〈社説〉保険証の一本化 岸田首相は撤回の決断を

〈社説〉保険証の一本化 岸田首相は撤回の決断を|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト (shinmai.co.jp)

反対や懸念の声は、国会で法律が成立した今も、高まり続けている。

健康保険証を来年秋に廃止して、マイナンバーカードに一本化する政府方針である。

 医療を受ける権利を損ない、ひいては命に関わる恐れもある。

国民をリスクにさらしてまで強引に進めようとするのは、愚策である。

岸田文雄首相は、一本化を撤回すべきだ。

 証明書の誤交付に口座の誤登録、別人の年金情報のひも付け、顔写真の取り違えなど、マイナカードのトラブルは底なしの様相だ。

マイナ保険証は医療情報につながる点で、より深刻に受け止める必要がある。

 例えば、マイナ保険証に別人の情報が登録され、その履歴を基に薬剤が誤って処方されたら、医療事故につながってしまう。

誤登録は本来、一件もあってはならないものなのだ。

 厚生労働省によると、これまでに発覚した誤登録は7千件超。実際に閲覧されたケースもある。

 現場は混乱が深まっている。

全国保険医団体連合会の調査では、マイナ保険証を受け付ける開業医らのおよそ3分の2が「トラブルがあった」と回答した。

 一本化によって、保険証のない「無保険」状態の人が、大量に生まれる懸念もある。

 体の不自由な人や1人暮らしの高齢者の中には、マイナカードの申請手続きが難しい人も少なくない。

健康保険証の廃止後、厚労省はマイナ保険証のない人に「資格確認書」を発行する方針だが、1年ごとに更新手続きが要る。

 重い認知症などにより、カードと暗証番号を自力で管理できない人もいる。

同連合会の調査では、高齢者施設の9割以上が、入居者のマイナカードを管理できないとしている

紛失時の責任が重いなどの理由からだ。介護現場の苦悩が伝わってくる。

 これらの問題は、現行の保険証を存続させれば解決する。

 共同通信の最新の全国世論調査では、一本化の延期や撤回を求める声が72%に上った。

野党だけでなく、公明党の山口那津男代表も「紙の保険証と併存するアイデアもある」と述べている。

 かたくななのが、河野太郎デジタル相だ。

先週末に視察で松本市を訪れた際も、一本化の姿勢を崩さなかった。

 河野氏は現場の不安にこたえていない。

各地で続出するトラブルは、個人情報の保護を軽んじ、カードの普及と利活用の拡大を無理押しした当然の帰結である。

タイトルとURLをコピーしました