「教えて先輩里親さん!がんばりすぎない里親とは」座談会【2022年度シンポジウム第三部採録】│広げよう『里親』の輪│朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)
いざ里親になったとき、頑張りすぎて気負いすぎたり、子どもとのコミュニケーションに悩んだりすることもあるかもしれません。
実際に里親として子どもを育てている先輩たちは、どのように子どもと向き合っているのでしょうか。2022年10月22日に開催された、里親制度についてより多くの方々に知ってもらうことをめざして当事者や専門家らが語り合う「里親制度オンライン・シンポジウム」。
第三部の「教えて先輩里親さん!がんばりすぎない里親とは」では、先輩里親という立場から長田淳子さんと、野口啓示さん・婦美子さんご夫妻(オンライン参加)にお話をうかがいました。
解説は日本女子大学教授(社会福祉学)の林浩康さん、ファシリテーターは朝日新聞社の見市紀世子です。
頑張りすぎない里親とは
――まずは、皆さんが里親になったきっかけから教えてください。
野口 婦美子:私は短大を卒業後に児童養護施設に就職し、60人の子どもたちとの生活をスタートさせました。0歳から18歳まで育つ子どももおり、いる子どもたち一人ひとりの気持ちを満たすことの難しさを痛感したのです。もっと小さな家庭の空間で生活をさせてあげたい、夫婦で預かりたいという思いが強くなっていきました。施設を辞めるときに、そこにいた6人の子どもたちを夫婦で預かることを決め、里親登録をしました。
いまはファミリーホーム(※)を運営していて、大学1年生と小学6年生の女の子、高校2年生の男の子と暮らしています。これまで19人の子どもを養育してきましたが、社会人として働き出した子がよく家に帰ってきて、ここから仕事に行くこともあるんです。子どもたちの “実家”になったらいいなと思っていたのですが、いままさに、そんな風に生活しています。
※里親家庭を大きくした事業。里親や乳児院・児童養護施設職員経験者の自宅等で補助者も雇い、より多くの子どもを養育する。
野口 啓示:私はアメリカの大学でソーシャルワークを学んだあと、神戸市にある児童養護施設で働くなかで婦美子さんに出会い、結婚しました。彼女に引っ張られる形で里親になったと言えますね。
野口 啓示さん・婦美子さん夫妻
のぐち・けいじ/1971年、大阪市生まれ。NPO法人「Giving Tree」理事長。福山市立大学教育学部教授。
のぐち・ふみこ/1964年、兵庫県宍粟市生まれ。NPO法人「Giving Tree」事務局長。
夫妻は2003年に神戸市の社会福祉法人「神戸少年の町」の分園として「野口ホーム」の運営を始め、2016年にファミリーホームに移行。2017年に、里親や子どもたちを支援するNPO法人「Giving Tree」を設立した。
長田:私の最初のきっかけは、学生時代のボランティア活動でした。さまざまな子どもを、場合によっては当日に受け入れるということもしている里親さんに出会い、「すごいなぁ」と思っていました。
その後、乳児院に勤めていると、家庭に帰ることが難しい子どもたちの行き先として里親があり、そこでのびやかに成長していく姿を目にして、「いつか私も里親になれたらいいな」と思うようになりました。
いまは小・中学生の実子2人と一緒に、里親として幼児の子どもを受け入れて暮らしています。フルタイムで共働きですが、子育て支援のサービスも利用できますし里親へのサポートも多く、保育園を利用しながら子育てをしています。
長田 淳子さん(社会福祉法人二葉保育園 二葉乳児院副施設長)
ちょうだ・じゅんこ/1976年、京都府生まれ。児童相談所の虐待対応相談員を経て2005年から社会福祉法人二葉保育園の二葉乳児院に入職し、20年から現職。16年に養育里親として登録。一時保護やレスパイトなど短期間の受け入れから始め、思いが強まり長期委託へ。臨床心理士・精神保健福祉士・公認心理師・保育士。
子どもとのコミュニケーション
――これまでに寄せられた質問では、子どもとどう関係を築いていくのか、思春期や反抗期の子どもにどう接するのかなど、コミュニケーションについての心配も多いようです。預かったお子さんとは、どのように接してこられましたか。
野口(啓):里親を20年ほど続けてきた中でも忘れられないのは、中学3年生の女の子との関係でした。うちに来てしばらくしたら、僕と全く話さなくなって、理由を聞いても「自分で考えたら」と突き放されてしまいました。
僕なりに考えたけれどわからないので、考えるのをやめて、無視されても話しかけ続けたんです。高校3年になる3年もの間、ずっとです。するとある日突然、「ごめんなさい」と謝ってきたんですよ。「普通に『おはよう』『行ってらっしゃい』と言ってくれてうれしかった」と言ってくれました。
野口(婦):謝ってきた日の夜は、夫婦で「あきらめずに続けてきたから、この日が来たね」と乾杯して喜び合いました。
長田:いまお預かりしている子どもとは、施設で交流してから里親になりました。できるだけ楽しい時間を作りたくて、言葉の裏側にはどんな思いがあるのかな、と考えながら過ごしています。
一時保護の子どもを預かる場合は、突然「はじめまして」の状態で泊まるので、緊張すると思うんです。好きなものを「食べる?」とよく話しかけて、できるだけ安心した場所を提供したいなと思っています。
野口(婦):3歳の子どもを受け入れたときは、どう家族を築こうかと悩んで、毎晩、小学2年生のときまで手をつないで寝続けたこともありました。スキンシップができるうちはするのが大事だと思ったんです。
林:コミュニケーションで大事なのは「感情交流」です。つらい経験、ポジティブな感情を他者と共有することで、気持ちが緩和されたり、よいほうに深まったりと、お互いの感情を深化させることができますね。子どもから返答がなくても声をかけ続ける粘り強さも大切だなと、野口さんの話を聞いて改めて思いました。
――実子と里子との関係についても、多くの質問がありました。長田さんは、実のお子さんと並行して里親として幼児を迎え入れました。お子さんにはどう伝えていましたか。
長田:私は下の子どもを出産するときに3か月近く入院した経験があって、上の子はショートステイや預かり保育、近所の方にも支えてもらって過ごしたんです。子どもたちには、「同じように入院したり、短期間でも子どもの面倒を見るのが難しかったりという人がいるときにうちでも子どもを受け入れて、子どもが安心して生活できる場所にしたい」と話しました。
ただ、最初に受け入れたのが中高生の大きな子どもだったので、子どもたちも不思議そうにしていました。「この子いつまでいるのかな」と思っている感じはありつつも、一緒にテレビを見たりして楽しく遊んでいましたね。
短期で預かる子が続いたあと、長期で、いまも一緒に暮らす子を預かることになったときには「(あの子が)お母さんのところに帰るまで、私たちのところでしばらく一緒に生活するんだよ」と話をして、納得したようでした。上の子は周りの友達に聞かれたときには、「末っ子のおちびさんだよ」などと答えていました。きょうだいとして受け入れてくれているんだなと思います。
その子は、最初は私のことを「じゅんちゃん」と呼んでいましたが、半年後に自然と「母ちゃん」というようになりました。ここで「生活」できているんだな、と少しほっとしましたね。
林:実子がいる中で委託児童を迎え入れるときには、長田さんがやっていらっしゃったように、子どもに対して説明や疑問に丁寧に答えるという努力が必要になります。児童相談所やほかの支援者にも相談しながら、子どもの成長に合わせて説明していくことが大事ですね。実子と個別の時間を持って、お互いの気持ちを聞き合うことも大切だと思います。
――「がんばりすぎない里親」が今回のテーマとなっていますが、里親をご経験された皆さんはどう思われていますか。
野口(啓):子育ては決して楽しいことばかりではありません。どうしようもないこともたくさんあるので、いつもきちんとしているのは大変です。失敗しちゃダメと思いすぎず、ときに愚痴も言いながら子どもに向き合うくらいの、適度な“頑張り”が大事ではないでしょうか。
野口(婦):失敗ではなく、「その過程が大事だったんだ」と思う気持ちがあるといいですよね。
子どもがいるからいろんな経験ができる楽しさもあります。思春期の反抗期で大変なことはありましたが、里親さんの友達を作って気兼ねなく話し合ったり、「自分の生活も、自分自身が楽しいことも大事だ」と思い直したりすることで、子どものいろいろな行動の悩みも流れて忘れていくことができました。
暗かったり、いつまでも悩み込んでしまったりすると、一緒に生活している子どもたちもしんどくなりますから。明るくいられるように夫婦で悩みを共有したり、里親に向き合ってくれる人を見つけられたりできるといいなと思います。
長田:子どもたちは、「我が家に来たらハッピー」とか「もう大丈夫」ということではありません。子どもたちも生活に慣れていくのに時間がかかりますし、小さな子は自分が置かれている場所をうまく理解できなくて、肌で感じていくために数か月はかかるんだろうなと思います。
だからこそ、里親は「どうすれば子どもにとって安心安全な場所になるかな」とすごく考えてしまって、どうしても力が入ってしまうと思うんです。でも、それでは長続きしないので、いろんな周りのサポートを受けながら、自分たちらしく家族として毎日過ごせるようになればいいと思います。
――野口さんご夫妻はNPO法人Giving Treeで里親を支援する活動も行っています。始めた理由は何でしたか。
野口(啓):里親には、施設のような寄付による支援がありません。施設でも里親でも同じ子どものためにあるものなのに、里親に来たらサポートが少なくなるのは子どもにとって不利益ですよね。これは里親支援の仕組みをつくらないといけないなと思いました。
野口(婦):里親家庭に委託された子どもは、自分の生い立ちについて「自分だけがこういう家庭なのかな」と思いがちです。里親に話しにくいことがあったり、里親家庭を出たあとに孤立してしまったり……。子ども同士、里親同士で支え合う体制が必要だと考えました。
長田:私も乳児院に勤めるなかで里親家庭の支援をしています。いま、多くの乳児院や児童養護施設、NPO法人など民間団体がフォスタリング機関として里親支援を担うようになってきています。
里親になってもらう、里親を支える支援のほかに、養育里親から巣立った子どものサポートも始めていて、里親向けの地域支援もたくさんあります。ヒントがほしいときなど、伴走してくれる支援団体を利用してもらえるといいなと思います。
林:長田さんがおっしゃったように、里親さんが活用できるサポートをしっかり活用して、地域とともに子育てに取り組んでいく、子育てをできるだけ開いて他者とつながるという考え方が重要かと思います。
家庭を基盤にしながらも、地域で育つということが子どもの成長・発達にとって大切です。それを具体化してくれる支援として、委託されているお子さんを一時的に他の家庭や施設で預かってもらう「レスパイトケア」があります。里親と子どもがお互いに離れ合う時間をつくる、というのも大切なことなのではないでしょうか。
――最後に、里親の輪を広げていくために、里親制度に関心を寄せる皆さんへメッセージをいただけますか。
野口(啓):里親を始めて20年経ち、一番上の女の子は30歳。「じいじ」と呼んでくれる孫もいます。「里親をしなかったら、こんなことはなかったな。よかったな」と、ふとしたときに思います。
野口(婦): 里親に関心があっても不安なのは当然だと思います。週末里親で短期間だけかかわったり、ボランティアでかかわったり、いまの生活スタイルで何ができるか、一歩踏み出して動いていきながら探していってもらえたらいいかなと思います。
長田:子どもたちのことを、地域の皆さんが「知っているよ」と言ってくれることも支えになります。一日でも、十何年もの長期間にわたっても養育を必要とする子どもたちがいて、さまざまなニーズがあります。里親さんはじめ、たくさんの協力してくださる方が必要なので、一緒に取り組んでいけるといいなと思います。
林:「社会的養護」の「社会」のなかには国民一人ひとりが含まれています。一人ひとりが当事者意識を持って何をできるか、多様な貢献のあり方について私も皆さんと一緒に考えていきたいです。