「5類」化で医療現場が直面している不安(倉原優) – 個人 – Yahoo!ニュース
ゴールデンウィーク明けの5月8日から、新型コロナは5類感染症へ移行します。これは決定事項ですから、私たち医療従事者もそれに備えていますが、医療現場としては不安な点がいくつか残っています。
足元で増加している感染者数
報道されているように、3か月ぶりに感染者数の増加を記録している地域が多くなってきました(図1)。東京都の検査陽性率も再び10%を超えました(図2)。
間接的指標として下水サーベイランスが有効ですが、札幌市の下水中の新型コロナウイルスサーベイランスでも、足元のウイルス量が増えています(図3)。
日ごとの感染者数が分からなくなる
足元でじわじわと増加しているさなか、「5類」化以降、日ごとの感染者数が分からなくなることに、不安を感じています。定点医療機関から週1回報告する仕組みに変更されるためです。
たとえるなら、徒競走中に突然目隠しされるような状態です。医療現場として、流行をリアルタイムで把握できないストレスは大きいです。
週ごとの流行は把握できますが、波の察知が遅れるかもしれません。入院患者数はしばらく毎日報告されますが、医療逼迫の先行指標にはなりません。
入院キャパシティは増えない?
これまでは「新型インフルエンザ等感染症」として、行政の要請に応じてコロナ病床を各病院で一定数確保してきました。しかし、「5類」移行後は、お願いベースの確保となります。
すでに、大学病院の新型コロナ病床は、廃止あるいは縮小したところが全体の約半数にのぼっています(4)。この理由の1つに、診療報酬の特例加算が半減されることが挙げられます。
この議論になると「お金儲けのために診療しているのか」と揶揄されがちですが、診れば診るほど赤字になるようでは、そもそも病院の経営が成り立ちません。
今後、幅広い医療機関で受け入れることになりますが、1医療機関あたりの新型コロナ用病床数を減らすと、たとえ診療可能な医療機関数が増えても、「5類」移行前の入院キャパシティすら下回る可能性があります。
一般病床で受け入れるのが理想形ですが、インフルエンザより感染性が高いため、現在入院している患者さんにできるだけ新型コロナを感染させたくないというのが医療機関の本音です。
大事なことなので繰り返します。現在入院している患者さんにできるだけ感染させたくないのです。
検査の公費負担がなくなる
全国医学部長病院長会議では、検査の公費負担について問題を指摘しています(4)。無症状者に対する街中の検査は有料化でよいと思いますが、病院の都合で検査する場合でも公費負担はなくなる予定です。
たとえば、病棟内で複数の陽性者が発生した場合、これまでは同室者の検査を公費負担で実施してきましたが、今後、費用は病院からの持ち出しとなってしまう可能性があります。その他、手術前や入院時のスクリーニング検査にも公費負担は適用されなくなる見通しです。
防波堤的に用いられてきた検査が減ることで、全国的に院内クラスターが問題になるかもしれません。
医療機関での療養期間が定められていない
「5類」化以降は、「発症翌日から5日間の外出自粛が推奨される」という形になっています(図4)。これは、法的なしばりがあるわけではありません。
しかし、医療従事者や入院患者さんにも「5日間」基準が妥当かは不明で、実のところ各医療機関の判断に委ねられています。日本環境感染学会も「医療従事者が感染した場合の休業期間の短縮は推奨できません」と明記しています(5)。
なので、現時点で全国的に足並みがまだそろっていません。
現在、各医療機関は外部の病院から情報を集めながら、「職員が陽性の場合、このくらいの療養期間でどうだろう」という擦り合わせをおこなっています。
まとめ
「5類」感染症に移行する際、色々な部分をダウングレードしていく形でよいのですが、現場目線の意見をもう少し上手に汲み上げてもらいながら引き算してもらえれば、と思っています。
(参考)
(1) データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(URL:https://covid19.mhlw.go.jp/)
(2) 東京都の検査陽性率(URL:https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/cards/positive-rate/)
(3) 札幌市下水サーベイランス(URL:https://www.city.sapporo.jp/gesui/surveillance.html)
(4) 全国医学部長病院長会議. 第1回定例記者会見2023(令和5)年4月28日(金)16:45~(URL:https://ajmc.jp/news/2023/04/28/5266/)
(5) 新型コロナウイルス感染症の5類移行後の医療機関の対応について(URL:http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=503)