NPO法人 Dカフェnetでは、東京都の目黒区を中心に10ヵ所の特徴ある「Dカフェ」を運営しています。
母親の介護を通じて得た実感から、地域で誰もが平等に語り合える「Dカフェ」のコンセプトに行き着いたという代表の竹内弘道氏に、前編ではその活動に至る経緯や「Dカフェ」のコンセプトの中身を詳しくお聞きしました。
後編では引き続き、悩みや課題を解決していくための具体的な道筋や、同NPO法人が重視する広報活動についてお聞きします。
語り合った先の問題解決のために、医療・介護の支援をサポートするネットワークが充実
Q:実際に、悩みの解決など、どうやって行われていくのでしょうか。
A:10ヵ所ある「Dカフェ」の中で、ニーズに合わせてというだけでなく、何となく好きというところに自由に行けます。選択肢があるから選べるし、行きやすいでしょう。皆さん、2カ所、3カ所と参加されています。
そして、課題解決のためのネットワークが「Dカフェ」にはあります。医療面ではまず、認知症疾患医療センター(世田谷・渋谷・目黒区基幹型=都立松沢病院 目黒区地域型=三宿病院 渋谷区地域型=東京女子医大成人センター)との連携。三宿病院では「Dカフェ・せらぴあ」を開催しています。次に目黒区および周辺医療機関との連携。
目黒区には5つの総合病院があり、内3病院でDカフェをやっています。カフェから5大病院、地域のクリニック、在宅療養診療所というネットワークが機能しています。
そして、介護事業者連絡会・区役所の健康福祉部・地域包括支援センター・保健所・民生委員の方とも同様にさせていただいています。
その他の広がりとして、東京都の福祉保健局、東京都若年性認知症総合支援センター(目黒区碑文谷)とも常に情報交流しています。さらに、全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会という、北海道から沖縄まで支部のある家族会のグループともつながっています。
これは、例えば三重県の親御さんが、どうやら認知症かもしれないといった時に、現地の地域包括支援センターに相談に行きなさいと言うだけでなく、三重県に私たちの仲間のこういう支援者がいるから相談してみてくださいと、つなげることができるわけです。まだ緩やかな関係ですが、日本全体の課題解決には重要なことですので、この関係性もより深めていきたいと思っています。
また、これらのネットワークの中で、必要に応じてカンファレンスも行っています。
今、介護は課題が多重・多層化しており、子育てや障がいの問題とも重なりますが、関わる人が皆で考えることが大切となっています。そのためのネットワークがかなり組めるようになり、ここまで来ました。
目黒区の要介護認定者1万人に、生きた情報を届ける
Q:NPO法人としての活動について、教えてください。
A: NPO法人メンバーは認知症介護の経験者及び現役介護者を中心に、専門職であるケアマネジャー・訪問看護師・医師、そして一般市民などです。数人でチームを組んで、10ヵ所の「Dカフェ」を裏方として支える形ができています。
これまでは「Dカフェ」の新規開設で走って設置きましたが、今後はそれぞれのカフェの質を高めることがメインテーマになります。NPO本部としては、分厚く広範なバックアップ体制と、人材育成が課題となります。 情報流通の中核となるのが、「でぃめんしあ」という認知症情報誌です。
年2回、1万部発行しています。区の施設や介護事業所、病院・クリニック、歯科医院、調剤薬局など770ヵ所ほどに設置しています。1万という部数は、目黒区の要介護認定者の数に近く、その方たちに行き届くようにと願ってのものです。訪問ソーシャルワーカーや民生委員などによる「くちコミネット」も機能しています。
彼らが常に携帯し、認知症や介護の相談を受けた際に、直接お渡ししています。これにより、閉じこもりがちな介護家族に行き渡ることを目指しているのです。
Q:「でぃめんしあ」には、どのような情報が載っているのですか。
A:全32ページの内、最も重要なのは、センター見開きにある、「めぐろ認知症サポートマップ」です。
10ヵ所の「Dカフェ」に加え、3つの家族会、地域包括支援センターが運営する5つの介護者の会について、どこでいつ開かれているかを載せています。具体的なスケジュールが分かる半年分の開催カレンダーもあるので、行動に起こしやすいでしょう。また、目黒区民が利用できる2つの認知症医療疾患センターについても、そこでできることとともにセンター長の方のイラストも掲載して、親しみやすいように紹介しています。この見開きページだけでも外して、お手元で便利に使っていただきたいですね。
ほかに、10ヵ所の「Dカフェ」をそれぞれの様子が分かるように写真入りで紹介しています。アロマやマッサージを行っているところ、作業療法士の指導で小物づくりを楽しめるところなど、それぞれに個性がありますし、さらに認知症や訪問診療の専門医師や、現場に通じた専門職、中には司法書士といった頼れる方々をゲストスピーカーとした学習交流の開催情報も分かるようになっています。このような認知症に関わる、生きた情報を掲載するように心を注いでいます。
そのほか、当NPO法人が出した『認知症の人と家族のための「地元で暮らす」ガイドブックQ&A』(メディカ出版)を監修していただいた、松沢病院の新里和弘医師によるハウツー連載や、認知症カフェジャーナリストによる全国のレポート、そして「Dカフェ」の現場で頼れる専門職一人ひとりの思いと活動内容に迫るページもあります。全体として心掛けているのは、笑顔や表情の見える写真をたくさん載せることです。医療・介護の現場では「顔の見える関係」というものが近年重視されています。
これらの情報を受け取ってもらいたい、認知症の方本人やご家族、そして認知症に関心のある多くの方々に、より身近に感じていただくためにも「顔が分かること」は大事なことなのだと思っています。
自分事として認知症を考えることで、家族や身近な人と語り合い、意志を固めておきたい
Q:現在の認知症や介護、超高齢社会に対する考えをお聞かせください。
A:テレビや本、インターネットで見かける情報で、認知症について過剰に受け取られているのではないでしょうか。
100歳まで生きることも珍しくなくなった時代において、加齢に従って、心身ともに「衰える」ことは自然なことと言えるでしょう。また、認知症は、薬が色々と開発されてはいますが、症状を緩やかに抑えられるかどうかといったものです。薬剤に過敏なタイプの認知症もありますから気を付けないと・・・。大事なのは正しい情報を直接得ることであり、「Dカフェ」のように多様な人たちが平等に触れ合え、情報を共有できる場所に、ぜひ行ってみてもらいたいですね。
当事者だけでまとまるのではなく、開かれた場で交流できることが、精神面も含めて現実的な悩みの解決につながるのだと思います。日本では家族の関係性が徐々に薄れ、今や食事も家族全員でとることが少なくなっています。
だからこそ、近所の方や地域の専門職などの助けが得られる仕組みや環境が大切で、擬似家族のようなものを再構築する時が来ているのではないでしょうか。
認知症を特別なものと思わないことが大切だと思います。誰もが加齢により自分事となるのです。
もし認知症になった場合、自分はどう生きたいか、いざというときの医療処置はどこまで受けるのか、そのような話を家族や身近な人と一緒に、早い段階からしておくべきでしょう。「Dカフェ」というのは、そうしたテーマで話せる場とも言え、認知症ということをきっかけに、当事者だけでなく多くの人たちが語り合い、聴いて、考え始めることができればと思います。
Q:今後の展望についてお聞きします。
A:当NPO法人は、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題を意識し、早く「Dカフェ」を数多く展開できる環境整備がしたくて全力で走ってきました。今は10ヵ所を設置することができ、若いメンバーも増えましたので、彼らには次の世代の課題としてさらなるモデルの開発や改善に取り組んでいってもらいたいですね。
認知症の症状は十人十色、100人いれば100通りですから、「Dカフェ」のあり方ももっと多様で良いでしょう。一つひとつの規模はあえてこじんまりとしておくべきと思いますが、活発さだけでなく静けさを追求する「Dカフェ」があっても良いのです。いろいろとエッジの効いたスタイルを考えていければ面白いですよ。認知症は他人事ではなく、自分事です。
どうしたいかを皆で考えていきませんか。
(プロフィール)
NPO法人Dカフェまちづくりネットワーク代表 目黒認知症家族会たけのこ代表
竹内 弘道
早稲田大学第一商学部卒業後、メーカーやマーケティング事務所などを経て、40歳で独立。フリーランスのマーケティング・プランニングを生業としつつ、舞台芸術また民俗文化などの活動にも従事。1980年代より20数年間は母親の認知症と並走。2000年春からは24時間介護。2011年、家で98歳の母親を見送る。2012年7月より、自宅を開放し認知症カフェ「Dカフェ・ラミヨ」を開催。2014年NPO法人Dカフェまちづくりネットワーク(略称:Dカフェnet)設立。目黒区内に認知症カフェを多拠点展開する事業に取り組む。2019年4月現在「Dカフェ」は10ヵ所。著書に『認知症の人と家族のための「地元で暮らす」ガイドブックQ&A』(2018年、メディカ出版刊)がある。