活かされる。
例えば、イギリスのオックスフォードシャー州では、州を6つの区域に分け、境界に電子ゲートを設置して、車で区域外に出る場合には、州の評議会の許可が要る。
環境対策で、車の移動を制限するためだ。
やっていることは、コロナ対策として行われたロックダウンと同じだ。
しかも、現在WHOは、パンデミック条約を準備していて、加盟国は世界共通のデジタル健康パスを導入することができるようになる。
そしてWHOがロックダウンや治療法の指示をするというのだ。
我々はコンピューターに管理された家畜となるのだ。
著者は、コメンテーターが同じ意見を言うようになったら危ないというが、それはすでにテレビで起きている。
著者の鋭いコメントは、最近のテレビでは、聴くことができないのだ。
もりなが・たくろう 1957年生まれ。獨協大学教授、経済アナリスト。